亮平 15
あっさりする程早く忍の入院が決まった。かなり精神の病が悪化していたらしく、すぐに入院するべきでしょうと主治医となった男性医師に言われたからだ。そしてそんな医師に忍はすっかり夢中になっているのがやるせなかった。挙句の果てに今度は進だと思い込んでしまったのだった―。
入院が決まった連絡を鈴音にメールで入れた。鈴音からの返信は19時を過ぎていた。
『お姉ちゃんの入院の話、詳しく聞きたいから都合がいい時、メール頂戴。』
意外と冷静なメールの内容を見て俺は理解した。ああ、そう言えば…忍の頭がおかしくなっている事、鈴音はとっくに分っていたんだっけな…。
そして俺は鈴音に電話を掛けた―。
****
鈴音との電話を切った後、俺は自分が泣いていることに気が付いた。
「え?俺…何で泣いていたんだっけ?」
確か忍が入院した事を報告する為に鈴音に電話を入れて…そして忍の事を話しているうちに…。
「あ…!」
徐々に記憶が蘇って来る。
そうだった。俺は自分が忍に捨てられてしまうかと言って情けない事に鈴音の前で泣いていたんだ。そしてそんな俺を鈴音が慰めてくれて…。
「う、嘘だろ~っ!!」
気付けば頭を抱えて叫んでいた。そんなバカな!俺は…忍が怖くなって…忍に対する恋心がいつの間にか薄れていき…その反面、鈴音に恋心を抱くようにうなっていたはずじゃないか!それなのに俺は鈴音の前でとんでもない醜態を晒してしまった。しかも心にもない事を口走って…。
「ま、まずい…。俺も頭がおかしくなってきているのか…?」
ベッドの上で頭を抱え込みながらポツリと呟いた―。
****
忍が入院して何日かが過ぎていき…鈴音がその間実家に戻って来る事になった。この事を提案したのは母さんで鈴音の食事管理をしたいからと言うのが一番の理由だった。確かに今の鈴音はガリガリのやせっぽちになってしまったからな…。
そして今、俺は母さんに言われて鈴音を千駄ヶ谷の駅に迎えに来ていた。
「鈴音…早く来ないかな…」
駅の改札で鈴音を待つ俺の心はバカみたいに弾んでいた。たかだか幼馴染を待っているだけなのに何故俺はこんなに胸を高鳴らせているんだ?自分で自分の気持ちが最近分らなくなってきている。
やがてぞろぞろと出て来る人込みに紛れながら小さな鈴音が現れた。
「鈴音ーっ!」
気付けば俺は嬉しそうに笑顔で鈴音に手を振っていた―。
車の中で鈴音は何か物言いたげな雰囲気でこちらを見ている。そこでいくつか会話をし、俺はコンビニの駐車場に車を止めた。鈴音と本格的に話をする為に。
「鈴音、お前…何か忍の事について重大な事を知ってるんじゃないのか?」
しかし、それでも鈴音はなかなか口を割ろうとしない。
「黙っていないで答えろ。俺と忍は恋人同士なんだ。いずれ…結婚だってするつもりだ」
またもや勝手に俺の口が…!俺は鈴音の前で忍を恋人と言いたくないのに…っ!
鈴音はビクリと肩を震わせて、一瞬泣きそうな目で俺を見ると言った。
「あ、あのね‥。先生に聞いたんだけど、私とお姉ちゃんは血が繋がっていなかったの。お姉ちゃん、私が生まれてくる前にお父さんとお母さんにもらわれてきたんだって…」
その言葉は…俺に衝撃を与えた。何だよ、それ…ひょっとすると忍は自分が養子だったから鈴音に嫉妬して…嫌がらせをしていたのか?俺は忍に嫌悪感を感じずにはいられれなかった。それなのに、相変わらず俺の口からは思っていることと正反対の言葉が出てきてしまう。何が唯一無二の…大切な存在だからな。だ。俺はむしろ…鈴音のほうが大事だと思っているのに…。
怖い。
目に見えない糸で操らているかのような錯覚に陥ってしまう。
鈴音…俺を助けてくれ…。
だが、俺は知らなかった。鈴音がこの時、どれほど深く心が傷つけられていたかという事実に―。
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