亮平 14

 翌朝、俺は母さんから大量のお惣菜を持たされて意気揚々と鈴音の住むマンションを訪ねた。

う〜…それにしても寒いっ!震えながら鈴音のマンションのインターホンを押すとすぐに俺を迎え入れてくれた。鈴音の返事もろくに聞かず、部屋の中に上がり込むと紙袋をテーブルの上にドサリと置く。


「ね、ねぇ…何?この紙袋は?」


鈴音は目を白黒させながら尋ねてきた。


「うん?これは差し入れだ」


「差し入れ?」


上着をハンガーに掛けて床に座って、テレビを付けた所で鈴音の歓喜の声が聞こえてきた。フフン。驚いているな?そりゃそうだ。母さんが鈴音の為にと言って大量のお惣菜をタッパに詰めていたからな。…重くてたまらなかった。

背後で鈴音が驚きながらタッパを冷凍庫にしまう音を聞きながら、俺は穏やかな気持ちになっていた。…忍といても心が休まらないのに、鈴音とだったら何時間でも一緒にいられるな…。


その時―。


「はい、コーヒー淹れたよ。ちょっと待ってて。今何か食べ物出すから」


目の前のテーブルに湯気の立つコーヒーが入ったマグカップが置かれ、鈴音がまた立とうとした。鈴音と話がしたかった俺は呼び止めると向かい側に座らせ、まじまじと鈴音を見た。


「…」


あの男との同棲?同居をやめたせいなのか…?また随分痩せてしまった鈴音が心配になってきた。


「鈴音…お前、本当にちゃんと食ってるのか?去年忍と一緒に住んでいた時と比べて、えらく体形が変わってしまったじゃないか」


「あ、ありがとう。心配…してくれているんだよね?」


鈴音が笑みを浮かべて俺を見る。


「ああ、そんなの当然だろう?」


当たり前だろう?お前は俺にとって大切な存在なんだから…。それなのに再び俺の口は勝手に言葉を紡ぎ出す。


「全く…忍が調子悪いって言うのに鈴音まで具合悪くしたらいざって時に忍に何かあったら俺一人じゃ対処できないかもしれないじゃないか。だからさ、鈴音はちゃんと体調管理しておけよ?」


その言葉に笑顔だった鈴音の顔が凍りついた。いや、鈴音だけじゃない。俺だって思ってもいないことを口走って驚いている。だ、駄目だ…。俺は本当にお前が心配なんだよっ!あ、謝らないと…。


「今日は俺と一緒に忍を連れていく病院を2人で探そう」


それなのに俺の口から出てきたのはこの言葉だった―。



****


 夕方―


「はぁ〜…」


鈴音のマンションを出た俺は深い溜め息が出てしまった。結局明日、俺は忍を連れて1人で病院へ行かなくてはならなくなった。俺は忍とは赤の他人なのに…。その時、ふと鈴音の言葉が蘇ってきた。


『婚約者だってことにしちゃえばいいじゃない』


鈴音…本当にそう思ってるのかよ…?何気なく言った言葉だったのかもしれないが、あの言葉が鈴音の口から出てきたときには心臓がえぐられそうな痛みが走った。


やっぱり…お前にとって俺はただの幼馴染でしかないのか…?何故かは分からないけど以前はあんなに忍の事を恋い焦がれ、鈴音の事は色気も何もないただの幼馴染としてしか見ることが出来なかったのに…今は幼馴染以上の感情が湧き上がってきている。


ひょっとすると…俺は鈴音に恋をしているのかもしれない―。


鈴音は…俺の事をどう思っているんだ…?


その時…。



トゥルルル…


スマホから着信音が流れてきた。まさか、鈴音か?急いでスマホを取り出すも期待は外れ、相手は忍からだった。


やれやれ…。また俺は忍のヒステリーにつきあわされるのか。明日は1人で忍を病院に連れて行かなければならないのだから今日くらいは放って置いて欲しかったのに。



俺はため息を付きながら…憂鬱な気持ちでスマホをタップした―。



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