本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

亮平 6

　俺は浮かれていた。鈴音とはまた会えるようになったし、忍はちゃんと鈴音の事を覚えていた。これで条件は揃った。鈴音は忍が自分の事を覚えていれば、もう一度会う事を考えてくれると言ったんだ。俺は浮かれながら鈴音に電話をした。

何コール目かで鈴音は電話に出てくれた。俺は必死になって鈴音を説得しているのに、なぜか上の空で話を聞いているのが分った。何だよ…！こんなに必死になってお前に話しかけているのに…！

「おい、鈴音。俺の話…聞いてるのかよっ？！」

まただ、またいつもの悪い癖が出てしまった。いつも冷静に話そうと思っているのに…何故か俺は気付けば鈴音に対して威圧的な態度を取ってしまっている。本当は優しくしてやりたいのに…何故、俺は…。

その時―。

『もしもし…話なら俺が彼女の代わりに聞くぞ？』

怒気を含んだ男の声が聞こえて来た。

この声は…！何であいつが鈴音の電話に出るんだよっ！気付けば俺は声を荒げていた。

「おい、その声…聞き覚えがあるぞ？まさかお前、この間も俺と鈴音の電話に勝手に出た奴じゃないか？家までタクシーで鈴音を送って…挙句に鈴音にキスしてた男だろう？」

あの時の事を思うと、激しい怒りを覚える。そうだ…俺はあの時、あいつの痕跡を消してやろうと、幼馴染の鈴音にとんでもないことをしようと考えていたんだ。

男は俺の嫉妬に気付いたのか、覗き見していたのかと挑発してきやがった。

うるさい！それ以上俺に話しかけるな…！

お前の声を聞いているだけではらわたが煮えくり返って来る。

「鈴音を…鈴音を出せっ！」

気付けば俺は電話越しに怒鳴りつけていた。するとそれから少しの間があって、鈴音の声が聞こえて来た。

『もしもし…。』

「鈴音っ！誰だ、今の男はっ？！」

いや、正体なんか分り切っていた。ただ…鈴音の口から聞きたかったが、鈴音は怒鳴らないでと懇願するばかりだ。そんな態度に俺の怒りはピークに達し…次の瞬間、ある事に気が付いた。ま、まさか…？一緒に住んでいるのか？その男は恋人なのか？

しかし、問い詰めると相手の男は恋人ではない。なのに一緒に暮らしていると言ってきたのだ。だが、よくよく聞いてみると以前は恋人同士だったと言う。

何だよ、それ…鈴音は馬鹿なんじゃないか？何所の世界に元カノと暮らす男がいるんだよ。よりを戻したくて一緒に暮らしているに決まっているじゃないか。鈴音は分っていないのか？自分が異性からどれだけ魅力的に見えているのか？現にあいつと一緒にいるとよく分る。すれ違う男たちが…店の中にいると鈴音に集まる視線が…あいつは全く気付いていない。だからこそ、俺は…悪い虫がつかない様に鈴音の傍に張り付いていたのに、鈴音は俺の知らない処で恋人を作って…別れていた。それがさっきの男なのか？

　このまま２人を同じ部屋で暮らす事を容認するわけにはいかない。鈴音の事だ。その場の雰囲気に流されて、またヨリを戻してしまうかもしれない。そんなのは絶対に認められない。俺は必死で鈴音を説得した。すると…。

『分かったよ…。亮平。近いうちに…私、このマンションを出るから…」

「そうか。鈴音…ようやくその男から離れる決心がついたんだな？良かった。それで、そのマンションを出たらすぐに家に戻るんだろう？」

俺は急かすように鈴音に尋ねた。なのに、鈴音はその話を激しく拒絶したのだ。いつもわりと穏やかな鈴音が声を荒げたのは少し驚いた。でも、何故そんな事を言い出すのか俺にはさっぱり理解出来なかった。何故なら俺は忍と結婚したらあの家で３人で暮らそうと思っていたからだ。だから俺は自分の気持ちを鈴音に伝えた。

『亮平…今の話…本当なの…？』

鈴音が尋ねて来た。

「ああ、そうだけど？俺は忍と結婚したらお前たちの家で暮らすつもりでいたんだから。」

俺の口は自分の意思とは無関係にぺらぺらと話している。え…？結婚？俺が…忍と？自分で言った言葉なのに、まるで誰かに無理やり言わされているような違和感を感じる。大体、忍と夫婦になることがまず想像出来なかった。

　鈴音は俺の話をどうとったのかは分からないが、俺に少し考させて欲しいと言って来た。また掛けなおすと…。

ああ、俺はお前の電話なら…ずっと待つさ。

そして、鈴音は約束した通り、俺に電話を掛けて来た。

しかも、よりにもよって最悪なタイミングで―。