第20章 14 幼馴染だから
「ほら、鈴音。今夜は奢りだ、好きなもの頼めよ」
亮平と一緒に入った店は焼き鳥屋さんだった。焼き鳥屋さん…何故亮平は今夜に限ってこの店をチョイスするのだろう?どうあっても直人さんを思い出してしまう。
私がぼんやりしていると亮平が目の前で手の平をヒラヒラと振った。
「おい、大丈夫か?鈴音。なんかぼんやりしてるぞ?」
「え?そ、そんな事無いよ。それじゃ…ねぎまとつくね…鳥手羽に軟骨、 ぼんじり、飲み物は梅チューハイで」
「何だ?それなら焼き鳥の盛り合わせにしたほうがいいだろう」
亮平は好きなものを頼んでいいと言ったくせに、勝手に注文を変えてしまった。
「う〜…何よ。好きなの頼んでいいって言ってた癖に…」
「おいおい、そんな恨めしそうな目で見るなよ。いいじゃないか、別に何でも。えっとそれじゃ俺は鳥の唐揚げにフライドポテト…そうだ、サラダも頼んだほうがいいな。後は…」
亮平がメニューを頼んでいる間、私は直人さんの事をぼんやり考えていた。恵利さんとどんな式を挙げたんだろう…。
「おい、鈴音。ま〜たぼんやりしてるな?大丈夫か?もうすぐ飲み物来るから待ってろ」
「え?いつの間に頼んだのよ?」
「たった今頼んだぞ?」
見ると亮平の手には注文用のタブレットが握りしめられていた。ああ…それで頼んだのか。
「おいおい…大丈夫かよ…本当に…全くこれだから目が離せないんだよ。お前は」
亮平がため息を付きながら言う。
「何言ってんのよ。同じ24歳でしょう?子供扱いしないでよね」
そこまで話した時、私と亮平の前に飲み物と料理が運ばれてきた。
「うわ〜…おいしそう!」
できたての焼鳥からは湯気と肉汁がしたたっている。
「ほら、鈴音はタレよりも塩味だろう?」
亮平が注文したのは焼鳥の盛り合わせの塩味だった。
「え?わざわざ塩味頼んでくれたんだ」
「まぁな、バレンタインに手作りケーキ貰ってるしな」
亮平はタレ味のほうが好きなのに…。
「そう、ありがと」
私は早速ねぎまに手を伸ばしてフォークで串から取り外していると亮平が言った。
「何だ〜?まだそんなチマチマした食べ方してんのか?串ごと食べろよ」
「え〜でも…」
人前でそんな食べ方恥ずかしい。
「何だよ?一緒にいるのは俺なんだから別に気を使うことはないだろう?」
「分かったよ」
もうどうでもいいや。私はそのまま串から焼き鳥を食べることにした。塩味の効いた焼き鳥はお肉も柔らかくて最高だった。
「…美味しい」
「な?だろ〜?やっぱり串から食べた方が旨く感じるだろう?」
亮平は何故か普段はあまり頼まない度数の強い焼酎を急ピッチで飲んでいる。
珍しいな…?
「うん…そうかもね。相手は亮平だしね」
適当に相槌を打ちながら私梅酒を飲んだ。
「…」
すると何故か亮平はじっと私を見つめている。
「な、何よ?」
そのままぼんじりに手を伸ばして食べていると亮平が言った。
「なぁ…鈴音」
「何?」
「俺たちも…一緒に…。…結婚…するか?」
「は?」
亮平は何を言っているのだろう?ああ…きっと度数の強いお酒のせいでもう酔が回っているんだ。ひょっとして一緒にダブルで式を挙げようとでも言ってるのかな?
「何言ってるのよ。亮平はお姉ちゃんていう結婚相手がいるだろうけど、私はつきあってる人もいない、お一人様なのは知ってるでしょう?大体…今日は直人さんの結婚式だったんだから…」
ため息を付きながら言う。
「…やっぱりまだ川口の事忘れられていなかったんだな…」
「それは…そうだよ…だって、あんな別れ方したんだもの…」
「そうか、分かったよ。鈴音の気持ちは。結局そうなるか…」
「亮平…?どうかしたの?」
すると亮平は言った。
「ほら、そんな事より折角の焼き鳥が冷めるだろう?早く食べろよ」
「う、うん…」
亮平に促され、私は言われるまま焼き鳥に手を伸ばした。
「お前は…俺が幸せにしてやるよ。幼馴染だからな?」
亮平は私に笑いながら言った。
「う、うん…?」
亮平は一体何を言いたいのだろう…?何故かこれ以上問い詰めては行けないような雰囲気だったから、私は黙って梅酒を口に入れた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます