第18章 12 中学時代の思い出

「ほい、お待たせ」


亮平が2人分のお酒を持って戻ってきた。


トン

トン


それぞれの前にお酒を置くと、再び私の向かい側の席に座った。


「よし、飲むか」


「うん」


亮平は早速グラスを持ち、グイッとハイボールを飲むと言った。


「うん!やっぱり美味いな〜。なぁ、鈴音。今度一緒に居酒屋また行こうぜ。勿論忍も一緒にな」


「うん…そうだね。でも私…邪魔じゃないかな?亮平とお姉ちゃんの」


ゆずサワーを飲むとテーブルの上にトンと置いた。


カラン


グラスの中で炭酸の泡をまとった氷が揺れる。


「そんなわけ無いだろ。お前を邪魔に思うわけ無いじゃないか」


亮平がしんみり言う。


「うん…ありがと、それで亮平」


改めて亮平に向き直った。


「何だよ」


ハイボールを飲んでいる亮平が返事をする。


「さっきの話の続き教えてよ。こうして言われたとおりお酒も飲んだんだから」


「ああ…俺が職場の女と付き合っていたって話か?」


亮平がマドラーでカラカラとハイボールのグラスを混ぜながら頬杖をついた。


「うん、そうだよ」


「ふ〜ん…」


再び亮平はグラスを傾けると、ぽつりぽつりと話し始めた。


「俺が少しの間付き合っていたのは内定が決まってからさ。元は内定者の懇親会で知り合ったんだよ。内定者だけ集めて社内で飲み会があったんだよ。それでたまたま俺の隣に座ったのがきっかけさ」


「へ〜そうなんだ」


「何となく気があって、向こうから告白してきたんだよ。俺は付き合う気は無かったけど…お試しでも何でも良いからって付き合ってくれって言うから…」


「それで付き合い始めたんだ」


「ああ、まあな」


亮平はもう一度グイッとハイボールを飲むとグラスを置いた。


「…亮平は中学生の時からモテていたもんね」


頬杖を付きながら言うと、亮平が言った。


「何言ってんだよ。他人事のように…それを言うなら鈴音の方がモテてただろ?」


「嘘!いつ私が?!」


驚いた。亮平がそんな風に思っていたなんて。


「全く相変わらずお前は鈍いんだな。知らなかったのか?中学生の時…クラス中の男がお前の事好きだったんだぜ?」


「嘘だよ、そんなの。だってモテた記憶全く無いもの。告白だって…あ、1、2回はあったかもしれないけど…」


「それは当然だろう?俺が阻止してたからな」


「え…?何でそんな真似を…?」


さっぱり理解出来なかった。


「それはお前が変な男に引っかからないようにする為さ。忍からも鈴音を変な男から守ってくれって言われてたし…」


「え?お姉ちゃんがそんな事言ってたの?一体どうして…」


そこまで言いかけて私は口を閉ざした。そっか…この頃は既に亮平はお姉ちゃんに暗示をかけられていたんだ…。


「なぁ、それよりどんどん話がずれていってるぞ?俺の話を聞きたいんじゃなかったのか?」


亮平がメニュー表を見ながら言う。


「う、うん。そうだけど…ってまだ何か飲むつもりなの?」


「まだって2杯しか飲んでないぞ?せめて後1杯は飲んで帰るからな。う〜ん…よし、ウィスキーダブルにするか。鈴音は?」


「え…?私もまだ飲むの?」


「たまになんだから付き合えよ」


「う〜ん…それじゃグレープフルーツサワーにするよ」


「ほんと、酸味のアルコールばかり頼むんだな。それじゃ行ってくるわ」


再び、亮平は席を立って行った。


その時…


トゥルルルル…

トゥルルルル…


傍らに置いてあったスマホが突然鳴った。


「まさかお姉ちゃんから?帰りが遅いって心配して掛けてきたのかな…?」


スマホを手繰り寄せ、着信相手を見た。


相手は井上君からだった―。

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