第15章 13 亮平からの要件
自分のマンションに帰るとまずはシャワーを浴びることにした。服を脱いで自分の身体に川口さんが使っているオーデコロンの匂いが染みついている事に気が付き、又そこで赤面してしまった。
シャワーを頭から浴びて、昨夜の痕跡を全て消すように身体を洗い終えてバスルームから出ると、すぐに洗濯物を回し始めた。そう言えば今何時なんだろう…?
朝から刺激の強すぎる事ばかり起こったので時間を気にする事を忘れていた。そこで時計を見るとまだ時刻は6時半だった。
「え?こんなに早い時間だったの?」
改めてスマホを見ると、亮平からの電話とメールの着信は22時から始まって0時で終わっている。そして5時にまた着信が入っていた。電話もメールも10件ずつ入っている。
「一体、何の用なのよ…」
溜息をつきながらメールを表示させると、用件は簡単なものだった。
『鈴音、今何してるんだ?連絡をくれ』
全部同じ内容のメールだった。
「全く相変わらず手抜のメールなんだから…」
だけど私は自分からメールも電話もするのもやめることにした。何となくこれは勘だけど、大した用では無い気がしたから。
スマホをテーブルに乗せると、すぐに着信が入ってきた。まさか…また亮平から?
けれども着信相手は川口さんからだった。
「もしもし?」
『鈴音、洗濯は終わった?』
まだ川口さんから鈴音と呼ばれることに慣れていない為、何となくくすぐったい気持ちになりながら答えた。
「まだだよ。後40分くらいかかるかな?」
『40分か…』
川口さんがため息をついて言う。
「どうしたの?」
『いや…早く鈴音に会いたいのに、まだ40分もかかるって言われたからさ。』
「!」
まただ…川口さんはそうやって恥ずかしげも無く、甘い言葉を言ってくる。
「あ、あの…干し終えたらすぐに行くから」
『うん、待ってる。朝ごはん用意しておくから、何も食べないでおいで』
「う、うん」
『それじゃまた後で』
そして川口さんから電話が切れた直後に亮平から着信が入って来た。
「亮平…」
だけど電話に出ないわけにはいかない。
「もしもし…」
『鈴音!昨夜…何してたんだよ!』
電話に出た途端、亮平のイラついた声が聞こえてくる。
「な、何って…べ、別に普通に過ごしていたけど?」
そんな事応えられるはずがない。
『何だよ、その普通って』
「ふ、普通は普通だよ。第一何で一々亮平に私の行動を報告しないといけないわけ?」
『お前、俺が昨夜から何度もスマホにメールや電話を入れてたの知らなかっただろう?それとも知っていながら無視していたのか?』
「無視していたはずないでしょう!」
思わず、口が滑ってしまった。
『そうか…やっぱりな』
「な、何よ。やっぱりって」
『川口と一緒にいたんじゃないのか?それについさっき連絡入れたら話し中だったぞ。相手は川口か?』
「ねえ…亮平。そんな話をする為に電話してきたわけじゃないでしょう?要件は何?」
『ああ、俺の車にPASMOのカード忘れてたぞ?だからそれで電話入れてたんだ。届けに行こうか?今日は仕事か?』
え…?そんなことぐらいであんなに電話とメールを入れていたわけ?以前の亮平だったら絶対にそんな事しないのに。
「今日は仕事休みだよ。だからカードは使わないから大丈夫。」
『何?日曜日なのに休みなのか?なら今から届けに行くよ。今日はどうせ家にいるんだろう?』
こっちに来るなんて冗談じゃない。これから川口さんと会うのに。
「いいよ。わざわざ届けに来なくても。お姉ちゃんに預けて置いて。そうしたら今日もお姉ちゃんと会える口実が出来るじゃない。その内またそっちの家に行くから。」
『鈴音…お前…』
「何?お姉ちゃんに会えるの嬉しくないの?」
『それは…』
歯切れが悪く返事をする。私は煮え切らない態度の亮平に言った。
「ねえ、亮平はお姉ちゃんと恋人同士の関係に戻りたいんでしょう?だったら私に構うのはもうやめてよ。亮平が気にするべき相手は私じゃなくてお姉ちゃんなんだから」
『鈴音…俺はもうお前に構うなって事なのか…?こんなにお前の事心配で仕方がないのに…?』
亮平が声を震えわせて尋ねてきた。もう、こうなったらはっきり言った方がいいかもしれない。
「亮平…心配してくれるのはありがたいけど、私にはもう必要ないから。」
『え…?』
「私、川口さんと…ううん、直人さんと昨夜恋人同士になったの。正式に」
私は亮平に報告した―。
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