第13章 16 私の気持ち
「亮平・・・今の・・本気で言ってるの?」
スマホを持つ手が震えてしまう。
『ああ、勿論本気だ。あいつ・・本当にお前の事好きみたいだな?お前が今住んでいる部屋に引っ越した時、偶然知り合ったんだろう?真面目そうな男だし・・ああいうタイプの男なら安心してお前を任せられるよ。まあ・・実際に付き合うか、付き合わないかはお前が決めることだけどな?でも乗り気じゃないなら・・・。』
まるで父親か兄にでもなったかのような言い方をする亮平。この言葉だけで充分だった。亮平は・・・私の事を異性として、少しも見ていないという事が・・。
「そう・・分かったよ・・。」
『え?鈴音・・・?』
「亮平が・・・そこまで言うなら、川口さんとお付き合いしてもいいかもね?大切にしてもらえそうだし・・・。」
気づけば、勝手に口が動いていた。
『そ、そうか・・・。』
何故か亮平の狼狽えた声が聞こえる。でも、そんな事よりも・・・。
「ねぇ、亮平。お姉ちゃんの事で聞きたい事があるんだけど・・。」
『忍の?』
「うん、そう。お姉ちゃんを担当しているケースワーカーの人・・何て名前の人なの?亮平なら・・知ってるでしょう?」
『あ、ああ・・・。確か名字は服部って言ってたかな・・・?』
「その人って保健センターの人だよね?」
『そうだ。・・・母さんから聞いたのか?』
「うん、そうだよ。ありがとう、それじゃまたね。」
電話を切ろうとしたら受話器越しから慌てた様子で亮平が言った。
『え?それじゃ・・・って、それで終わりなのか?』
「うん、そうだよ。」
『俺から忍の話・・・聞かないのか?いつもなら聞いてくるじゃないか・・。』
「だって、おばさんに聞いたけど・・・亮平は最近全然お姉ちゃんに会っていないんでしょう?それじゃお姉ちゃんの今の状態・・分からないよね?ケースワーカーさんなら詳しく話を聞けそうだもの。明日にでも保健センターに電話してみるよ。それじゃあね。」
『お、おい!ちょっと待っ・・』
ピッ
私はまだ何か言いたげな亮平の電話を切ってしまった。だって・・・亮平がいきなり川口さんになら私を任せられるなんていうから・・・。
亮平は私の気持ちを知らないからあんなことを言ったのだろうけど、それでも自分の好きな相手から別の男性を薦められるのはショックだった。だからつい、こっちもムキになって『お付き合いしてもいいかもね』なんて言ってしまったけども・・・私には全くそんな気にはなれなかった。
「服部さんていう人か・・。」
テーブルの上に乗っていた筆記用具に、名前を忘れないように名前をメモし、次にスマホで保険センターのある場所を確認した。
「・・渋谷まで出ないといけないんだ・・・。」
私はベッドの上にごろりと横になって天井を見上げた。とりあえず・・明日渋谷の保険センターに電話してみよう。そこで服部さんというケースワーカーさんがいるか尋ねて・・・。そこまで考えていると、また私は眠くなってしまい・・そのままベッドの上で眠りについてしまった―。
「う~ん・・・。」
ベッドの上でゴロリと寝返りを打って、突然目が覚めた。部屋の中は真っ暗で、今一瞬自分が何処にいるのかさえ、分からなかった。
「え・・と・・・?ここ・・・どこだっけ?」
暗闇に目が慣れてきて、ここは自分の部屋だという事を思い出した。そしてまた自分がうっかり眠ってしまった事を思い出した。
「あ・・そうだ。私、また眠っちゃったんだ・・・。」
今、何時なんだろう・・・?手探りで枕元にあったスマホを見つけ、画面を開いてい驚いた。時刻は午前4時半をさしていた。
「困ったな・・今度病院に行ったら、きちんと診察してもらわなくちゃ・・。」
こんな時間に起きていたも仕方がないので、2時間後の6時半にアラームをセットすると、私は再び眠りについた―。
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