第11章 13 余ったから・・・
亮平・・・もしかして私の手作りのバレンタインチョコ、楽しみにしてるのかな・・・?そう思うと、嬉しくなり私は余ったチョコレートバーを全てラッピングした。自分の分なんかいらない。亮平が私のチョコを待っていてくれるなら全部あげよう。そして亮平には特別に余ったチョコを湯せんに溶かし、小さなアルミカップに注いで小さなチョコを5個作った。
「フフ・・亮平喜んでくれるかな・・・。」
そして時計を見るともう0時半を過ぎていた。
「大変!もうこんな時間だっ!」
明日は早番だから早起きしなくちゃいけないのに、つい調子に乗って亮平用のチョコを作ってしまった。慌てて後片付けをして、ベッドに入ったのは真夜中の1時を過ぎていた―。
翌朝―
職場用のバレンタインチョコが入った紙袋に川口さん用と亮平用のチョコを持って私は家を出た。
そしてまず川口さんのマンションの中へ入った。
1階のエントランスとエレベーターホールの前に、ズラリとポストが並んでいる。
「え・・と・・川口さんのポストは・・・あった。
505号室。ここに『川口』の名前が貼られていた。
「へ~・・川口さんって・・5階に住んでるんだ・・・。いいな、眺めが良さそうで。」
紙袋の中から川口さん用のチョコレートバーを郵便ポストの中に入れた。
ゴトン
「よし、それじゃ仕事行こう。」
踵を返すと私は駅へ向かった―。
8時半―
代理店に到着した私は店の鍵を開けて開店準備を始めた。
次々と社員さん達が出社してくるたびに、1人1人にバレンタインのチョコを渡すと、皆大喜びしてくれた。特に喜んでくれたのは女性社員と井上君だった。井上君はホワイトデーには倍返しするからと言ったけど、そこは丁重にお断りした。
そうだ、そう言えばどこで亮平と待ち合わせすればいいのかな?お昼休みになったら亮平にメールを入れてみよう・・・。
そして私は午前中、充実した気持ちで仕事に励んだ。でも・・楽しい気分でいられたのは午前中までの事だった。
お昼休みになったので私は代理店を出てすぐにスマホを取り出した。すると着信が入っていることに気が付いた。
「あれ・・?メッセージが入ってる・・・?あ、亮平からだ。」
ひょっとして今日の待ち合わせの事でメールを入れてきたのかな?はやる気持ちでスマホをタップし・・目を見開いた。
「え・・・?」
『ごめん、鈴音。昨夜間違えてメールしてしまった。あれ、忍に送るメールだったんだ。間違えて悪かったな。 』
「何だ・・・そうだったのか・・・。だったらもっと早くにメール入れておいてくれれば良かったのに・・・。そうすればあんな事しなかったのに・・。」
思わずポツリと呟き、首を振った。
ううん、私もいけなかったんだ。メールを貰ってすぐに返信していれば良かったんだ。でも・・・そっか・・。今日はバレンタインだから・・亮平はお姉ちゃんと一緒にバレンタインを過ごすのか・・・。でも入院中なのに、そんな事可能なのかな?
「お昼・・・食べに行こう・・・。」
考えても仕方ない。だって所詮私には関係ない話だから・・・。
とぼとぼと歩き、目に入ったワンコインの定食屋さんに入って私の好きな親子丼を頼んだけど、今日は殆ど味を感じなくて、半分くらい食べ残してしまった。・・お店の人には悪いことをしてしまった。
午後6時―
「お疲れさまでした。」
退勤時間になったので私は皆に挨拶をすると、改めてバレンタインのお礼の言葉を社員さん全員が掛けてくれた。
「加藤さん。駅まで一緒に帰ろう。」
ロッカールームで制服から私服に着がえて代理店を出ると、先に店を出たはずの井上君が待っていた。
「うん、いいよ。」
2人で駅まで並んで歩き始めると早速井上君が話しかけてきた。
「ありがとう、加藤さん。チョコ・・すごくうまかったよ。」
「え?もう食べたの?」
「あ、ああ。そうなんだ・・・あまりにも美味しそうだったから・・俺、甘い物大好きだし・・でも加藤さんてお菓子作り得意だったんだな?」
「うん・・得意って程じゃないけど・・お菓子作りは好きだよ。」
「そうか・・・でもほんと美味かったよ。ありがとう。」
井上君はニコニコしながら何度もお礼を言ってくる。そっか・・そんなに甘いものが好きなんだ・・・。だったら・・・。
私はバックに手を入れると紙袋を取り出して井上君に渡した。
「はい、これ・・あげる。」
「え?」
「余った分だよ。井上君にあげる。」
「え?!本当にいいのか?!」
「うん、いいよ。」
だってもうあげる人いなくなっちゃったしね・・・。
「ありがとう!今度は大事に食べるよっ!」
井上君は大げさな位喜んでくれた―。
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