第11章 12 スイーツ作りタイム
川口さんが私に手作りチョコをねだって来た。
「わ、分かりました・・・。作ります。」
「本当?嬉しいな。」
ニコリと笑みを浮かべる川口さん。目の前で手作りチョコが欲しいとねだられて、駄目ですなんて断れる度胸も私には無かったし、どうせいつも多めに出来て余ってしまうくらいあったから別に構わないだろう。きっと川口さんだって深い意味があって私に手作りチョコをねだっているわけじゃないだろうし・・・。
「それじゃ、明日・・朝川口さんのポストに入れておきますね。」
チョコを作るのは今夜だし、出勤する時にチョコを持ってポストに投函すればいいだろう・・そう思って私は提案したのだけど、何故か川口さんの顔が曇った。
「え・・・そうか・・ポストに・・。」
え?私・・何かまずいことを言ってしまっただろうか?
「川口さん?」
「あ、いや。何でもない。それじゃ明日楽しみにしてるよ。」
川口さんが紙袋を返してきた。
「ありがとうございます。ここまで持ってきていただいて。」
「うん。それじゃまたね。」
「はい、おやすみなさい。」
挨拶をすると、私はマンションの入り口へと入って行った―。
「さて、早速作ろっと。」
マンションへ帰ってくるとすぐに手を洗って、着替えもせずに胸当てエプロンを付けて作業を開始することにした。
今回私が作るのは、今迄とはちょっと違う変わり種のチョコレートバー。
作り方はとっても簡単だけども、見た目もいいし、ボリュームもある。
まず最初に片手鍋に水を入れてお湯を沸かした。その間にバットに四隅に切り込みを入れたオーブンペーパーを敷いた。次に買ってきた板チョコをパキパキ追って、耐熱ボウルに入れた頃には鍋のお湯がチョコを溶かすのに最適な温度になっていた。
ここでガスの火を止めて、チョコが入った耐熱ガラスボウルを湯煎に掛けてゴムベラでゆっくり溶かした後に買ってきたグラノーラを100gいれて、よく混ぜた後にバットの中に敷き詰めた。
「よし、後は・・・冷蔵庫で冷し固めて・・カットすれば完成!」
満足げに呟き・・・途端に急激にお腹が空いてきた。時計を見れば21時をとっくに過ぎている。
「う~ん・・・今夜はシリアルでいいかな・・。」
テーブルの上に出っぱなしの大袋入りのシリアルをサラダボウルに開けて、牛乳を注いだ。・・まるで朝食のような食事だけど・・まあたまにはいいよね?
テレビのリモコンを取って電源を入れると、ちょうど料理番組をやっていた。作っていたのは和食の煮物料理だった。
「へぇ~・・・美味しそう。いただきまーす。」
そして私は料理番組を見ながら、シリアルを食べた―。
22時半―
シャワーを浴び終え、再びエプロンを締めた私は冷蔵庫を開けてみた。
「チョコレートバー・・・出来てるかな?」
バットを取り出してみると、ちゃんと固まっている。
「よし、それじゃ・・・後はこれを均等な大きさに切って・・・。」
錦糸町支店には女性社員も含めて全員で8人いる。バレンタインだからと言って男性社員にだけ配るわけにもいかない。そこで12等分にカットした。1人1本だけど、川口さんにだけは2本上げよう。そして残りは自分で食べようかな?
1本ずつワックスペーペーパーでキャンディ包みをして、両端をラッピングタイで縛れば完成。それを小さな紙袋に入れ終えた頃には時刻は既に23時を過ぎていた。
「え・・・もうこんな時間かぁ・・・明日は早番だし、早く寝なくちゃ。」
手早くテーブルの上を片付けていると、突然スマホにメッセージの着信が入って来た。
「え・・・?こんな遅い時間に誰だろう・・・?」
スマホをタップすると相手は亮平からだった。たった一言だけのメッセージが届いていた。
『明日、楽しみにしてるから』
「え・・?」
これって・・・もしかして・・?
私は・・ギュッとスマホを握り締めた―。
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