エピローグが始まる

センチメンタルな気持ちを引きずっているのは、少し情けないものがある。

いろいろな 歌のテーマになっている失われた恋愛は、過去に確かに恋愛が存在したことが前提になっている。それが片恋であっても、過去の時点で自分の気持ちが確定しており、それが失われていく悲しみを歌う。


過去に自分が全く気が付かなかった恋心を、今更気づくとか、あまりにもレアケースすぎて、誰にも共感を得られないだろう。だから、そんな歌はない。


つくづく思う。


「あの時」俺が彼女に恋をしたのは間違いない。

もし彼女と同窓会で再会していたら、焼け木杭に火がついて泥沼の不倫でも始まったか?それはありえない。「昔好きだったんだよー」と戯けて、ただの友達が続いていたに違いない。

いや、そもそも、これまでの色々な偶然も起こらなかっただろうから、そんな冗談すら出ず、高校生の時と変わらずに、相変わらずちょっとかわいいな、と思って、挨拶くらいで終わっていただろう。


絶対に手に入らないから、自分の気持ちを正面から見据えることができる俺は、卑怯者だ。

この、高梨葵への感情は、青春の燃え残りである。

彼女に、俺への特別な感情があったかのように妄想してしまうのは、悲しいことだが【存在したかもしれない、輝かしいもう一つの人生】のメタファーである。

それは劣情に近い自己満足であり、その対象に彼女を置くのは、彼女への冒涜であろう。


彼女は”みんなに優しかった”から、人気があったのだ。

俺に対する態度も、それは彼女のデフォルトの思いやりだ。彼女の目の前に、体調が悪そうだったり、否定的な言葉をかけられた知り合いがいれば、思いやったに違いない。それが、”誰でも”だ。


それを個人への特別な感情と誤解して、彼女に迷惑をかけたのが須藤だったように、俺があの時、自分の感情を自覚していて、そして、彼女の態度を好意だと勘違いしていたら、須藤と同じことをしでかしていた危険がある。だから、あれはあれで、結果オーライだったのだ。


いや。


そんなことはない。

しでかさなければいい。

あの時、自覚して、告白して、振られていればよかった。

そうすれば、こんな妄想にいつまでも囚われていることはなかった。


”俺は彼女にとってそんな対象ではなかった”という確たる事実があれば、結論の出ない過去を見つめ続けることはない。


「このままじゃいかんなあ」

妄想がぐるぐる脳内を巡るのはいつ以来だろう。クリエイティブとか言われる仕事をしていながら、想像も創造も最近ずっとしていなかった。

心の底から何かが沸き上がってくる感覚。懐かしくて新鮮だ。


”どうせつまらん妄想なら、つまらん作品にしてしまえ”


それが自分なりのケジメになる。

小説投稿サイトに登録した。


先行の作品を読んで、少し不安になった。

投稿作品は、異世界に転生しないといけないという決まりはないよね?


気を取り直して、タイピングを始めた。





【それはまるで、月9のクライマックスか、オープニングだった】

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