覚えている
クラス会の会場はわかりにくかった。
開始時間に間に合わず、乾杯が終わってから、のこのこ入ってゆくことになった。
端っこの席、錦織の前だった。
あんなに誘ったくせに、俺の顔を見て歓迎する様子でもなかった。
グラスを持った連中が錦織に話しかけにくる。入れ替わり立ち替わり。
その話に加わるでもなく、しかし、無視するにも手持ち無沙汰で、なんとなく、昔話を聞いていた。彼らの充実した青春時代を、今更ながら復習する羽目になった。
竹下通り・ディズニーランド・湘南海岸
いろんなとこで遊んでたんだな。知らなかった。
合唱団や水泳部とつるんで遊びに行ってたんだ。それも知らなかった。
知るわけもないのだが。
甘利裕子の墓参りに行った女子たちが、墓の前で撮った写真を、スマホで見せに来た。錦織のついでに俺にも話しかけてきた。
「甘利さんのおかげでこれたね!」
俺は曖昧に笑った。
「まあ、そうかな。訳わかんないけど、来れたもんなあ。甘利のおかげか、、、」
女子にしてはガタイがよく、スーザンと呼ばれていたのをかろうじて思い出した。
当時流行った漫画の、髭の生えた女性キャラだった。ひどい仇名だ。
「でも、悪いけど、俺、甘利のこと、あんま、覚えてないんだよな。申し訳ないけど」
「スーザン姐さんはそんなこと気にしないって」
「そうだな」
人の流れにアルゴリズムというのはある。
周りに、話しかけてくる人間がいなくなった。
その時、錦織が、呟くように、言った。
「高梨は、覚えてるよな?」
「え?なんだって?」
「高梨」
虚をつかれた。
「う、あ、まあ」
どもった。
「おぼえっってる、よ」
錦織が俺をみている。
「覚えてるけど、でも、なんで?」
そんなことを聞く、と言った。
「なんでじゃないけど、同中だし、と思って」
「え?」
「どうした」
「同中じゃないよ。同中だったのは、、えっと、四人か。高梨は違う」
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