雨が降れば
動画には、文化祭でのクラスの展示作品や、それを見てふざけている30年前の俺たちがいた。
ヘタをすると、息子娘よりも若い自分たちを見て、タイムライン上の同級生たちは妙にテンションが上がっていた。
動画アップしただけなのに、俺はちょっとした人気者になっていた。
「すごい!かっこいい」と、30年前の女子が言うので、「30年前に言ってくれたらな」と返すと、(笑)と返ってきた。
そうだな。(笑)だよな。
画面を一瞬、高梨葵が横切った。
「あ、葵」
誰かが言った。タイムラインが少し沈黙した。
少しすると、また別の女子が、男子が、という話が流れていった。
すぐ、クラス会をやろう、という話がまとまった。
「1ヶ月後ぐらいでどうだ、この前は喋り足りなかったしな」と。
場所は少し、地元から離れたところになった。
俺の住所に、ちょっとだけ近づいた。気を遣ってくれたみたいだ。動画の褒美だ。
ところが、直前になって問題が起こった。
帝都大学野球で、プレーオフが行われることになり、その当日がクラス会とバッティングしたのだ。
仕事である。
某大学の1年間の活動をレポートする仕事を受けていた。
帝都野球の優勝決定戦となれば、大学をあげた一大イベントで、これの取材を欠くわけにはいかない。
「すまん」
と、欠席の連絡を入れた。
「なんだと」
と反応したのは、錦織だった。
「おまえ、クラス会と仕事とどっちが大事なんだよ」
「仕事」
「仕事はこれからもできるだろ。クラス会はこれ一回だけかもしれないんだぞ」
守秘義務もある。仕事内容は告げていない。
どうしても外せない仕事はあるのだ、と言ったが、錦織はそれでも絡んできた。
「滅多に会えないクラスメイトと会うのはな、ガッキーとデートできるのと同じくらい貴重なチャンスなんだぞ」
「無茶を言うな」
「お前、ガッキーとのデートをすっぽかすのか」
「大ファンかよ」
「ファンじゃねえよ、でもガッキーだぞ」
ボブカットの美人女優が、高梨葵を彷彿とさせていたことは、後になって思い当たった。
結論から言えば、クラス会には参加できた。
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