「高梨葵さんは亡くなりました」

卒業30周年の同窓会。

こんな時に限って、連絡がつくなんて。


同窓生の1/3くらいが出席していた。

俺は、手持ち無沙汰でいた。

見回すでもなく、周りを見ていた。

女子、というには薹が立った、かつての女子高生たちが大袈裟に、元気?なつかしい!と笑いさざめく中で、やっぱり俺は一人だった。


やがて会が始まり、出席者の紹介が始まった。

何人か、知っている名前があった。

錦織啓斗が呼ばれた。

黄色い歓声が上がった。

よく覚えている。身長180オーバーで、沖田浩之似の、バスケ部のエースだ。

漫画の主人公みたいな奴だったので、忘れる方が無理だ。


俺も呼ばれた。


ざわっ、と変な空気が走ったのがわかった。

仕方ない。ガキの頃から悪目立ちするタチだった。

でも、そこまでだ。

悪印象にせよ、どうせ目立つなら、突破できればそれは個性だ。

俺はそこまでいかない。まあ、凡人だ。


やっぱり来なきゃよかったな。何もないだろうな。


最後に、と司会が言った。

「亡くなった仲間がいます。お名前を読み上げますので、黙祷したいと思います。きっと彼らも、この場に来ていることでしょう」


いや、生きてるのに来ない奴もいるのに、死んでから来ないだろ。

無粋なツッコミ癖は、やはりガキの頃から変わらない。


意外に大勢死んでた。

7〜8人だったろうか。


司会者が

「黙祷しましょう」

と言った時、なぜかホッとしていた。


ホッとしたのは、それを知っていて、聞かずに済んだからだ。

あり得ないことだが、そう思った。


と、その時

「あ、ごめんなさい」

司会が慌てた。

「もう一人」


あ、と思った。

やはり、聞かなくてはいけないのか。

月9なら、テーマ曲が高らかに流れるところだ。


「高梨葵さん」

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