第10話新人キャンペーン2

 翌朝、辺りは薄暗いが魔物牧場の仕事は早くも始まろうとしているルシウスは欠伸をしながら離れの裏にある井戸で顔を洗っていた。


「ぷはぁースッキリするっ!今日は忙しそうだ」


 顔を洗い馬房の方に向かうと爺さんが作業をしていた。


「おはようございます」


「おぉ、早いね早速だけど馬達を放牧してあげて欲しい」


「分かりました」


 入り口に近い所から順番に馬房から出し放牧する、爺さんが気を使い先にレッドホースのみ放牧に出していたが他の馬もルシウスの言う事をあまり聞いてくれない、馬具を装着し引っ張るがびくともしないのだ。


「お爺さんっっ! 言う事聞いてくれないんですけど、どうしたら良いんですか?」


 新人誰しもが通る道なのだろう老人は面倒臭がる事なく丁寧にルシウスを指導する。


「やってみせるから見ててごらん」


 爺さんは馬の側にいき顔を撫でながら朝の挨拶をする、紐を引きそのまま語りかけながら馬房を出るとすんなり出す事が出来た。今までの自分の苦労はなんだったのだろうと思える程だ。


「えっ、なんでそんなにすんなりいくんですか?」


「ルシウス君、昨日も言ったけど魔物は分かるんだよ? ちゃんと朝の挨拶をして語りかけたりしたかい? 誠心誠意尽くさないと魔物は応えてくれないよ?」


「ううぅっ……分かりました」


「じゃあやってみよう」


 爺さんは先程迄やっていた作業に戻ると今度はルシウスの番だ。爺さんに教えて貰った通り話し掛ける。


「おはよう、今日から暫くの間宜しくね」


 ルシウスは馬の背中を撫でながら語りかけると、すんなりとはいかないが馬房から出す事が出来、なんとか放牧をする事に成功する。


(ふぅ結構大変だぁ……)


 後二十頭は居るであろう馬の事を考えると少し億劫な気持ちになったが、考えても仕方無いので手を動かす。魔物の馬は大変だが普通の馬は割とすんなり移動させる事が出来た。それでも時間は多分に掛かってしまったのだが。


「すみません……時間掛かってしまいました……」


「いや最初はしょうがないよ、次は昨日教えた通りにやってみよう、最初は普通の馬からやると良い」


 ルシウスが馬を馬房から出し終えると爺さんは馬房の掃除を丁度に終え、放牧した馬達の所へ歩いていく。


「このバケツ使ってごらんこれが魔石ね」


 爺さんは右手にある魔石をルシウスに渡すと使い方の説明をした。バケツの底にある窪みに魔石をセットすると丁度一杯分の水が溜まるらしい水が減れば自動で水が増え使い終わったら魔石を外せば出なくなる様だ。


「慣れない内は紐を柵に縛ってからやると良いよ」


「分かりましたっ! やってみます!」


 ルシウスは近間に居る普通の馬の手綱を引っ張り柵に結ぶ、爺さんに言われた様に馬に語りかけながら背中を撫でて少し興奮していた馬が落ち着く迄待つと数分して落ち着いたのでブラシを濡らし前足から擦る、嫌がる素振りをするがルシウスが変な事をしないと分かると馬は大人しくなりスムーズに作業を進める事が出来た。


前足を終えると後ろ足だ。警戒していた馬も綺麗になりつつある事に少しは気持ちが良いのだろう頭を振りながら少し興奮していた。


「ルシウス君少し離れて!」


 爺さんの声で立ち上がると先程自分が居た所に後ろ足で蹴ってきた。


「うわぁっっっ」


 ビックリしたルシウスは尻餅をつき馬を見て困惑するだが興奮が収まらないのか首を振りながら蹴り続けていた。危ないと思いすぐ様爺さんが駆け寄り馬を宥めた。


「少し離れてごらん、馬がルシウス君に馴れて居ないと危ないから馬の後ろに立っちゃダメだからね?」


 横に陣取って居たから蹴られる事はなかったが爺さんから注意された。


「分かりました……」


 爺さんが落ち着くまで撫でると先程まで興奮していたのが嘘の様に馬は落ち着きを取り戻し静かになった。


「よしよし、良い子だ。この作業は私が午後やるから今はご飯の準備をしようか」


「すみません……仕事を増やしてしまって……」


「良いの良いの、初めは皆こんな感じだから」


 ロッジの中に戻り調理場に行くとそこは野菜や果物が山積みになっていた。マジックアイテムのコンロや冷蔵庫魔物の赤ちゃん用品等が棚に収納されている


「今から馬の分を作るからちゃんと覚えてね。他の魔物の分は私がやるけど馬の分は出来るならやってほしい」


「分かりました。宜しくお願いします」


 馬の種類や体調によって与えるご飯は様々だ。手際よく作業を始める、果物を一口サイズにカットし野菜も食べやすい大きさにカットするそれをご飯用のバケツに振り分け芋類等も入れていた。


「普通の馬の分は簡単だから明日からでもこれはやっておこう分けたやつは馬房毎に紐で吊るして馬が食べやすい様にするんだ。取り敢えず見てて」


 爺さんはバケツを持って馬房に向かうと吊るされている紐にくくりつけバケツを吊るす。


「馬毎にバケツの形を変えてるからバケツの形も覚えてねこの後昼食にするからその時に教えます」


「分かりました。お爺さんは朝食とか食べないんですか?」


 爺さんはしまったというような表情を浮かべ、ルシウスに申し訳なさそうにしていた。


「私達は老人で食が細いから朝食は食べないんだ。今日朝食の用意を忘れてしまったね……明日から用意するようにするから今日の朝食は悪かったね……」


「いや、そんな顔をしなくても大丈夫ですよ! 自分がお世話になっている訳ですし……でもお腹減っちゃうので明日から朝食お願いします」


「あぁ、明日からは朝食に此処で取れた乳やチーズをご馳走するよ」


 乳やチーズという言葉を聞いて今日の朝食の事なんて吹っ飛んでしまった。爺さんと一緒に婆さんを迎えに行くと休憩所にてそのまま食事休憩になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る