第9話新人キャンペーン

 協会を出て地図を片手に冒険者ギルドの方へ歩いていく、冒険者ギルドに向かうにつれて武装した者達がその数を増やしていた。


ギルドを通り過ぎて三十分程歩くと建物が減り、そのまま歩き進めると広大な牧場らしきものが視界一杯に広がっていた。


 木材で出来た柵で区切られた草原、その中には畜産型の魔物が放牧されている。柵と柵の間に馬車でも通れる程の幅を残した道が、眼前の建物迄続いている建物の前に来ると遠目で見るよりもより一層大きく、そして牧場に似合うであろうロッジの様な作りをしていた。


(ここが魔物牧場かぁ……)


 周りで魔物の鳴き声が木霊するが恐怖を感じずとても穏やかな時間が流れていた。

 扉を開けると馬房が左右に設置されており馬の魔物が一頭につき一部屋用意されていた。


「おや、お客さんかな?」


 扉に付いている鈴の音で馬房内で作業していた男がルシウスの前に表れた。顎に白い髭をこさえており見た目は老人だが腰が曲がっている訳でもなくとて若々しい雰囲気を纏っている。


「ホワイトテイマーのルシウスです協会の方でこちらを勧められました」


 ルシウスの新人と言う言葉を聞いて自分の孫を見るかの様な優しい顔でルシウスの前まで歩いてくる。


「新人さんかぁ、あの魔物くじのやつかな?」


「はいっ! 今日から一週間宜しくお願いしますっ!」


「元気があって良いそれじゃあ仕事内容を説明するから休憩所迄来てくれるかな?」


 元気一杯に返事をするルシウスを見てこれから一週間爺さんはとても楽しみな思いでいた。新人自体の数は少ないがそのせいで最近は忙がしいのだ。


 二階に上がり、なん部屋かある内の一室に案内されるとテーブルとベッドだけの簡素なものだった。


「それじゃあ仕事の説明を始めようか」


 爺さんの説明が始まる、老人と言ってもハキハキしておりとても聞きやすい声だ。魔物牧場と言っても魔物を売るだけでは無い様で畜産型の魔物チチギュウから乳を絞り、それを売ったり馬型魔物のホース系を冒険者に貸し出したり魔物と一緒に泊まれる宿屋や魔物を預ける事も出来る様だ。


 宿屋については人員が居ない為縮小しており少ない人数しか泊めることは出来ないとの事。


「それじゃあ馬房の掃除から始めようか、分からない事があったら気にせず聞いてください」


「宜しくお願いします」


 爺さんはルシウスをつれて馬房迄行き掃除の仕方を教える。馬房の掃除は至って簡単だった。


敷き詰められている藁を交換し汚れが酷いようなら馬房内に水を撒きブラシで擦る、今日は馬房の掃除は粗方終わっているのでやる事はない。馬の手入れの仕方も教えてもらうべく馬房を通り過ぎて裏口に出る。


 裏口から出ると離れが三つ程あり家畜型の魔物とは別に馬や狼パイソン等の移動や戦いに使えるもの迄多種多様な魔物が居た。爺さん曰くこういった魔物を家畜型の魔物と一緒にすると、乳の出が悪くなるので離して世話をしているとの事。


「この馬でやるから見ていてほしい」


 爺さんが歩くと魔物も老人に近づきそのまま後ろをついて行く。


(あんなに懐かれているのか……)


 爺さんの前にはレッドホースが居る、赤い色をした体表をしておりとても力強そうな印象を受けるレッドホースは暑さにとても強く冒険者に重宝されてるとの事。


 春夏秋冬ある中で冒険者や商人は季節や距離によって馬を変える暑さに強いものから、スタミナがあるもの、スピードがあるもの、力強く重いものを運ぶもの、寒さに強いもの等多種多様だ。


 レッドホースは暑さに強く下級の魔物を一体や二体程は撃退出来る程の力を身に秘めている。


「ヒヒーン」


 レッドホースは老人を見つけると駆け足で駆け寄り爺さんの頬に顔を擦り付けている。


「よしよし、今日も元気にやってるか?」


「ヒヒヒン」


「そうかそうか」


 爺さんとレッドホースの関係を羨ましそうに眺めるルシウス自分も最終日迄には仲良くしたいと意気込んだ。


「魔物に懐かれてるんですね」


「そうだなぁ魔物って言うのは人を見る目があるんだ。 良い人間か悪い人間か分かる、不思議なものだがねルシウス君も魔物に好かれたいなら気持ちを込めてお世話をしたら良いよ、そしたら魔物もルシウス君の事を理解してくれる」



「分かりましたっっ!頑張ります」


 ヤル気になってるルシウスを見て微笑ましい視線を向けながらもレッドホースの世話の仕方を教える。


 爺さんは手に持ったマジックアイテムであるバケツで水を生成すると、その水でブラシを濡らしレッドホースの蹄鉄に挟まった泥等を擦り泥等を落とす。


 たまに水をかけながら泥等を落としていくとレッドホースは爺さんの言うことを聞くように言われた足を少しばかり上にあげ爺さんがやりやすいようにしていた。


「こんな感じで頼むねレッドホースは気性が荒いから明日からは穏やかな馬を頼むよ、これが終わったらブラッシングをしてあげるんだ」


 爺さんはレッドホースの尻の方からブラッシングをしそこから腹へどんどんブラッシングしていく、全体的に満遍なくブラッシングして顔の方に近づいていくと馬は気持ち良さそうにそして眠たそうにしていた。


「お爺さん凄いです、なんですかこの顔は……」


「気を許してる者にはこういった表情をするんだよ、やりがいがあるだろう? これが終わったら暫く放牧して馬房に入れるんだ。明日は取り敢えずここまでしてみようか、それが終わったら次を教えるよ」


 ブラッシングを終えるとレッドホースはその辺を走り回りとても喜んでいる様だった。


「精一杯頑張ります」


(俺もあんな表情を向けられたいっっっっ!!)


「あそこの離れに婆さんが居るからちょっといってみようか」


 爺さんの案内で離れに行くと可愛らしい鳴き声が聞こえる。離れの中は産まれたばかりであろう色んな魔物が鳴き声をあげていた。


「婆さん、この子が今日から新人のキャンペーンで来てくれたルシウス君だ。明日は馬の方をして様子を見るから宜しく頼むよ」


 婆さんは腰が曲がっているがとても健康そうな顔をしている、頭に頭巾を付け腰にはエプロンをし魔物の赤ちゃんの世話をしていた。


「君が新人のルシウス君ね、ここは赤ちゃんの魔物に乳をあげたりあやしたりと面倒をみる所だよ明日馬達の世話をしたらこっちもやってみるかね?」


 初めて見る赤ちゃんに目をキラキラさせているルシウス。


「可愛い……可愛い……癒されるわぁ」


 ルシウスの心の声は気付かずに言葉として口から出てしまっていた。そんなルシウスを見て婆さんは手招きをしてウルフの赤ちゃんを触らせてくれた。


「そうだろ、そうだろ可愛いよね、でも世話は大変なんだよ? ここで産まれた子達は私たちが世話をしてあげないと死んでしまうからね……このウルフ触ってごらん」


 ルシウスは婆さんの言葉を聞き、触る所か興奮のあまり抱き上げた。


「クンクン……クゥーンクゥーン」


 ルシウスの臭いを嗅いで泣き出してしまった。


「うわぁ、温かいヨシヨシ怖くないよ?大丈夫だよ」


「これなら大丈夫そうだね爺さん少し此処で赤ちゃん達と遊んでもらっても良いかね?」


「それなら問題ないさ、私は馬房に戻るからルシウス君が泊まる所に案内しておいてね」


 時間を忘れる程に赤ちゃん達に熱中するルシウスを見て婆さんはこの子なら魔物に愛されるテイマーになるんではないかと思いながらもきりがいい所で離れの宿泊施設に案内した。ルシウスは旅の疲れと、はしゃぎすぎた影響でそのまま眠りについた。

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