第4話試験

 鳥の囀ずりで目を覚ますとそのまま裏手にある井戸で顔を洗った。


(とうとうこの日が来たか……)


 戦闘練習と言う名の訓練をやりだして早ニ年、これ迄あっと言う間だったなと感慨深い物があった。長いようであっと言う間だった訓練も今となっては自信に繋がったのであろう、これから試験だと言うのに清々しい顔をしており緊張している様な素振りは一切無い顔を洗うと自宅に戻り朝食を摂る。


「今日は朝からビックボアよ! 沢山食べなさいね?」


「いただきまーす」


 メルザはルシウスが今日一日頑張れる様にビックボアの丸焼きを朝食として用意していた。このビックボアは、昨日ルシウスの体力作りの最中にカイルが狩りをして取ってきた物だ。


ビックボアとサラダそしてパンにスープと朝食なのに凄くボリュームがあり力の付く食事だろう。


ルシウスはゆっくりゆっくりと時間を掛け食事を進めるするとカイルから今日の試験内容が発表された。


「今日の試験内容はゴブリン三体とビックボア一体計四体だ。日が暮れる迄を制限時間とする、制限時間を過ぎれば失格になり討伐証明としてゴブリンの耳三つ、ボアを丸々一体持ち帰る事が出来たら合格とするこれが剥ぎ取りのナイフだ」


 ルシウスはご飯を食べながら耳だけをカイルに傾け話を理解すると頷きナイフを受け取った。


「分かった! 頑張ってくるからクッキー宜しくねっ!」


「クッキーならメアリーちゃんに頼んだら良いじゃない」


「まぁ行ってくるよ」


 ルシウスはメルザの言葉を半ば遮るように家を出ていった。


「母さん俺にはクッキー作ってくれるよな?」


「貴方はパンで良いわよね?」


「あっ……あぁ……」


 カイルがメルザにフラれると言う出来事も知らずに門に向かって歩いていく、その途中村人達から激励されながらも門の近くに行くと遠目からメアリーの姿らしきものを確認した。


(……緊張するなぁ……)


 ルシウスは門番に挨拶をしてからメアリーの方を向くと門番が気を利かせて少し離れた。


「あの……クッキーどうだった?」


 メアリーはモゾモゾしながらルシウスの返答を待つがルシウスも試験には緊張をしないがメアリーには凄く緊張していた。恥ずかしい気持ちを抑え顔を見つめる


「うっ、うまかったぞ!」


「本当に?」


 ルシウスが躊躇した様を見て疑わしい視線を向けるメアリーだがその顔は何処か嬉しそうな表情だった。


「あぁ、良ければ今日も食べたいかな?」


 ルシウスの言葉を聞いてメアリーの顔はパッと花を咲かせる。


「分かった、今日も作っておくから無事に帰ってくるんだよ?」


「分かってるよ! じゃあ行ってくる」


 ルシウスはそのまま門をくぐり森へ向けて歩き出した。森に入るのは今日が初めてと言う訳では無い実際には何回も森に入っての戦闘経験は少なからずある、

だが油断は大敵だ。


実質この試験は本気で頑張った者に対しては飾りに近い物があり、頑張らなかった者に対しては厳しいものだ。中には不正紛いの事をする者がたまに居るので大人達が前以て森に入り監視しているなので公平な試験と言えるだろう。


 三十分程歩き森に着くと大人達が何時も使っている狩り場へ向かう、裏山に居るドラゴンの影響か近くに魔物はあまり出ないので入り口から一時間程掛け狩り場迄歩く、入り口から奥に進むと段々と足場が悪くなり辺りも薄暗くなっていく、森の全てを把握している訳では無いが果物の場所や飲み水に使える湧き水が湧いている場所を把握しているので、食べ物や飲み物には困らない筈だ。


 人間が使う場所は魔物も使う場所であり、そこにゴブリンやビックボアが居る事が多い、森に入るにつれて少しづつ気温も下がる。


入り口辺りは歩きやすいお陰か歩くスピードは速いが奥に入るにつれて道も悪くなり時間も掛かるそれがこの試験の難しい事の一つであろう、慣れなていない者ならば直ぐに疲れてしまう道もルシウスにとっては何時も使う道でありさほど気にもとめない。


そのまま歩き続けやっとの思いで狩り場の一つである果物が実っている木の近く迄来るが魔物は居ない。


(ここで見つかればすぐ帰れるのになぁ……)


 そのまま湧き水がある所迄歩く時間にして三十分程だろうか水飲み場に着くとそこにはゴブリンが五体居た。


(数が多いなぁ……どうしようか……)


 幸いにしてゴブリン達は地べたに這いつくばる様な姿勢で水を飲んでおりこちらに背を向けて居た。


(ゆっくり近づけばいけるか……ダメなら1回逃げよう……)


 足音をたてない様にゆっくりとした足取りでゴブリンに近づくルシウスの事を気にする素振りもせずにそのまま水を飲み時折会話をしていた。


ゴブリンは此方に気付く気配もない、近づきながら剣を手に取りゴブリンの後ろ迄歩き剣を振り下ろし一番端に居るゴブリンを切り裂いた。


「グゥゥゥ……」


 そのまま立て続けに隣のゴブリンを切り裂くと残りのゴブリンが顔を上げパニックになっていた。


そこでその隣のゴブリンも切り裂きそのまま残りのゴブリンも片付けようとした時、残っている二体のゴブリンが側に置いてあった棍棒を手にがむしゃらに振り回しルシウス目掛けて突っ込んできた。


(父さんよりも動きが雑だ……)


 棍棒をがむしゃらに振り回すゴブリンに対して冷静に対応し、距離を取るどころか擦れ違い様にゴブリンを横にぐるっと一閃した。残ったゴブリンも一緒に巻き込まれて絶命しなんとか勝つ事が出来た。


「ふぅ……運が良かったな」


 討伐証明の為に耳を剥ぎ取りマジックポーチに収納し、ボアを探す為に歩き出した。


 湧き水が湧いて沢になっている所を下って行くと、ビックボアが水を飲んでおりルシウスの気配を感じてルシウスを見つめている、近づかなければ戦闘にはならなそうだが試験の為そういう訳にもいかずビックボアに近づくと、ボアは水を飲むのを辞めた。


 ルシウスに向き直り、後ろ足を何度も蹴りながらルシウスに向かって突進してきたのだ。


その巨体は熊程に大きく初めて見る者には恐怖にかられ動けなくなるだろうが、ルシウスにとってはただの食料にしか見えない。


 今日の夜もビックボアかと笑みを浮かべ、ルシウスもビックボアとの間合いを詰める為に走り出した。


 ビックボアの突進を直前で躱すとそのまま木の幹に突っ込み口にある太い牙が木に突き刺さって抜けなくなってしまった。ブヒブヒ鳴いておりとても滑稽だ。


 そのブヒブヒ言っているビックボアに近づき剣を振り下ろす。


「ごちそうさんっっっ!」


 ビックボアの首と胴体を切り分けた。


「はぁ……終わったか……割と早く終わったけど呆気なかったよなぁ、こんなのに夕方迄掛かる奴とか失敗する奴はヤル気無さすぎだろ」


 過去に時間に間に合わない者や、失敗する者も居たのでこんな呆気なく終わる筈の事をドジる者の気が知れなかった。


 だがポーチには入らないので頭と胴体を引き摺りながら村に帰るだが時間はギリギリでコレのせいで間に合わない者が居る事にルシウスはこの時初めて気づき心の中で謝罪した。

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