第2話成人祭後


翌朝村の男達はお昼過ぎ迄眠っていた。男共の愚痴を言いながらもその間女達は畑仕事や洗濯等に精を出しているルシウスも初めてのお酒だったせいか頭がクラクラしており軽い二日酔いのようだ。


今日は何もしたくないが、近々家を出る予定なので荷造りや旅に出る準備を始めている。 前以て準備していた為あまり時間は掛からなそうだが、時間が経つにつれてあれもこれもと荷物が増えては整理をし、増えては整理をしと繰り返していた。


父カイルからプレゼントで貰ったマジックポーチに収納し

 出かける時は肌身離さず持ち歩いている、ルシウスの数少ない宝物だ。 マジックポーチ類は高い物だがこの村はドラゴンフルーツのお陰で潤っているので何年間か貯めれば買える物だ。


 何年も父が自分の為にお金を貯めてくれてた事にルシウスは隠れて涙していた。凄く嬉しかったのだろう。


 旅に出る前にやらなければいけない事もある。 それは成人し、村を出る者は男女問わず、森の魔物を1人で討伐しなければいけないという村のしきたりだ。本当は遠くから村の男達が隠れて見守っているのだが成人した者達はそんな事は知らない、だから皆必死に魔物を討伐し村を旅立つ。


だがその試験を突破出来ない者もいるので確実とは言えないのが、ルシウスの様に村を出ると決めた者は早い内に剣を振り力が無い者は弓や短剣を、旅立つ前から練習し試験に備える。


 ルシウスもその中の一人だ。マジックポーチの整理を粗方終えたルシウスは頭がフラフラしながらも、今日も練習するため家の裏手に回り体を動かしていた。


(俺もこんな所で躓く訳にはいかないからな)


 軽い準備運動を終えると、母メルザからのプレゼントである剣を振るう。

 まずは剣を真っ直ぐ振る様に意識し上から下へ右から左へとゆっくり振り体の調子を整える。


カイル曰くこれが大切との事、ルシウスは毎日朝と晩、剣を振るい体の使い方を覚える為に練習していた。 時間が経つにつれ段々早くそして型が壊れぬ様にサッサッと剣を三十分程振るうと剣を持つ事が出来なくなっていた。


(はっ、はっ、はっ、腕が……丸太みたいだ……父さんは良くこんな事を2時間も出来るよ……)


 ルシウスは地べたに座りながら父の凄さを毎日感じている。

 ルシウスもこの練習を2年程続けているがやっとの思いで三十分、最初の頃は剣を軽く振るだけで5分も持たなかった。

 父曰く、基礎が一番大事であり小手先の技等基礎が出来てなければただのピエロだと言う。 この些細な事の積み重ねで今の自分がありそして命が守れると言っていた。


その割には若い頃冒険者をやっていた時の話はいつも同じ物で新鮮さが無かった。


 ルシウスが父の偉大さを感じ、そして休憩を終えて始めようとした時父が剣を腰にぶら下げて眠そうな顔で近づいてきた。


「ルシウス今日は悪かった。 昨日呑みすぎたみたいでな」


 父は欠伸をしながらルシウスに軽く謝っていたが、息子が昨日の今日でも真剣に取り組んでいる事に嬉しい気持ちだった。


「別に大丈夫だよ、これからまた始めるから見てもらえるかな?」


「おうっ、任せとけ」


 腰にぶら下げている剣を取りルシウスの練習を監督するルシウスはカイルが居る前でも真剣な眼差しで剣を振る、その間カイルはじっとルシウス全体を見ていた。


「脇をもう少し絞めるんだ。 剣の軌道は真っ直ぐ! 疲れているとおざなりになるから気を付けるんだぞ!」


 カイルの助言を受けて無言で剣を振り続けるその時間十五分


「はぁ、はぁ、はぁ……もう駄目だぁ……」


 ルシウスは剣を置きそのまま座り込んでしまった。

腕は棒になり感覚が無く上に上がらない。


「疲れていても敵は待ってくれないぞ? 根性を出せ根性を、最後踏ん張りきれるかで生きるか死ぬかが決まる事だってある」


 父に指摘されてもそれどころでは無く、ルシウスは呼吸を落ち着かせ感覚を取り戻す事に必死だった。


「分かってるけど今はこれが限界なんだよ」


 カイルは困ったなと言わんばかりの笑みを浮かべ、まだ若いしこれからかと思っていた。


「そうか……じゃあこれからも続けるんだぞ! 後母さんが待ってるから飯を食おう、その後は何時ものヤツやるからな?」


「またアレをやるのかよー」


「分かったらとっとと汗を流してこい」


 父は用件を話すと家に戻っていった。


(アレ痛いし加減してくれないし……嫌なんだよな……)


 そんな事を思いながらも、ルシウスは井戸で水浴びをし汗を流してスッキリすると家に戻りテーブルに腰をかけ、ご飯を待っていた。


「ルシウスお疲れ様、今ご飯にするからちょっと待っててね」


 母は台所からパンとスープを持ってきてルシウスの前に並べる。


「体を動かしてたんだから一杯食べるのよ?」


「うんっ!」


 体を動かして二日酔いが薄れたのかパンとスープを交互に食べ、おかわりを2回要求した。その光景を見てメルザは笑みを浮かべる、全て平らげてしまった事が寂しいのかまだ食べれそうな顔をしているがこの後の練習に支障をきたすと思いセーブしている様だ。



 メルザが出したのは村で取れた小麦で作ったパンと村で取れた野菜で作ったスープだ。この村は基本的に地産地消で肉だって狩りをして補っている、ドラゴンフルーツ等の産物で出来たお金は、皆嗜好品等を商人から買ったりお洒落な服に使ったりとそれぞれだ。


 基本的に食べる物も困らずお金が掛からない村である為心に余裕がある者も多い、食べ終えてから三十分程するとカイルと共にまた裏手に回りカイルが自作した木刀を手に取り父と向き合う。


「どっからでもかかってこい!」


 カイルの宣言と共に立ち合いが始まった。

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