その②「少佐の朝」


 東京都内。同じく土曜日を迎えた少佐は、とあるホテルにいた。シャワーを朝早くに浴びて朝食に向かう。滞在するホテルは少しハイグレードなビジネスホテル。

 朝食に向かうビジネスマンや旅行客に交じり、ホテルのレストランへ向かう少佐。

 昨夜は危機一髪であった。くだんの少年の放った魔法。想像以上の威力だった。とっさにシールド魔法で防御せねば、大けがをしていただろう。


 レストランへ着くと、見覚えがある顔があった。フルタ少尉だ。

 彼は先にレストランで少佐の到着を待っていた。レストランの一番奥の壁側に位置するテーブルだ。


 同じテーブルにつく少佐。フルタは敬礼代わりに軽く会釈をした。

「おはようございます。チーフ」

 フルタは言った。

 周囲に一般人が多数いる場合、少佐のことは、『チーフ』と呼ぶ手筈になっている。

「おはよう、フルタ」

「コーヒーをお持ちしますか?」

「いや、今はいい」

 年下のフルタに気を使い、申し出を断る少佐。


 小声で話すフルタ。

「昨夜の件で負傷者は出ましたが、幸い犠牲者は無しです。例の爆発で、こちらも、お庭番側も脱出することに精一杯でした。向こうも、あの混乱で追尾を一旦諦めたようです」

「こちらの方が少数だったことが幸いしたな。結果的に逃げやすくなった。最初の爆発はお庭番の魔法だろう。そして、次の大爆発が例の少年の仕業だ」

「あの少年、どのような能力者でしょうか?爆発なので、炎系統の能力でしょうか?」

「そう断定するのは早い。爆発の直前、彼は『炸裂』と言った。しかも、炸裂させる範囲を指定していた。とすると、炎系統ではなく、空間魔法の一種ではないかと思われる」

「空間魔法ですか?ですが、どのみち厄介な能力です。あの威力、工場を完全に破壊しました。ニュースでは放置された燃料が原因ではと言われていますが、通常の空爆でもあれだけの破壊をもたらすのは難しいでしょう」

「郊外の工場跡だったのが、幸いだった。もっと都心部なら、余計な連中の関心まで寄せた危険性もある」

「軍情報部ですな?」

「ああ。連中に感づかれるのはマズい。だが、この一件は警視庁と消防も事故の線で検証しているようだ」

「なら、こちらに類が及ぶこともないでしょうな。それはともかく、あの少年です。どうします?」


 フルタに問われた少佐。一瞬、間をおいて答える。

「捕縛は中止だ。が、監視は継続する。彼自身、魔法使いになりたてで、自分自身の魔法をコントロールしきれていない部分があるようだ。そのような状況下で捕縛するのはリスクがある。それこそ、また大爆発では困るからな。それにお庭番の動向も気になる。あの少年の背後にお庭番がいる可能性があるんだ」

「本当ですか?」

表情の強張るフルタ。

「今はまだ確たる証拠がない。だが、可能性はある。お庭番はなぜ、こちらの居場所を見つけた?あの少年に張り付いていたんだろう。もしかしたら、彼を囮にしてこちらを誘い出したのかも」

「うーむ」

 フルタが唸る。

「だとすると、彼の捕縛はおろか、監視も難しくなりますな」

「その通りだ。あの少年と、家族の監視に関しては作戦を練り直そう。他の者にも連絡を」

「はっ!直ちに」

 フルタは会釈し、席を立つ。


「待て」

 フルタを止める少佐。

「朝食はいいのか?」

「ご心配なく。もう済ませました。ここのホテルは味噌汁が美味いです。和食バイキングをおススメします」

 フルタはニコッと笑うとレストランを離れた。


「和食か・・・」

 少佐も立ち上がる。

「納豆だけは苦手だな・・・」

 少佐は和食バイキングコーナーへ向かった。


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