1 光る飛行物体

「マスター、おすすめのランチメニューってあるの?」

 今日は昼過ぎにドライブイン、エッグベースで待ち合わせだ。サムがさっそく訊いてみた。

「そうだなあ、今日はおいしいシーフードが入ってるんだ特に甲イカがいいよ。シーフードピザスティックサラダセットなんてのはどうだい」

 サムがさっそくメニューを確認する。

「お、いいねえ。イカにホタテ、カニ、それにしちゃおうかな」

「な、うまそうだろ、確かエリカも食べたことないんじゃなかったっけ」

「ええ、本当、食べたことない。私もそれにする」

「え、じゃあ僕もそれにします」

 なんか今日はエリカとテリーもいい感じだ。やがてドライブインの時短料理が手早く出来上がっていく。まず、冷蔵庫から出された四角いピザ生地に手早く2種類のとろけるチーズと細切りにしたパンチェッタがのせられ、そこにオレガノを少々振りかけたらオーブントースターで焼き目をつけていく。そして、その間に、切り込みを入れて衣をつけて用意しておいた甲イカをさっと油で揚げ、同時に隣のフライパンにみじん切りにした赤と黄色のパプリカと玉ねぎを炒めて、ウスターソースでさっと炒める。そこにアンジェラのとろとろのフルーツミックスネクターを加えたら、揚げたてのイカフライをからめてイカフライフルーツソースの出来上がり。そして四角いピザが焼きあがったら、それを取り出して生野菜と甘酸っぱく仕上がったサクサクのイカフライを細く切ってくるくると巻いていくのだ。プレートに乗せたら、マリナおばさんのカニサラダとホタテのガーリックバター焼きを添えて出来上がりだ。

「画期的だ。スティックになって食べやすいし、味も最高だ!」

 サムがピザスティックをどんどん食べ進む。テリーは、スティックの中のイカフライを味わったまま動きが止まる。

「イカの旨味とフルーツの甘酸っぱさがしっとりしたピザの中で溶け合って、まるで北京ダックを食べてるみたいダイアあ、うまい!」

「イカのサクッと香ばしいところが最高ね。ホタテはパン粉や粉チーズがいい仕事してるわ。ガーリックバターがくせになりそう」

 今日も三人の食欲は止まらない。そして今日は男爵邸に着くと、あの顔の怖い警備員のシェーバーが、画面の向こうで怒鳴った。

「今日は二階の執務室と会議室だそうだ。奥様のアクセサリーやら高価なものが展示してあるから、触ったりするんじゃないぞ、サム」

「なんで俺だけ…」

 そしてあの2メートルの執事パーカーに連れられてリビングの大階段を昇って行く。男爵はこの墓場公園、ミステリーランド、博物館のオーナーだし、いくつかの財団の理事でもあり、立派な執務室と会議室を持っているのだ。

「こちらが男爵の執務室です。奥の会議室で、もうお客様やグリフィスお坊ちゃんの用意ができています。どうぞ」

 サム、テリー、エリカの順で重厚な家具が置かれた部屋に入っていく。なるほど、部屋のあちこちに彫刻や工芸品、アクセサリーなどが飾ってある。壁にはゼリーボーンズのキャラクターの手書きのイラストも貼られ、机の上には描きかけのイラストも載っている。

「あれ、これゼリーボーンズの愛犬ブルーザーのライバルの猫キャラ?魔法猫ファティマっていうのか!すごい、出来立てだ!」

それだけではなく、男爵の机上には、アンディーザアンデッドや、スカルマリアなどの非売品のフィギアもいくつも置いてある。

「…えっ、こりゃすごい、本物の宝石?」

なんと執務室の机の正面に飾られてあったのは、黄金のマイケルボーンズのフィギアだった。しかも、ルビーやエメラルド、サファイアなどが、体のあちこちで輝き、瞳の奥にはダイアモンドが光っていた。制作したのはルナサテリア夫人らしく、黄金や宝石がきらめいていても、とても上品で神々しくさえあった。つい、手に取りそうになり、シェーバーの言葉を思い出して手を引っ込めるサムだった。

そして三人は奥の会議室まで歩いていて呆然とした。男爵が正面に腰かけ、息子のグリフィスがプロジェクターと大画面を操作しに来ているのはわかったが、その隣に普通ではありえない三人が座って、楽しそうに話をしていた。男爵がサムたちを紹介してくれた。

「ようこそ、よくいらっしゃいました。あれがネットで有名人のサム・ピート君、隣が大学で生物を研究しているしっかり者のテリー君、そしてわがエッグシティの市長のエリカさんです。この方たちは、とても理解があり、また秘密もよく守ってくれるすばらしい人たちです。サムさんは有名人なのにとてもフレンドリーでしかもゼリーボーンズのお菓子についてとても造詣が深い。テリーさんは、私の関わっている多様性への理解もとても深いのです。エリカさんは子供のころからこの市でボランティア活動などをしていて我が家の家族もよく知っている賢い方です」

そして男爵は驚くべき紹介を始めた。

「この方が、過去へ未来へと時間を自在に飛び回る未来人の時間調査員、サンジェルマン伯爵です。今日は18世紀のフランスから駆け付けてくれました」

なるほど、フランスの貴族風の衣装で椅子に座っている。

「お初にお目にかかります。サンジェルマンです。サム君、テリー君、どうぞよろしく。エリカ市長、噂通りのお美しい方ですね。足をお運びいただき、ありがとうございます」

エリカは未来人だと聞いて、さすがにこれは信じられないと思ったが、本人を見て少し考えが変わった。上品な立ち振る舞い、冷静でゆるぎない落ち着き、そしてすべてを見通す叡智を感じさせるまなざし、間違いなくとんでもない人物に違いない。

「隣はこの地域の洞窟で数千年にわたって暮らしてきた地底人の若きリーダー、マグナス君です」

この間会った、地底人二人組の部族の首長にあたる人物だという。プラチナブロンドの長い髪と大きな青い瞳を持ち、実に端正で知的な容姿であった。マグナスは言葉少なに会釈をしてくれた。先住民やこの地域の古代の歴史に詳しいと言う彼はいったい、何を語ってくれるのだろうか?!だが問題はその次だ、男爵はあの卵をなんと説明するのだろう。男爵は大きく息をして、一気にしゃべり始めた。

「最後の一人、彼は宇宙人連合リグラルのリーダーの一人、チャールズ・アストリウスです。地球人よりはるかに高い知能を持ち、サイコキネキスなどの超能力を使うこともできるのです」

…予想はしていたが、チャールズはどうやら宇宙人だ。もう頭がどうにかなりそうだ。するとサムが好奇心たっぷりに質問を始めてしまった。

「一つだけいいですか?、最初プールでお見かけしたときは毛むくじゃらだったと思うんですが…」

するとチャールズが立ち上がり、自ら語り始めた。

「私は皮膚の色や形状を自在に変えて、周囲の自然に溶け込ませることのできる、軟体動物から進化した高等生物なのです。地球でいえばイカに一番近い」

「…イカ…?」

そう言ったとたん、体の表面にゴツゴツしたコブが浮き上がり、色も白から暗褐色に変わり、気が付けば岩そのものに変化した。さらに小さなコブが無数に浮き上がったかと思うと、それが出っ張って緑色に伸びてゆき、細長い海藻のように揺れだした。こうなると、海藻の生えている岩か海底のようにしか見えない。

「しかもこの海藻の色を変えてさらに細くすると…、ほらね毛むくじゃらの生き物になるわけさ」

そう、その時にはチャールズは、すっかり毛むくじゃらの生物になっていたのだ。

「さらにこの形態だと、皮膚の面積が増した分、水中での皮膚呼吸が楽になり、長く潜っていられるっていうわけさ。だからペットの宇宙生物ナマズカワウソのキャスパーとプールで泳ぐときは、皮膚呼吸が楽になる形態をとるんだ。逆に、長時間水から離れているときは、体が乾きにくいように皮膚の表面をつるつるにして体を縮めているんだ。そうすると卵とか、ハンプティダンプティとか呼ばれるのさ」

そう言って、チャールズはにっこりし、体を一瞬虹の7色に波立たせ、その後、白くなって卵にかえった。サムは、あのペットが宇宙生物ナマズカワウソと聞いて納得したようだった。すると男爵がみんなを見回して言った。

「では、本題に入ろう」

まず、グリフィスが大画面に二つの光の玉のようなものが空でぶつかり合うように飛び交う動画を映した。男爵が言った。

「今から数年前にエッグシティの北東の自然保護区域の上空で確認された映像だ。赤と青の二つの光の玉が戦いながら飛行しているように見える。そして光の玉は強く輝いた後、二つとも墜落を始めた」

墜落し始めた未確認飛行物体は、北東部の自然保護区域の森林の中へとばらばらに落ちて行った。一つは街に近い林道のそばのおだやかな丘陵地に、もう一つはかなり山奥の原生林の中へと落ちていったのだった。たまたま4名の自然保護管やカメラマンと環境調査に来ていた男爵たちは、軍より先に4WDで現場に行き、偵察任務に当たることになっていた。最初は軍も男爵たちも現場に危険がないかどうかの確認をする程度に思っていた。だが未確認飛行物体はどちらもうまく不時着し、乗務員たちも全員生存していた。そこには予想できない未知の危険が待っていたのである。

男爵たちは野生動物と接触するのと同じように、刺激を与えないよう、武装は最低限に抑え、車で近づいた後は徒歩で静かに接近し様子をうかがったのである。

まずは丘陵地の、赤い光の落ちた現場から確認を始めた。ちょうどなだらかな丘の上の草原地帯に不時着できたためか、宇宙船にはほとんど破損被害もなく、周りの山林への被害や危険も特に確認されなかった。

「特に大きな危険もなく、被害も認められないので、私たち自然保護官グループは、それを軍部に報告し、さっそく次の山の奥の原生林の現場へと向かったのです」

同じように、刺激を与えないように注意をはらって接近し青い光の玉の落ちた辺りに到着したのだが、深い原生林に落ちたため、かなりの樹木がなぎ倒され、飛行物体も明らかに破損が認められ、ここで男爵は決断を迫られる。

「爆発の恐れはないようだが、けが人が出ているかは否めない。私は決断して、二人の自然保護官と一緒に、武器を全く持たず、救助活動に向かった。飛行物体は意外に大きく20メートルほどあり、地面に傾いた形で不時着していた。するとその時、テレパシーで話しかけてきた何かがいた。私は心の中で、私たちは自然保護官だ。けが人や緊急事態が起きているのなら、ぜひ協力したい、と何回も念じてみた。するとしばらくして金属製のゲートが開き宇宙船用のスーツを着て出てきたのがここにいるチャールズだったのです」

するとチャールズも立ち上がって付け加えた。

「私たちも、もう一つの飛行物体との戦いに巻き込まれ、不時着し、実際にけが人も出てとても不安でした。でも私たちにはテレパシー能力に優れた仲間がいて、男爵の思いを受け止めることができたのです。近づいてきた地球人がとても友好的で、本当に私たちを救出してくれそうだとわかり、とても安心したのを覚えています。それが男爵との出会いでした」

だが宇宙生命体の救出となると、騒がれて面倒なことになる。男爵はすぐにグリフィスに連絡を取り、運搬車両を呼び寄せ、軍やマスコミにに知られないようにして自然保護官による救出作業を始めたのだった。

「ところがそのころ、私たちが最初に確認していた丘陵地の現場に、軍の特殊部隊が到着し、大変なことになっていたのです」

大画面を操作していたグリフィスが、特別に入手したその時の画像を映し出した。

なんと軍隊は男爵たち、自然保護官たちとは違い、装甲車にバズーカ砲、マシンガンにショットガンと、完全武装で丘陵地の不時着物体に近づいて行った。宇宙船側もさすがに警戒し、警告音を放ちながら、数人の戦闘アンドロイドを船外に放った。戦闘アンドロイドは、黒いヒューマン型アーマーボディに、頭のかわりに双眼鏡のようなセンサーボックスユニットがついている、キューブヘッドと呼ばれるタイプだった。警戒はしていたものの自ら攻撃することはなかった。だが、なんと軍隊の隊員が危険を感じてマシンガンを発砲してしまったのだ。

「キュウィーン、キュウィーン、キュウィーン…」

警告音が鳴り響き、キューブヘッドたちも警戒モードから戦闘モードに変わり、襲い掛かってきた。マシンガンをぶっ放しながら展開していく軍の兵士たち。画面を見ていたテリーがつぶやいた。

「マシンガンが全く通じない。ショットガンも跳ね返されるようだ」

そこから先はお話にならなかった。数人の兵士がキューブヘッドの超合金の拳やアームカッターで吹っ飛ばされ、あとは這う這うの体で退却していくしかなかった。最後に軍の部隊は、バズーカ砲を撃って意地を見せたが、地面ごと吹っ飛んだあと、キューブヘッドは何もなかったようにまた立ち上がったのだ。もう打つ手はなかった。軍の部隊は退却し、それから1時間後、破損のなかった赤の宇宙船は堂々と飛び立ちどこかへ消えて行ったのだった。

一方、原生林の不時着機はその日のうちに軍の爆撃機によって粉々に破壊されていた。

それで事件は終わったように思えたが、実は青い光の飛行物体に乗っていた異星人たちは、そのまま近くの林道まで迎えに来ていた自然保護官の幽霊バスに乗り込み、男爵の屋敷に直行、しばらくそこでかくまわれることになった。

するとまたチャールズが発言した。

「あの赤い光の飛行物体は、宇宙機械生命帝国パズマの宇宙船です。パズマは、宇宙をすべて、メカを使った効率的単一的な世界に作り替えようと、あちこちの惑星を攻め続け、 一時は大規模な宇宙戦争へと発展したのでした。我々惑星も力を合わせて惑星連合リグラルを組織し、それぞれの惑星の科学力を結集し、対抗しました。その結果リグラルは超能力を使う戦いでパズマに勝てる道を発見したのです。その結果、パズマは数千年前に一度、惑星連合リグラルによって根絶されたはずでした。が、最近パズマは、再活動を始めたのです。私たちはパズマによって住む星を追われた異星人たちや貴重な宇宙生物を滅びないように集めて回る活動をしていました。でもあの赤い発光体のパズマの宇宙船が地球で妖しい行動をとっているのを見て追跡したところ、奴らは、数千年前の戦いの時に地球に眠っていた古代の何かを捜していたらしいのです。彼らはそれを発見することはできないうちに私たちに邪魔をされ、それでこちらを攻撃してきたのです」

だが、そこで男爵が続けた。

「だが、戦いの前に、彼らは別のことを成功させていたようだ。そうだね、チャールズ」

「はい、詳しくはわかりませんが、私たちが最初彼らを見つけて接近したとき、すでに彼らは、エッグシティの地下に向けて強力な電波を発信させていました。そしてそのあとで地下からも何らかのエネルギー波のような反応が返ってきたのです。私たちと戦闘になったのはその直後です」

「…地下から反応が返ってきた…。それってまさか…?!」

サムの言葉に男爵が答えた。

「…数千年の間休眠状態だったものを、何らかの方法で起動したのかもしれぬ。そうだね、マグナス君」

するとプラチナブロンドの地底人マグナスは、立ち上がってしゃべりだした。

ちょうどその事件のあったころから、エッグシティの地下から奇妙な振動が観測されるようになりました。我々の部族の長老はみな同じ事を口にするようになりました。大地が飛び立つ日は近いと」

「大地が飛び立つ日ってまさか?!」

「それについては、我々洞窟先住民の神話から話さなければなりません、グリフィスさん、お願いします」

さっそくグリフィスが、先住民の古代の壁画の拡大映像を画面に映した。マグナスが話始めた。

「この洞窟壁画の端を見てください、大きな隕石のようなものが映っていますね。我々の神話では次のようになっています。ある日天の神が自分の盾を地上に落とした。山は崩れ、谷は埋まり、そこに盾の形をした大きな平地ができた。我々の先祖はそこを盾の平地と呼び、そこにに移り住み平和に暮らした」

そうだった。古代ではこの街はエッグシティではなく、盾の平地と呼ばれていたのだ。先住民が昔使っていた盾は、円形や楕円形のもので、それが隕石として空から降ってきて、それで山が崩れ、谷が埋まり、山中に突然、奇跡的に卵型の平地ができたというのだ。サムとテリーは地下の歴史博物館に展示されていた先住民のカラフルな盾を思い出していた。マグナスの話はさらに続く。

「だが、盾と一緒に戦士の心臓まで落としてしまった天の神は、心臓を捜すために盾の形をした遣いを地上に遣わした。また盾をねらって宝石の悪魔まで現れ、盾の戦士と戦ったと言われています」

画面にはあの地下の歴史博物館にあった卵型の土偶や頭が宝石の悪魔の像が映っていた。でも神話を聞いてみると、あの形は卵ではなく、楕円形の盾の形だったかもしれない。

「さらに突然地面や壁に穴が開き、魔獣が出てくる仕掛けを悪魔たちが残していきました」

「え、それってクーパー爺さんが言ってた怪物…」

するとチャールズがさらに言った。

「私たちは異空間航法という方法で何万光年という宇宙空間を飛びます。しかし機械生命帝国パズマは、その技術を使って、恐ろしい宇宙生命体のいる空間をつなぎ、トラップを作ったのです。我々リグラルの捜査を邪魔しようと、そんな恐ろしい罠をここにいくつも仕掛けていったのです。しかしそのおかげで先住民たちは大きな被害を被りました」

すると地底人マグナスが自分の銀色の髪の毛を触りながら続けた。

「私たち盾の平地に住んでいた部族は怪物に追われ、二つに分かれました。一つは東の渓谷の向こうの盆地へと逃げ、今の先住民の部落を築いたのです。でも我々の部族は西北の洞窟へと逃げました。そこで洞窟暮らしを始めた私たちは、洞窟のさらに奥で三つの大空洞と、限りないキノコの森を見つけたのです。グリフィスさんにデジカメをお借りして、今朝撮ってきた写真です」

「おおおっ!」

みんなが驚きの声を上げた。

そこには水晶のような青い地底湖と白く輝くいくつもの鍾乳石、そして見たこともない巨大なキノコの森が広がっていた。男爵が付け加えた。

「ここには彼らの秘密の生活を守るため、地上の人間は一度も足を踏み入れておりません。しかし聞くところによれば、ここでしか見ることのできない珍しいキノコだけでなく、大型のヤモリや何種類もの発光する昆虫などもいるそうです」

テリーがとても興味を示し、ぜひ、ぜひ迷惑はかけないから見学させてくれないかとマグナスに声をかけた。するとマグナスが言った。

「男爵が保証するテリーさんなら、大歓迎ですよ。受け入れる用意ができたら、一度お招きしましょう…」

それからマグナスは本題にもどり、グリフィスに次の画面を頼んだ。画面が石板の写真に変わった。古代の地底人のものだという。

「神話には古代の予言者の言葉もあるのです。それこそが大地の飛び立つ日の話です。盾の平地が打ち震え、あるいは大きく揺れだしたときは恐れるがよい。飛び立つ日は迫っている。たとえ夜であろうとも、すべての民は盾の平地から逃げ出せ。遠くへと逃げ出せ。女、子供、年老いたものや病人は早めに家を捨てろ。運命は待ってくれない。大地はすべてを巻き上げ、大空へと神の盾とともに飛び立つであろう。そしてその前後に、宝石の悪魔や虫の王が訪れるだろう」

その時、大画面には最近の微小地震の頻度と強さのグラフが映された。

「グリフィス、これ、本当なの?」

「ああ、マグナスの言葉を聞いて、僕もこの地域の地震データを大学の研究室から取り寄せたんだ。すごい回数だろ。しかも、あの地下の崩落現場が震源地で間違いないそうだ。今は微細な地震でほとんど気付かないけど、このまま回数や強さが上がっていくと、あと数日で、市民の誰もが不安を感じるような事態になると思うよ」

みんなマグナスやグリフィスの言葉を聞いてシーンと静まり返ってしまった。そして最後に、あの未来人サンジェルマン伯爵が立ち上がった。

「この地方都市エッグシティの大惨事については、私たちの歴史書にあります。古代に都市の地下に埋まっていた数百メートルある宇宙船が半重力エンジンで突然飛び立ち、約9万8千人の命が一瞬にして奪われます。しかもその前後にもう一つの何かを巡って戦いが行われ、その結果、機械生命帝国パズマが宇宙戦争の覇権を握るような重要な結果をもたらすのです。我々時間調査官は原則として歴史そのものを書き換えるようなことはしません。でも、宇宙の多様性の大きな妨げになるパズマの復活とエッグシティの大災害を黙って見ているわけには行かないと考えたのです。そこで男爵やミュリエルが中心となり、この時代の人間で、この時代をどうにかできないかと動き出したわけです。そしてあなたたち三人が呼ばれた」

そこでエリカが発言した。

「大地が飛び立つのを止められなくても、市民を脱出させ、助けることはできるかもしれない。そしてもう一つの戦いで宇宙の多様性を守ることはできるかもしれないということですね」

「そういうことです」

そしてサンジェルマン伯爵は、小声でそっとエリカにささやいた。

「ええ、そんな、その日までもう1か月もない…!」

「おっと、もう時間です、次の時代へと行かなければならない…。私は歴史を見守り、宇宙の時間の流れ、進化の流れを見守り、多様性のある流れへと導く者…。皆さんの活躍を祈っております…」

そして伯爵は、みんなの見ている前で消えて行った。

そのあとでチャールズが言った。

「我々は、赤い光の宇宙船が古代の巨大宇宙船を復活させるのを止められなかった責任もあるので、しばらく男爵に協力しようとも思いました。ところが男爵の家があまりに居心地が良くて、住み着いてしまったんです。貴重な宇宙生物もまとめて面倒見ていただいています」

すると、サムが突然大きな声を出した。

「男爵、すいません、大変失礼なことを聞きます…あの、以前から、家政婦のバーゼルさんの鼻が長く伸びるのが気になってしょうがないのですが、彼女はチャールズと同じ、宇宙人なのですか?」

「ははは、やっぱりバレていたか。彼女も宇宙人だ。彼女は知能だけでなく、運動能力もずば抜けている。あらゆる仕事を見事にこなす我が家のスーパー家政婦だ。あと私の水族館や植物園の中には、チャールズが他の惑星から非難させてきた宇宙生物や、サンジェルマン伯爵から預かった太古の絶滅生物もいる」

さらにサムが訊く。

「ええっと、一応聞くだけですが…執事のパーカーさんと、警備のシェーバーさんは宇宙人なんですか?」

すると男爵が笑った。

「パーカーは宇宙人でも宇宙生物でもないよ。あとシェーバーはれっきとしたこのエッグシティの近くの生まれだ。変なこと言うと、また怒鳴られるぞ、サム君」

それにしてもすごいメンバーだ。未来人は時々来るだけだが、地底人は連絡すれば、すぐ地下室から来てくれるし、霊能力を持つ超能力者もいる。王家を守る7人の騎士の幽霊が見張っているし、宇宙人が働いている。古代や宇宙から来た生物も生きている。

男爵は、自分の家の中でも多様性を実践している、本当に立派な人だ。

そして会議は終わった。

テリーはビジネスホテルに戻ると、諜報部の上司に街の危機を知らせるかを、かなり長い時間かけて考え込んでいた。そして何度か報告書を書き直すと、最後に次のように報告書をまとめた。

「…以上のことから私は次のことに注目した。1、軍が管理している街の地下の巨大な発掘物が実在するのは間違いないこと。2、軍の管理する地下からの胎動とだんだん回数が増えていくエッグシティの地震との間に、明らかな関係性が確認でき、しかもこのままでは、地震の強さと回数が上昇し続ける可能性が高いこと」

そして次のように警告を送るものである。

「きわめて近い将来に巨大な地震など、予期せぬ大災害が起こる可能性がある。これはもう、軍部などの内部にとどめておくべき問題ではない。専門的な地震の観測と、早急なる軍部との正式な対話の用意が必要である」

さて諜報部の上司たちはどう反応してくるか…?

その時、テリーに珍しく電話がかかってきた。エリカだった。

「テリー、ごめんなさい、夜遅く。あさって、水曜日の昼なら時間が取れそうなの。ドライブインの個室がとれたから、二人きりで会っていただけないかしら」

突然の誘い、だがエリカは要件を一切しゃべろうとしなかった。

「ああ、もちろんオーケーさ」

テリーが明るく答えると、エリカは。

「ありがとう、じゃあ12時すぎにエッグベースで…。おやすみなさい…」

そう言って携帯を切ったのだった。

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