第2話.男? 女?

 この感覚は二回目だろうか。徐々に意識が回復していくのが分かり、視界もぼんやりとピンぼけしたものではなくて、しっかりとしたものになっていく。


 そして完全に意識が覚醒した時。私は寝転がった状態から起き上がり、状況を確認する為に辺りを見渡した。 


「……草原……初めて見た……」


 少し先には街が見えるが、それを除いたら見渡すほどの浅い緑色が世界を包んでいた。


《一件の着信があります》


 ……なんだこれ。

 なんの前触れも無く視界の端にゲームのウィンドウみたいなものが現れたので、試しにタッチしてみる。すると、通話を開始しますという言葉の次に、見慣れた光が俺の目の前に現れた。


「ようブラザー。どうやら無事に転生出来たようだな」

「あ……うん、おかげさまで」

「何か違和感とかないか? 色々と弄くらせてもらったんだ。不快感とか違和感があったらいつでも言ってくれ」


 弄る……? いや、まぁいい。向こうの話だろう。


「違和感は特にないかな。いつも通りって感じ」

「なら良かった。早速説明に入らせてもらうぞ」


 光が少し俺から離れる。


「ブラザーも気付いていると思うが、この世界は地球で言うゲーム世界を表した世界だ。ジャンルはファンタジー。だからこういった通知ウィンドウだったりが存在する」


 光が説明してくれると同時に、俺の目の前に数字が書かれたウィンドウが展開される。


 どうやらこれはステータス画面らしく、POWだとかSPDだとかが表示されていた。


「へぇ、便利だな」

「あぁ、こうするとオレ様達も管理しやすいからな。win-winって奴だ」

「他には?」

「他は……そうだな。これなんかどうだ? オレ様からのサプライズだ」


 視界の中央に小さなウィンドウが表示される。そこには、〈アイテム袋を入手〉と書かれていた。


「それはゲームで言うインベントリだ。300キロという重さ制限はあるが、それを満たすまでは何個でも物を入れられる。使い方は簡単、物に触れて収納って言うだけだ。思うだけでもいい」


 神様の言うとおり、俺はそのへんに生えていた草をむしり取って、収納と念じてみた。


「おぉ……」


 パッ、と消えた草に、思わず感嘆の声が漏れた。インベントリを意識して念じてみると、1つ1つ正方形のマス目に区切られたよく見るアイテムボックスが出現。さっき入れた薬草が小さくなって収納されていた。


「取り出す時はそのアイテムを手に取ればいい。簡単だろ?」


 なるほど、大体使い方はわかった。たしかにこれは便利な機能だ。なれない世界での生活に役に立つことだろう。

 ただ1つ聞いておかなければ。


「これってもしかして、この世界では珍しかったりってある? 下手に見せて面倒事になるのはよくアニメとかで見たけど」

「安心しろブラザー。これはそこらで普及してる代物だ。見せても誰も驚きはしねえ」


 ならよかった。これで騒ぎになって命を狙われるとかになってしまったら俺の平穏な生活が奪われてしまうことになる。


「あぁー……その点なんだが……オレ様の口から言うのは違うか……? いいや、やっぱりいうべきか……」


 珍しく神がもごもごと声を濁して喋る。いつもはきはきとこれでもかというくらい元気に話していたのに、いきなりこの反応はどうしたんだろうか。


「あぁ、まずはそうだな。自分の姿を見るのが早いかもしれない。胸を触ってくれ」

「……は?」


 突拍子もないその言葉に、間抜けな声が漏れてしまう。

 胸? まさかこの神女だったのか。というかいきなりなんだセクハラか……?


「いやいや、オレ様に性別なんて存在しない。表現しようとなると、オレ様は女であり男である存在だからな。じゃなくてアンタのほうだブラザー」

「俺……? やっぱりセクハラか……?」

「いいから触れっ!! オレ様怒るぞ!!」

「もう怒ってるし……」


 なんなんだこの神は……。さっきから視界をピュンピュン飛び回って鬱陶しいし、やることが小学生の駄々こねみたいだ。


「もう分かった。そんなに嫌ならオレ様が触ってやる。神に触られることを感謝しろ――」

「余計駄目だバカか」


 俺は目の前の光にチョップを食らわせると、光は明滅しながら地面に落ちていった。


「あぁー……ならもうネタバレしてやる。ほら、これを見ろ」


 神様はゆらゆらと起き上がって……浮き上がってくると、一瞬強く光った。すると目の前に大きめなウィンドウが表示される。

 そこには、長くて綺麗な黒髪に、透き通るような茶の瞳をした女性が立っていた。目はぱっちりしていて、顔の輪郭も丸く、服の上からでも分かるふっくらとした胸の膨らみが特徴だろうか。


「えっと……どちら様で?」

「ブラザーだ」

「……いやいや、俺はこんなんじゃないって。もっとこう、筋肉があって男らしくって……ていうかこの人女じゃねぇか!! 俺は男だッ!!」

「いや、間違いなくブラザーだ。あぁー……ちょっと違うな、これが本来のブラザーになる予定だった、といえば分かるか」

「あぁ……! ……あぁ?」


 本来の俺……?

 一体どういうことだろうか。俺は疑問の目を向けると、光はふよふよと弱々しく宙に浮き続けていた状態から、俺の目線まで上がってきた。

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