風声
「村長は雷も鳴る村雨。お説教を聞いてる間は不愉快極まりないけど。後からよくよく考えれば、確かにと思わないでもないから」
「ふ~ん」
「兄者は風花。何時も冷たいけど。気紛れに出て行って帰って来た時は、心躍らせてくれる話を聞かせてくれたり物を見せたり食べさせたりしてくれるから」
「ふ~ん。なら俺は?」
初めて話に興味を示すように、頭に生えている三角の耳を動かす九尾の狐を半眼で見やる。
「あんたは春一番」
「へえそりゃあめでたい」
にやにやと厭らしく笑う九尾の狐に、めでたくないしと断言する。
「最近の春一番は変なものを大量に連れ込んでくるから迷惑」
「ふ~ん。あっそ。俺は迷惑ですか」
「迷惑ですね。ぐちゃぐちゃにして落ち着かなくさせる。早く薫風にでもなってほしい」
「風で言い訳?」
「いい」
「ふ~ん。あっそ、うですか。ふ~ん。せいぜい風を俺だと思って吹くたびにつまんねーことを話すんだな」
「そうね。あんたが寂しがって会いに来たんだと思って心中で話しかけるわ」
「あのなあ。守り神を敬わないと痛い目に遭うぞ」
「だから言の葉を贈ってるんじゃない」
「………口の減らないやつ」
「どういたしまして」
「………痛い目に遭わせやしないから安心しろ。おまえさまは俺を一度助けてくれたからな」
「………うん」
口を僅かに尖らせる九尾の狐に、笑いかける。
いいんだ別に。
いずれ確実に私はあんたが見えなくなるんだろうけど。
感じられればそれで充分。
だから、私なんぞに縛られず、自由に地に空にと舞ってほしいんだよ。
(2021.5.11)
『五月雨を集めて早し最上川』(奥の細道より)(松尾芭蕉)
「降り続く五月雨(梅雨の雨)を一つに集めたように、何とまあ最上川の流れの早くすさまじいことよ」
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