第60話 一人娘は大切に


楓のものであったであろう大量のプリント類は定期的にシュレッダーしていたらしく、テストの結果なども全て処分されていた。


残りの書類は絵と・・・修学旅行の栞と・・・書初め?それと工作類が多数。


中には合唱の楽譜、吹奏楽の楽譜もある。楓が何の楽器をやったのかは今度聞いてみよう。


「かなりコンパクトになっていますが・・・通信簿などは取っておいてあります」


「こちらは荷物を置かせて頂いたのでそれだけで有り難いです。長年に渡って甘えてしまい・・・ご迷惑でしたよね?」


「それが・・・親子の話のきっかけとしては良いタイミングだったんですよね」


「・・・と言いますと?」


「女の子の成長は早い。わたしが乃絵瑠の身の周りのことで手伝えることは無くなりました。そんな乃絵瑠がわたしに頼み事する時は楓さんのことだけ。だからわたしは腕まくりして好きでやっていたんです。娘とのコミュニケーション、大事でしょう?」


「あー、なるほど。娘さんに嫌われる父親は多いと聞きます。お父さんは上手くやられてるほうでは?」


「こちらもどこまで踏み込んだら良いか、わからなくてね。良いと思っていた部分が、家族として許されていた領域がダメになったりすると少し寂しいですね」


一人娘だよな?めっちゃ愛情をかけてるんだろうなってのが伝わってくる。今まさに娘の成長を目の当たりにして、複雑な心境なんだろうな。


「ノエルさんは良い子だと思いますよ?」


「ですかね?一人っ子なので甘やかしてる自負はあるのですが。どうしても、まだ幼い時の乃絵瑠を思い出してしまうんですよ」


楓とノエルちゃんがいないからって、この父親、赤裸々に語りすぎだ。


このままダンボールを持ち上げて話を切り上げるのもいいが、楓が少し焦ってるみたいだった。だから、


「りゅーたー、りゅーたー。一個持って?」


俺が持とうとした段ボールの上に追加のものが置かれる。


「ごめんな、楓ちゃん。まだ荷物があったか」


「ううん、服とかだから。さずがにこれはおじさんには頼めないからさ」


「乃絵瑠は出てこないのか?まったく・・・楓さんのお父さんに挨拶もしないで。すみませんね」


「おじさん、今ノエルちゃん燃え尽きてるから、お疲れモードだがら大丈夫だよ?」


「??」


ノエルちゃんのお父さんの疑問は尽きなさそうだ。俺は苦笑いして段ボール3つを持って会釈した。


「今後とも、乃絵瑠を頼んだよ、楓ちゃん」


「楓とノエルちゃんはずっと仲良しだから大丈夫だよ」


「わたしからも、楓を宜しくお願いします」


「こちらこそ。ほんとに、楓ちゃんは太陽みたいな子だ」


「褒められちゃった!りゅーたも褒めてね?」


「こら、調子に乗るな。それでは失礼します」



ーーーーーー



「楓、これおまえのじゃないだろ?」


俺は追加の荷物・・・頭の横をフラフラと揺れているやつを鼻で指して聞いてみた。


「え、りゅーたにバレてる!?ナンデ!?」


「いや、あれだろ?十中八九、彼氏君の私物が入ってるんだろ?」


「びっくり仰天っ!どんな勘?りゅーた今日冴えてるっ」


「あんな娘大好きカタブツとっつぁんの話を聞いてたら、彼氏いるなんて言えないだろうしなぁ。色々と窮屈そうだ」


あれ、あの子なんて言ったっけ?妹尾くんだっけか?


「お父さんに見つかりそうになって、二階から飛び降りて逃げたりしてるらしいよ」


「忍者かよ!」


「それで、いつも妹尾くんはノエルちゃんちに私物を忘れちゃうみたい」


「お父さんにバレたら大変だな!」


「うん。ノエルちゃん、真剣に掃除してて、終わったら真っ白になってた。良い子でいるのも大変だよね」


あの父親のことだ。ちょっとノエルちゃんが元気なかったりしたら気になって一緒になって凹みそう。


「楓は良い子じゃないのかよ?」


「ふふん。良い子は住んでた家を飛び出してりゅーたの家に来たりしません」


「あー・・・別にそれは良いんじゃないか?楓は困ってたわけだし」


「どっちがよー。りゅーたのゴミ屋敷レベルをもっと早く知ってたら、わたしが掃除に行ったのに。ってことで・・・改めまして。お世話に、なるねっ?」


「ほとんど前が見えないこの状況で改まれても困るんだけど」


正確に言えば、三段になって不安定な段ボールを気にするあまり、楓の顔を見れないだけなのだが。


「見なくていいよ。今顔赤いもん」


「それはちょっと見たい・・・って油断したぁぁああ!?」


「危ないよ?りゅーたっ!?」


ぽすっ。


宙に浮いた妹尾くんの荷物が、落ちなかった。


「お母さん、ナイスキャッチー!」


「危ないわよ。全く。引きこもってたから筋力落ちたの?」


「うるさいやい」


咥えタバコをしている悠里が頭の上で段ボールをキャッチしている。


「で?どうだった?」


「何が?」


「あの父親の娘への溺愛ぶりよ。少しは落ち着いた?」


「初対面だからわからんが、ちょっと重いなアレは」


「そうは変わるわけないか」


「ノエルちゃんがね、楓がやったみたいにお父さんの目を覚まさせてーだってさ」


「おまえ、もうノエルちゃんに昨日のこと話したのか?」


「もっちろんっ。ノエルちゃんはお口オリハルコン」


「硬すぎだろ」

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