第13話 新世界


 そこは時空に隔てられた、遥か彼方にある世界――。



 世界の名は『トールキン』と言った。


 トールキンは、創世の神――または創世主、創造主――オリジンに創造された『異世界』である。

 地球に似た姿を持ち、しかし地球には無い非なる性質を持つ。


 トールキンには『大精神』と呼ばれる、自然神にして精霊でもある超自然的存在がいた。

 しかもそれらは一体ではなく、それぞれに司る自然があり、オリジンから与えられた名がある。


 地上を照らす日光を司る大精神ソール。

 夜を彩る月光を司る大精神マーニ。

 万物を焦がす炎を司る大精神ドレイク。

 水のうち淡水を司る大精神アプス。

 水のうち海水を司る大精神ティアマト。

 暖かい風と冷たい風を司る大精神ラシルとレシル。

 生命が踏みしめる地を司る大精神パンゲア。

 天を轟かす雷を司る大精神エクレール。

 最後に……深淵なる闇を司る大精神アンブラ。


 数は全体で九柱。

 大精神たちは父であるオリジンから下命を受け、トールキンを支える役割を担っていた。




 ――見よ。空が見える。不純物の一切無い清純な空だ。

 ぽつぽつと漂う雲を抜け、海が見える。山が見える。緑生えた地上が見える。



 大きな塊に見えたもの、それは大陸だった。



 パニティア大陸――。



 そう呼ばれたこの大陸は、温暖な気候を基本とし、現実世界では滅多に見られない宝庫のような美しい自然に恵まれている。


 中央から北は暖かく四季も存在するが、南に下っていくほど気温が高くなり暑くなっていく特徴があった。


 各地で織り成す自然の姿は、些か常識ではかれない特徴が見える。この摩訶不思議な光景は、ひとえに自然を操る大精神の力が影響していた。


 パニティア大陸には、一つの大きな国があった。

 その国は『ヘリオスフィア』。パニティア大陸に唯一存在する国家だ。


 太古から一国しか存在しなかったという意味ではなく、大昔は各地に様々な国が割拠していたが、ある出来事を経てヘリオスフィアを建国した初代王がそれらを平定し一つに纏めたという。


 国教に『ソール教、、、、』を取り入れ、大陸の各地に住む民のほとんどがこれに入信している。彼らは教義に従い、今日こんにちまで慎み深い生活を送っていた。


 建国して以来はや数百年の長い時が経ち、動乱や争いは決して起こらなかったとは言えぬものの、滅亡を迎えることなく恒久的な治政が続いていた。



 そんな穏やかな地上に、小さながいきなり空から降る。


 影は空を抜き、雲を散らし、宇宙から重力によって引き込まれた隕石のように大気を射抜いていく。

 これはトールキンで常日頃見られるような光景ではなく、突然起きた異常なものだった。


 天啓の前触れか、それとも災厄の予兆か。仮にこれを見捉える者がいたとしても、その時点で見極めることは難しい。



 地上へ向かって落ち行く黒い彗星の正体は――人だった。

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