バレンタイン編④

「なんなら、お姉さんが相談に乗ってあげてもいいわよ~」

「あっ、結構です。間に合ってます」


 そこは明確にお断りしておく。


「なんでよ! これでも恵一くんよりは長生きしてるんだから~お姉さんに聞かせなさいよ~」

「確かに人生経験は豊富だと思いますが、2月14日に甥っ子と鍋パしている時点で恋愛経験はそれほどでもないと思います」


 買ってきた中にはワインやら日本酒やら結構な酒が入っていた。絶対この人は今夜、俺を肴にしようと思っているに違いない。


「フフフッ......、恵一くん、そこのおネギ取ってくれる?」

「ハハハッ......、さとみ姉さん、危ないんで包丁はあっち向けてもらえますか? あっ?」


 殺気立ったさとみ姉さんと膠着状態にいると、ダイニングテーブルの上に置いてあった俺のスマホの音が鳴った。


「は? なんだこれ......? 暗号?」


 開いてみるとちょうど噂をすればの陽子からのRINEだった。しかしそこには一瞬何だか良くわからない不思議なメッセージが入っていた。


『キリスト=ス+キ(3012+F5) ヒント:神の名においてプラスを消せ』


「恵一くん~! プラスを消したらスキだよ! これって告白だよ!」

「いや、そこだけ見てどうするんですか? 他にもいろいろあるでしょ?」


 うっかり覗かれたさとみ姉さんがウキウキしながらちょっかいをかけてくる。


「え~、面倒くさいな~。なんでお互いそんな遠回しなことしてるの?」

「まぁ、小学校の頃とか結構二人してハマってたことがありまして。それより取りあえずご飯にしましょう」


 それからコタツにカセットコンロを用意して鍋をつつきながら少しだけ陽子との思い出話をさとみ姉さんにした。まだ異性とかそういうことをあまり意識していなかった頃、二人で謎解きとか探偵ごっことかそういうのが好きだった時代の話だ。


「へぇ~、最初は陽子ちゃんのほうが好きだったの~?」

「えぇ、図書室で名探偵シリーズとか読んでて、その内、女の子らしくないと思ったのか、あんまり興味がなくなったのか徐々にそういうのから離れていきましたけどね」


 で、俺のほうはそのままミステリーとか数独パズルとかそういう謎解きが趣味になった。


「じゃあ、これはきっと恵一くんの趣味に合うように考えてくれたんだよ~。健気だね~」


 基本、さとみ姉さんは酒に強いの赤い顔はしてるが頭はしっかりしている。俺ももしかしてそうかもしれないなと思った。今日眠そうにしていたのはこの問題をずっと考えてくれてたからだろうか......?


「それで~? その暗号は解けたの?」

「えぇ、まぁ。それでさとみ姉さんには悪いんですけど......」

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