閑話
バレンタイン編①
「か……加賀谷、おはよう……」
「おぅ、おはよっす。 谷口から挨拶してくれるなんて珍しいな」
隣の席の谷口が美樹部の道具を取り出しながら挨拶してきた。
「こ……これ、あげる……」
「ん? なにこれ、絵の具か?」
画材入れから一本の絵の具を渡された。色はブラウン。だがラベルにちいさく(チョコレート)と書かれていた。
「⁉︎ これって?」
「は……はやく、しまって。風紀委員にみ……見つかる……」
「お……おぅ」
谷口は俺と目を合わさずモジモジしていた。なにこの可愛い生き物? 小動物系マスコットとして男子から人気高いのもわかるな。
今日は2月14日のバレンタインデー。なんとなくクラス男子の挙動が浮ついている一日だ。だがここ海浜南高校ではチョコの受け渡しは原則禁止となっている。
「加賀谷くーん、おはよう! 朝ごはんまだでしょ? これあげる!」
「お……おはよう三好。朝ごはんは食べてきたけどな?」
陸上部の三好が少し裾上げした短めのスカートからスラっとした脚を見せながらやってきた。2月なのに寒くないんだろうか? 以前うっかり脚がきれいだと褒めてから、なんかますます短くなった気がするな……。目のやり場に困ると言ったらスパッツ履いてるから大丈夫ーとめくり上げられた時は心臓止まるかと思ったぜ。
そんな健康的アイドルの三好がバータイプの補助食品を渡してくれた。チョコレート味のタイプだ。うん、やっぱりそういうことか。
「サンキュー、ありがとな。二人とも気をつかわせて悪いな」
バレンタインは禁止のためカモフラージュを装ったのだろう。何気にクラスでも人気の高い二人からチョコが貰えて、つい顔がニヤけてしまう。
「ふっ、いいってことよー。義理だしー」
「ぎ……義理だし……」
ぐっ……! それはわかっていたさ! わかっちゃいるけど……。
「貰えるだけでも嬉しいよ、ありがとな」
期待したわけではないが言葉にされると地味に辛い。侘しさを上手く抑えた笑みでそう言うと、勘の良い三好が察したのか、
「いやー、ほらー、あたしたちが本気出したってどうせ愛人枠だしー。正妻に怒られますからー」
半分照れ隠しのようなフォローをしてくれた。
「いや、いないから。配偶者なんて民法改正されても男子は18歳まで結婚できないから」
ちなみに女子は16歳から18歳に引き上げられる。混浴していい年齢が10歳から7歳になるのになんでだよ⁉︎ あと、どうせフォローしてくれるなら、せめて友チョコと言って!
◇◇◇
「しかし校則が厳しいってのもどうなんだろうなぁー」
校長がバレンタインになんか恨みでもあったんだろうか? しかしそれで心が救われる輩達もいないわけではない。
「そだねー。でも、そういうルールなんて気にしない子もいるけどねー」
三好の視線の先でそんな迷える子羊たちに、クラス女子の頂点である東咲がチョコを配っていた。人数が多いのでお買い得袋入りの10円チョコだ。そりゃこんだけ人数もいるしコストも馬鹿にならんわな。人気者も大変だ。
東咲は高校生とは思えない発育の良さで出るところは出て引っ込むところは引っ込むナイスボディである。かつ以前は三好のような体育会系だったのが、夏休み後くらいから髪や肌や爪の手入れをするようになり、元々の素材の良さもあってか美少女っぷりに拍車がかかった。好きな奴でも出来たんじゃないか? ともっぱらの評判だ。そんな彼女は裏表のないあけすけな性格と意外と面倒見が良いことでクラスの誰とも仲が良かった。
「東咲さん、学校ではバレンタインは禁止されているわよ」
おっと、約1名を除いてはだな。
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