2―13 第二章 完
「てなことが、あったんですわ」
「へ~~ぇ」
蝉の声がする祖父の家の縁側で、俺はかき氷を食べながら、今年の夏祭りで起こったことをさとみ姉さんに報告していた。夏休みも残り少なくなっていた。宿題は……まぁ明日から本気出そう。
本家の加賀谷家一族の集まりであったが、あけみさんはまだバイトが続いており今日はいなかった。もうこの時期になるとクラゲが出て海水浴どころでもないと思うのだが、砂浜で寝そべってるだけのお客さんがまだ残っているようだ。夏を諦めきれないその気持ちは今の俺にはわからなくもない。
家庭用のかき氷機で作ったかき氷を市販のシロップに混ぜながら、俺はしみじみとした感傷に浸っていた。
「しかし、弥生ちゃんとか、山崎の家に遊びにいってたときは、まだまだ子どもだと思ってたのに、西の弟くんとお付き合いするようになったり、それを守るため、いろいろ画策するようになったり、知らないうちに成長するもんだ……」
「う~~ん。特に女の子は、同じ歳なら精神年齢は2つ以上は上だって、言うからね~」
自分は少なめの分量にしていたさとみ姉さんは、もうかき氷は食べ終わっていた。
「へぇー、そうなんですか? じゃあ、さとみ姉さんは精神年齢だけならもうアラサー……、ぃぇ、ナンデモナイデス……」
身の危険を感じた俺は話を逸らす。
「そう言えば、わからないことがあったんだ」
「あ~ら、何かしら、オホホッ」
そこには、さっきまでそこにいた鬼はもういなかった。
「海の家であんなに大きな音がしたときに、なんで隣の海の家のお店の人たちは心配して様子を見にこなかったんだろうって……? まるで、あれが初めてじゃなく……、あれはマスターの仕業だったんだけど、実はマスターが何回も使った手口なんじゃないかって、思ったんだ」
「へぇ~、それから?」
「あとは、さとみ姉さんが、口ではびっくりしてたようだったけど、あんまり、そのあと動じた様子もなく、慌ててみんなを避難させることもなかったんで、実は、さとみ姉さんもマスターがやった事だと、知ってたんじゃないかと」
「ふむふむ、それで?」
「そう言えば、あの時、席を移動しようとしていた酔っ払いたちを、自分たちの席に戻るよう、さとみ姉さん、あいつらを誘導してたよね?」
「え~~? そうだったかな~?」
「そうだよ。仕掛けが大きな音を出すまで、タイムラグがあるから、それまであいつらに動いてもらったら困るんだ。だから……、あの時、やっぱり、さとみ姉さんも知ってて、マスターと共犯だったんじゃないのかな? ひょっとして」
喋っているうちに、どんどん話すことに夢中になってきた俺は、残ったかき氷を一気に口に運んだ。
その拍子で頭が一気にキーーン! とくる。額に手の裏を当てると、しばらく目をつぶってそれに堪えた。
「それが、恵一探偵の推理というわけですな~~? なるほど、なるほど」
さとみ姉さんは、いかにも愉快そうに笑って、その間に俺が持っていたかき氷の皿を下げると、それを台所に戻すため、立ち上がった。
「それで、実際のところどうなの? さとみ姉さん」
「と、言うと?」
「ほんとに共犯だったのかなって? 証拠はないんで。でも、真実が知りたいんだ」
――そう、それがたとえ最良の結果をもたらすわけでなかったとしても。
「そうねぇ~。実はドライアイスの案は私が大学時代にバイト中によくあけみみたいな目にあって、それで私が考えてマスターに教えてあげた手だったとか!」
「はぁ⁉」
――えぇ⁉ まさかの共犯ではなく主犯ですか⁉ そんな時代からやってたら、そりゃあ周りの海の家の人たちも、みんな慣れちゃってるよね⁉
「なーんてね。そんなわけないじゃん」
髪をかき上げると、さとみ姉さんは悪戯っぽい顔で笑った。美人はどんな顔をしても似合うから得だ。耳元の小さいイヤリングがキラッと光って、思わず見惚れてしまう。
「だって、私は保健の先生で化学の先生じゃないでしょ?」
そう言って、さっさと台所に戻っていってしまった。やっぱ、大人だ……。
…………。
「――って、俺、爆発がドライアイスって言ってなかったよね⁉ なんで知ってんだよ!」
今年の夏、俺は少しだけ大人になったような気がしていたが、どうやら、まだまだだったらしい。
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