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幼馴染みの陽子は家が近所で、とはいっても、勉強部屋の窓を開けたら隣の窓が彼女の部屋とかいった、そんなお約束ごとのようなお隣さんといったわけではなく、したがって朝になったら制服にエプロン姿で、
「こら〜! いつまで寝てるの⁉」
と、ベッドにダイブして起こしにきてくれるようなことも当然ない。
小学生のときは、長い髪を三つ編みにして後ろに結んでいて、
中学生になってからは、ばっさりとショートボブにイメチェンして、
高校生になってからは、それが少し伸びてミディアムボブに変化した。
けして帰国子女のお嬢様でも金髪ツインテールでもない、ゆえにツンデレ属性をお持ちであるわけもなく、背は少し低め、スタイルもまだ成長過程(やや控え目?)な、ごく一般的な家庭でお育ちの普通の女の子だ。
とはいえ、色白でぷにっとした頬とくりっとした瞳のやや童顔の愛くるしい面持ちは、主観を抜きにして世間一般的に見ても『可愛い』レベルと言ってよかった。最近は夏服に衣替えとなってますます眩しい。もはや幼馴染みでもなければ思春期の男子としてはデレっとせずに直視するのが困難なほどだった。
たまたま、他の同級生が同じ近所にはもう1人しかいなかったため、小学校はいつもその3人で登校していた。
中学に入ってからは思春期特有の変な照れや見栄から別々に登校するようになったけど、同じ高校に進んでからは通学電車が同じになり、駅のホームで毎朝出会うため、また一緒に登校するようになっていた。
一応、近所のよしみもあり幼馴染みの同級生でもあり高校生にもなって、
なんか、よそよそしくするのも、かえって変に意識しているみたいじゃね……?
そういった心境の変化、考え方に成長する時期でもあったし、あと俺たちが通う海浜南高校では他にも普通に男女で登校する生徒がたくさんいたので、あまり特別なことのようには映らなくなったという理由もある。
ちなみにお互いを「恵くん」「陽子」と呼び合うのは小さいころから変わっていない。こればっかりは、周りに冷やかされても身についた習慣のようなものでどうにも直らなかったので、そのままの呼び方をつらぬき今にいたっている。
毎朝一緒に登校してお互いを下の名前で呼び合う仲なんて、周りから見ればカップルに見えなくもないことはないだろうなとは思わなくもないのだが、一応まだ2人は幼馴染みの同級生の関係だ。
ここで、一応、と断ったのは、実は近所のよしみもあり幼馴染みの同級生といったこともあってか、陽子は毎年バレンタインには彼女いない歴=年齢のこんな俺にずっとチョコをくれていたりする。
ただ、小さいころからずっと続いてきた年中行事みたいなところもあって、はたしてそれが義理チョコなのか、友チョコなのか、はたまた本命チョコなのか、どう定義したらよいのかわからなかった。
「はい、これ」
と、淡々と渡された年もあれば、家に帰ったらもう届けにきて帰ったあとだった年もあり、毎回あっさりした感じなので、何か特別な感情がこもっているのかどうかが釈然としないのである。
とはいえ、もう1人の近所だった女の子は中学に入ってからは義理チョコすらくれなくなったので、陽子からの貴重なチョコは毎年有り難く頂戴している。もちろんホワイトデーにはちゃんとお返しもしている。
また一度、みんなでダベってたときに、小さいころ犬に襲われていたのを俺に助けてもらったことがあったと話しているのを聞いたことがある。
随分と大昔の話ですっかり忘れていたが、確かに俺の家の前で子犬にキャンキャン鳴かれていたのを追い払ってやったことがあった。
しかし、はっきり言ってほんとに子犬だったし、俺が家に帰るのに邪魔だっただけだし、その辺をちゃんと説明してくれないと、みんな猟犬か何かとんでもなく獰猛な犬から身を挺して俺が守ったみたいに思うから、誤解すんなーって、言ったんだけど、みんなからは生暖かい目で見られるだけだった。
まさかそんな大したこともないことで、陽子みたいなカワイイ子が俺のことを特別な感情で想ってくれているなんてことはないだろうが、これらの状況から少なくとも悪感情は持たれていないんじゃないかな? ぐらいには思っている。実際、普段一緒に登校していても嫌がっているような様子もないし。
ただ、俺自身が最近ますます可愛くなったよなぁ……、とは思いつつも、陽子に対して明確に恋慕を抱いているような自覚はなく、お付き合いをしているといったそういう関係ではなかった。
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