30 謫仙1

乎の異能機関「タクセン」本部にて。


一ヶ月前。

『警戒勧告。レベルリオンが拠点を乎国に移しました』

そして今日、現在。

『レベルリオンが不活性化しました』

「どういう事です?」

若き幹部候補生・王維は機器を片手に声を張った。

「この一ヶ月に何があったと言うんですか。我々も情報収集に励みました。けど、もう少し明細な説明を求めます!」

『首領は獄中、唯一の頭脳は潜入工作を終えました』

王維は記録を取りながら、相手の次の発声を待った。

しかしそれはなかった。

「すねてるんですか...通信に出たのが御友人でなかった事は謝ります。謝りますから、情報を小出しにするのは勘弁して下さい!」

『李白さんじゃなきゃ嫌』

傍らに人無きが如し。王維は大息した。

この傍若無人な通信元は誰か。小野篁である。


篁は乎へ赴いた阿倍仲麻呂と懇意にしている。

その繫がりで篁は乎にも友人を得た。

また、篁の異能は便利だ。

空間を細く伸せば、電話線の様に声を届けるのである。

もっとも、この距離では篁の声も変わってしまう。

よって、その李白なる友人も、勿論王維青年も、篁が童である事を知らない。


「確かに今日は『謫仙会』で、本部に幹部が集まっています。李白さんもいらしてますけど...」

そう言って王維は隣室に目をやった。


開放された戸の脇には「仙餐室」と。

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