作った番外編 昼十二時におじいちゃんとの思い出のラーメンを作った
隅田 天美
昼十二時にお爺ちゃんとの思い出のラーメンを作った
きっかけは突然だった。
会社帰りに隣人から何故か長葱をもらった。
『前に、天美ちゃんのお母さんがやってきて「娘がいつもお世話になっています」って立派な椎茸をくれたの。そのお礼よ』
私には関係ないように思うが両親の住む町はかなり距離がある。
電話で両親に連絡をして「あー、お前の好きなように食べていいよ」と許可を得た。
しかし、退職者一名が出て、コロナ禍の今。
仕事は多忙を極め料理をする暇なんてなかった。
そんな私を知ってか知らずか多忙なのを知った両親が留守の間にやってきてレトルトや食材を置いて行ってくれた。
ありがたい。
だが、その中にも長葱があった。
今、我が家には大量の長葱がある。
なお、便宜上『長葱』と言っているが私の手元にあるのは『下仁田葱』だ。
以前、少し書いたが、『殿様葱』とも呼ばれる加熱用の葱である。
甘みと粘りが強く煮るとトロリとする。
年末に仕事帰りの駅で物販市が催されていた。
その中に麺専門店のラーメンがあった。
出来合いのものではなく、麺とスープがセットになっているものだ。
私は蕎麦とラーメンを買い求めた。
「休日にあれを作りたい」と思ったからだ。
あれとは、今回の本題のラーメンだ。
子供の頃。
まだ、私が小学生の頃に今は亡く祖父が時々、祖母の買い物ついでに一緒にドライブした。
林業を生業としていた祖父は今でいう我が家のトラブルメーカーで深夜にトラブルを起こしては母が来るまで実家に戻り𠮟りつけるということがあった。
極度のヘビースモーカーで休日はパチンコをしている。
酒豪でもあったが私が生まれる時にきっぱり断酒をした。
私は初孫で祖父たちから大変可愛がられたが、当時の私は色々問題を抱えていたので正直、億劫だった。
それでも、祖父たちに合わせてドライブに行った。
「天美、ラーメン食べるか?」
「うん」
トラックを運転しながら助手席に私に祖父は言った。
その店は常に駐車場が満車状態で第二駐車場から少し歩いた。
五月には無数の鯉のぼりが、八月には川辺に数多のテントと人を通り過ぎる橋から見たのを今でも覚えている。
今では渓流下りとかカヌーなどで有名だが当時はあまり印象的なものはなく、母は「書き石(蝋石のこと)と、その跡地で戦隊ヒーローの撮影が行われることぐらいしかないわよ」と言う。
ただ、バイクのツーリングなどでは定番だったらしい。
話を戻そう。
店に入ると、昔ながらの『町の中華屋さん』があった。
カウンター席に、テーブル席。
ずいぶん前、コロナなんて夢物語みたいな時代だ。
多くの人で店はごった返していた。
「おう、来たよ」
店主に声をかけて、祖父は空いているテーブル席に座り、その前に私が座る。
「ラーメンを二つ」
出てきたのは、叉焼も海苔も煮卵もない。
スープの中に細切りにした豚バラ肉と長葱を切ったものが入っていた。
この長葱は埼玉県名産の「深谷葱」。
関東ではメジャーな葱だ。
「天美、美味いか?」
細めんを啜りながら祖父が聞く。
「うん、美味しい」
これは素直な感想だった。
ここで問題。
ある問題に気が付かないだろうか?
そう、今回再現するにあたり、本来なら埼玉県の深谷葱を使うべきところを群馬の下仁田葱を使うこと。
ついでに言えば、適度な豚バラがなく(ラーメン以外で豚バラを使い料理がない)豚の肩ロースを使った。
番外編と言うことで見逃して欲しい。
文学作品などでもないし。
本題に戻ろう。
祖父たちが天に召され大分経つ。
消えゆく思い出をなぞるように私は料理を開始した。
まず、豚の肩ロースを細く切り(まあ、包丁の切れが悪いのでだいぶ太めになりましたが)葱を切ってごま油で炒める。
――ああ、そういえば、店に入った時ごま油の匂いがすごかったな
そんなことを考えながら水とスープの素を加えて煮込む。
その間に麺をゆでる。
中太麺なのはしょうがない。
茹であがり丼に入れて具材ごとスープを注ぐ。
食べた感想は「こういう味だっけ?」という
不味くはない。
むしろ、シンプルなスープにシンプルな具材、香り高きごま油がいいバランスで美味しい。
ただ、祖父と食べたラーメンの味かと言えば疑問符が付く。
(そもそもに置いて、葱が違う)
今、あのラーメン屋さんがどうなっているか分からない。
特に今、コロナ渦の中では微妙だろう。
でも、もしも、やっていたらコロナが収まった時に行ってみたい。
そして、答え合わせをしてみたい。
深谷葱のシーズンは冬なんだそうで、その頃がねらい目かな?
作った番外編 昼十二時におじいちゃんとの思い出のラーメンを作った 隅田 天美 @sumida-amami
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