異世界旅行~女神はおまけです~

うすしお

第1話 プロローグ


「あはははーっ! よくきたわね人間!」


 銀髪美少女が高笑いで僕を見下ろしていた。


「私の名前はエアリス! 天空を司る女神エアりちゅ」


 あ、噛んだ。


「ここはどこですか?」

「……え? 天界」

「天界?」

「そ、あなた死んだから」

「死んだ……?」

「あ~その様子だと自分が死んだことに気がついてないか。覚えてる最後の記憶を思い出してみなさいよ」


 最後の記憶。

 確か、


「そうだ。雷だ」


 記憶を辿ると、最後に覚えているのは雷に打たれた事。


「じゃあ、僕は雷に打たれて死んだの?」

「不幸な事故だったのよ。はい、この話しはもう終わり。運が悪かったと諦めて来世に期待しなさい」

「そうですよね」


 自然災害で死んだ。誰にも文句は言えない。



「心残りがあるなら聞いてあげてもいいわよ」


 ぶっきらぼうな言い方だが、優しい女神様だな。


「ありがとうございます。実は付き合っていた彼女がいまして。その子に辛い思いをさせてしまったのが心残りでした」


 恋人を失くしたんだ。

 優しい彼女の事だ。

 きっと心を痛めてるに違いない。


「その子なら結婚したわよ」

「………………ホワイ?」

「元カノ、結婚。幸せ結婚生活」

「早すぎる!」

「早くないわよ。十年もあんたの事引きずってようやく結婚したんだから」

「十年?」


 エアリスが言うには天界と僕らが生きていた世界の時間の流れは違うらしい。


「あの彼女は誰と結婚したんですか?」

「会ってみる?」

「会えるんですか?」

「向こうからは見えない。こっちの声も聞こえないけどね」

「それでも構いません。彼女にもう一度会えるなら」

「時間はあなた達の時間で一分。それ以上は無理だから」

「お願いします」



 道柴家の墓には『道柴京平』と僕の名前も刻まれていた。

 墓石に彫られた自分の名前を見て、改めて死を実感した。


 あぁ、本当に僕は死んだんだ。


「ほら、来たわよ」


 彼女の隣を歩く男に見覚えはあった。

 十年という歳月は流れたが、僕が親友の顔を忘れるわけがなかった。


「仲村」


 彼女と結婚したのは親友の仲村賢吾だった。


『あれから十年か。俺さ。未だにお前が死んだことが信じられねぇんだよ。もしお前が生きていたら俺の事怒るだろうな。それでもいいよ、お前にもう一度会えるなら。俺はお前に怒られたいよ』


 仲村は泣いていた。

 人前ではけして泣かなかった親友が泣いていた。


「僕はーー


「時間よ」



 天界に戻った。


 僕は二人に何も伝えられなかった。


 それでも最後に二人に会えたことは感謝しないと。


「ありがとうございます」

「別にお礼なんていいから。じゃあ行くわよ。あの門を潜れば天国に行けるから」

「わかりました。さようなら!」


 僕はエアリスに別れをつげ、門を潜ろうとした寸前に小さな手で止められた。


「だめ」


 僕の手を掴んでいるのは小学生ぐらいの小さな女の子だ。

 片方の手には継ぎ接ぎだらけの人形を持っていた。


「私、イアンナ。大地を司る女神。エアリスはイアのお姉」

「姉妹ってこと?」

「三姉妹。もう一人お姉がいる」

「もう一人のお姉さんって」

「あそこでエアリス姉さんを叱ってる」



 天国の門を潜るのを一旦取り止め、叱れているエアリスの元に戻った。

 ところでエアリスは何でお姉さんに叱れてるんだろうか。


「私はセレナ、大海を司る女神です。京平さん、落ち着いて聞いてくださいね」

「怖い前フリですね」

「あなたが死んだ原因なんですけど」

「雷ですよね」

「実はその雷は普通の雷ではなく、天雷。神の雷でして」

「神の雷?」

「エアリスが何を司る女神かお聞きしましたか?」

「天空を司る女神と」


 そこで僕も気づいた。

 叱られて悄気ているエアリスを見る。

 こいつ、まさか……


「うっかりミスであんたに天雷落としちゃった。めんご」

「お前のせいかァァァァ!!」

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