第15話 14
「アンタ、今好きなコいるでしょう?」
「エ?いやぁ、いないっスよ。」
「ウソよ。アタシ分かるんだから。そういうの」
「え?なんで、そう思うんですか?」
「うーん、なんかね、最近ちょっと違うのよね。なんか、雰囲気とかが」
「それだけっスか?」
「とにかく、なんか違うのよなんか。でもいいわよねぇ恋して、若くって。
アタシもいい男とまた恋してみたいわぁ」
天井を眺めうっとり顔の美鈴さんを何気なく見ていると「何よアンタ。今オカマの
癖にって思ったでしょ?」と睨まれた。勘弁してくださいヨ、ハイお新香です。と
カウンターごしに皿を差し出す。加山さんのお母さんが焼き場の前で座りながら、
煙草を吹かして「若いねえ」って笑っている。
まだ早い時間で、客は二人しかいない。と言っても夜中の12時過ぎなのだが。
店は、12時~3時までは加山さんのお母さんがやっていて、3時に加山さんが交代するのだ。このお母さん、まだ加山さんが小学生の頃に旦那さんが事故で亡くなって、食べてくために一人でおでん屋をやり始めた。水商売の経験も無しで。それでいろんな酔っ払い達と戦ってきた、ただのばあさんじゃないのだ。もう昔から水商売の世界にいるので、店にもお母さんのファンは多い。もちろん、怒るとすげえ怖い。
「美鈴ちゃん、ちゃんとご飯食べてんのかよさ?」と、お母さんは髪のウィッグをモサモサ動かしながら尋ねた。
「ちゃんと食べてるよママさーん。もう食べすぎ飲みすぎでデブになって
スカート入るかなってくらーい。」
「じゃあ、うちの息子くらいになったら大変だ」
「エー?マスターくらいに?そうなったら死ぬわ」
お母さんと美鈴さんと二人でギャハハと笑い合った。僕は、その日仕入れて入ってきた刺身のサクを冷蔵庫から出して、カウンターのネタケースに並べていった。
刺身ネタは鮮度が命だから、手で長く触っていると体熱で傷んでしまう。だから、手を水につけてから出来るだけサッとケースの中に置いていく。最初の頃は、一度置いてもなんだか見た目が良くなくて、ベタベタ何度も触ってしまい、ネタが痛んでくじゃねえかって怒られたりしていた。
「オ。青年。水商売が板についてきたネ」と美鈴さんのやや高い声が聞こえた。
「いや、んなことないっスよ」
「マスターの教育がいいんだネ」
「そんな事ないのよ。うちの息子はバカなんだから」とお母さんが吐き捨てた。
はははと笑っておく。でも加山さんには店が終わった後、たまには飯でも行こうと近所の中華店に連れて行ってもらい、ご飯を食べながらいろいろと教わったりしている。
何で飲み屋の世界を水商売と言うのか?これは、戦後に飲み屋を始めた人たちが、客に出す酒を最初の一杯は酒だけど、客が杯を重ねて酔っぱらっていくうちに、水で薄めた酒を出したりしてたのが語源という話らしい。本当かどうかは不明だけど―。
この水商売の世界は、店と店の横のつながりがとても強い。お互いの店に飲みに行くなんてよくある話だし、困っていたらお互い様という意識が強い。
そして、水商売の世界は優しい。ちょっと会社世界からはぐれたような人間でも、たいていの人間は受け入れてくれる。だから僕みたいな不愛想な人間もどうにかいられる場所があるのだろう。ただ、この世界で成功する人間と成功しない人間はどこか違う。と加山さんは言っていた。
「これはな、商売の勘とか、客との繋げ方とか、いろんな要素が必要なんだよな。
だから、料理の腕だけ良くてもダメなんだよ。料理の腕は良くてうまいもの
出すからって店開いて、客が来なくなっちゃって潰す奴ら、
さんざん見てきたよオレは」
そう言って加山さんはビールを一口クイっと流し込んだ。
「―それでな、成功しないならしないでマジメに誰かの下で働いてりゃいいん
だけど、この世界は目の前で店持ってうまくいって、一晩の売り上げ三〇万とか
四〇万とかってのがたくさんいるだろ?自分の給料が二十万ちょいなのに、
その倍の金を一晩で稼いじゃうヤツ目の前にしてみな。たまんないぞ。
しかもそれが自分より年下だとか後輩だとかだと、口惜しさ倍増だしな。」
以前は同じ店でホストやってる先輩後輩だったけど、後輩のホストの方が売り上げが良くなってっていう立場の逆転という事は本当によくある。うちの店でそういう二人がたまたま同じ時間で会うと、やはり抜かれた先輩の方がそそくさとおあいそして出て行ってしまう。
「―この水商売の仕事ってのは絶対仕事中に酒が絡むだろ?仕事中だけど、お客と
の付き合いで飲まなきゃいけないとか。うちの店は、飲むと料理の方が失敗
しちゃうから禁止にしてるけどな。」
そうなのだ。うちの店でももちろん「マスター、ビール一杯おごるよ」と言う客は
いる。でも加山さんは「スイマセンうちは禁止なんで」って謝ってウーロン茶に変えてごちそうしてもらったりしている。
「―そうやって酒飲んでるとな、仕事だからって言い訳が出来て、酒飲むのに
罪悪感無くなっちゃうんだよ。酒って飲むと気持ち良くなるからな。
この世界でうまくいかない自分を忘れられるしで、どんどん酒の量が多く
なっちゃって。・・あれって、どこかで自分の力ってのを勘違いして
考えちゃうのかもなぁ。アイツがうまくいって、俺がうまくいかないのは
店長が悪いだとかお客が悪いだとか。そのうち仕事にも行ったり行かなかったり
になってきて、店をクビになるんだ。そうやって落ちてくと、早いんだぞ。
人間どんどんダメになってくんだ。で、結局金が無くなって、変な薬売る
とかに手ぇ出して。ホストや飲み店の店長とかでも、あんなマジメだったのに
あの人今は刑務所だよなんて話し、この世界じゃゴロゴロあるんだ。」
加山さんの話しを聞いていると、何気なく働いていたこの場所が、気付いたら後ろは断崖絶壁、落ちるとまっさかさまに転げ落ちるみたいな感覚になってきた。
「―でもな、この世界で働いてて、昼の会社勤めみたいな仕事になりますって
出てったヤツらも、なんだかんだ言って何年かするとまたこの夜の世界に
戻って来るヤツが多いんだよ。」
「なんでなんですか?」後ろは断崖絶壁の世界にまた戻って来ようってヤツの気が知れない。
「好きなんだよ。この世界が。客と仲良くなって、仕事中だけど酒飲んで、
いろんな店で働く人たちと知り合いになって優しくしてもらえるこの世界
がな。」
そうなんですか。と言ってはみたが、僕はそこまでこの世界にどっぷり浸ってはいなかった。美鈴さんや太一さんみたいに親しくなった人はいるけど、それ以外は特に仲良くもなっていない。付き合いでよその店に飲みに行くなんて、加山さんに連れられて行った何度かしか無い。愛想は無いし全然社交的じゃないしで、この水商売の世界で成り上がってやるぜなんて1ミリどころか1ミクロンも考えていなかった。
「―ようちゃんは、あんまりこの世界でやっていこうなんて思ってねぇんだろ?」
どう答えていいか分からず、はあ、まあ。と、曖昧な返事をする。
「まぁそれでもいいんだけどよ。ただな、気を付けろよ。夜の街にはな、女と酒と
金っていう男の欲望の三つがどこ行ってもある世界だから、
下手に引っかかって、しくじって落ちぶれないようにな。」
加山さんの言い方は、今まで何人も落ちぶれた人間を見てきたという重みがあった。
ひょっとしたら、加山さんはもう知り合った人間が落ちていくのを見たくないんじゃないか、だから僕にこんな忠告じみた事を言い始めたのかもだ。
今回の稽古場公演は、一回の公演で詰めても40人ぐらいしか入れない。その為に、毎回を完全予約制にして、予約簿を作っている。
観に来てくれると言う坂口達の名前を書く為に予約簿を開いてみると、もうどの回にもいろいろな名前が書かれていた。まだ一カ月近くあるのだけど、もうこの芝居を観ようと思ってくれている人がいるのか、がんばらないとな。と身が引き締まる思いだった。
「奥村あー。ちょっと来てくれ」と、最近はいつもよりは静かだった田丸さんが声をかけてきた。はい。と答え、座っている田丸さんのテーブルの前に立つと、
「あの、この前君に書いてもらったパンフに載せる文章の事だけどな――」
ああやっぱり来たかぁ。
毎回公演の時には、パンフレットを作成する。キャストやスタッフの名前が表記され、田丸さんの主催として今回の公演についての長い文が載る。その他にキャストやスタッフも何人かが少し文章を書いて載せたりする、表紙を除けば4ページくらいのものだ。
今回は、田丸さんの代わりに駒込さんが長い文を載せて、稽古場公演という事でいつもより少なくキャスト一名スタッフ一名が文を書いて載せることになった。が、スタッフは書く人が決まったのに、キャストの中で「書きます」と手を挙げる人が出なかった。
その為にパンフレット作製を担当する劇団員が困ってしまい、ある日の稽古が
終わった後でパンフレット担当者とキャストが残って話し合いを行った。
「とにかく、裏方が書いてキャストが書かないパンフなんてありえないですから、
誰でもいいから書いてください!」
そう言われたみんなの目が右に左に動いている。たぶんみんなの頭はこうだ。
――こんなに苦しんでいる芝居について書いたら、何か言い訳や愚痴のようになってしまって楽しそうな文章なんて書けないだろう――って。駒込さんも、文章を書くのも公演にとって大事な事なんだと滔々と語りだしたけど、たぶん誰も聞いちゃいない。お互いが目で「アンタやりなさいよ」「君がやりなさいよ」と何かをぶつけあっている。
ハイじゃあ僕がやります。と手を挙げたのは、男気とか自己犠牲とかそんなカッコいいもんじゃない。ただもうこの空気にうんざりして、早く終わらせたかっただけだ。
さあそうと決まったら文章書かなきゃ。何書こう。
[今回の戯曲を演じていると、私が友人達5、6人で集まって飲みに行き、
楽しかったから二軒目に行こうかどうしようかと路上で輪になって話す時と
似ています。
そういう時、輪の中で、どこ行こうかアソコ行こうかと目に見えない
「責任」というボールを投げ合います。今回の戯曲も、出てくる人達が、
同じように見えないボールを投げ合います。]
と、ここまで書いてパタと止まってしまった。うーん、どうしようか・・・ここはやっぱり現実を見ないといけないかな。
[だけど、稽古ではそのボールをうまく投げあえていません。相手を見ないで
投げてたり、ボールが来ても受取れなかったりします。まるで、戯曲の泥の
沼の中を泳いでいるようで、今その沼にはまっています。]
また止まった。もう言われた文字数まであまり残りが無い。結末か・・・ここは、自分の気持ちを正直に書いてみよう。
[だからその沼の中でもがきながら私は叫びたい。「役所ひかるのバカヤロー!」]
と文尾を締めて、そのまま提出した。天才と言われるかバカと言われるかどっちかだなと思っていたら、やっぱりそっちだった。
「戯曲を書いた作者をバカヤローなんて書く文章をパンフに載せられるわけない
だろう。おまえがバカだよ! 書いた人をバカ扱いするなんてとんでもないこと
だぞ。」
当然のように書き直しとなった。ただ、途中までは良かったので、結末の文章をどうにかしろ、との事だった。
返された原稿用紙を持ってると、ハイライトを吸ってる湯座さんと目が合った。
「演技だけじゃなくて、作文までダメ出しされて大変だね。」
以外にもその声が優しかったので
「そうっスよ。代わりになんか褒めてください。」
とちょっと投げやり気味に言ったら
「えーとー・・・あ、床屋行ったんだね。」と、ひねり出してそれですか的な誉め言葉がきた。
床屋ってなんだよ。褒めてないじゃん。
その人の名は、野川さん。と言う。
今回の公演の「演出助手」という立場の人だ。
「演出助手」という役割は、今までの二回の公演では、役者がセリフを忘れた時に小声で伝える「プロンプター」という仕事が主なのだと思っていた―。だからってただ小声で言えばいいと言うものじゃない。セリフが止まった時に、それが役者の「間」で止めたのか、セリフを忘れて止まったのかを見極められるようにならないといけない。だから、稽古に何度も参加して、役者それぞれの「間」と「呼吸」を知っておかないといけないのだ。
野川さんは、僕より7歳程年上の男の人だ。メガネをかけていて、面長で、スマートな体型なのでどこか知的な雰囲気を持っている。何を隠そう(隠してた訳じゃないが)前回の「きれいな口紅」で、船井さんが思いを寄せた戦地へ行く若者を演じた人なのだ。
その野川さんが演出助手になり、稽古を始めた頃は、まあそうなのかと特に気にしていなかったのだが、
「奥村君。そこ、感情を爆発するみたいに出来ないかな?例えばこうやって」
「奥村君、今のセリフの言い方だと、こっちの女2は返事出来ないよ。もっと強く
言わないと」
「奥村君、そこにいたらダメでしょう。お客さんから見えないよ」
と、プロンプは第二演出助手に任せっきりにして、バンバンと役者にダメを出してきた。僕ら役者達は陰で「今回は演出が二人いるみたいだね」なんて言っていた。
そんな野川さんが僕の所に近寄ってきた。
「奥村君は、今回のマラソンマンを、人間としてどう捉えているの?」
面と向かってそう質問されると、なにか間違えちゃいけないとドキドキして
しまう。
「まあ・・・マジメな人間・・・だと思います。マラソンなんて苦しい競技をやる
くらいなんだから。で――お調子者のようでいて、ちょっと気づかいなトコも
あって、すっとぼけてるトコもあって・・・かなぁ」
そういう解釈じゃなくてこの人はね、うんぬんかんぬん。みたいな話になるのかなと予想していたら「分かったありがとう」って野川さんはそこから離れてしまった。
あわてて、ちょ、ちょっと野川さんすみません。と引き留めて、「こんな感じで
合ってますか?」と確認してみた。
「そんなの僕は知らないよ。僕は演出助手なんだから」
「え?じゃあ、なんで聞いたんですか?」
「奥村君がどう考えてやってるのかなぁって興味があって」
「そ、それだけですか?」
「そうだよ」
結構悩んでる所に、ただどう考えてるか知りたいってだけ?
「なんか無いんですか?野川さんからのアドバイス的な。なんか、答えに近づく
みたいな。なんでもいいんですけど」
藁にもすがる。というのはこういう事なのかなと思う。
その人はメガネをちょっと直して「奥村君」と呼んだ。
「演劇ってね、そんなに数学みたいに因数分解して繰り上げしてハイ答えです。
っていうものじゃないと僕は思うんだよね。例えば、本番初日が終わっても、
これでいいのか、明日はこうやってみようか。って考えて、変えてみたりして。
そんなこのオレの演技は完成したやったー。なんて絶対に思えない、
永遠に終わらないものなんじゃないかなぁと思うけど」
「じゃあ・・・苦しいままなんですか?」と吐くように訴える。
「そうだと思うよ。役者は、舞台で光浴びて、お客さんに観られて、自分の為に
裏方が働いてくれて。それだけ恵まれているんだから、ちょっとくらい
苦しまないと。
まぁ、誰とは言わないけど、全然そういう事わかってないで、ただお気楽に
楽しんでるだけの役者さんもいるけどね」
と、野川さんは軽くフフと笑って、すぐに真顔に戻ったかと思うと。
「――あのさ、ドラマや映画で売れてる役者や女優も、こうやれば大丈夫でしょう
なんて簡単にやってなくて、表に出さないだけで一人で苦しんだり悩んだり
してるんだよ。観てる僕達はそれを知らないだけで」
そうなのか。売れてる人は、自分のやり方とかスタイルが確立できていて、こんなに悩んだりしてないんだと思ってた。
「普通さ、いて座で一つの芝居の稽古って三カ月くらいだよね?」
ちょっとボーっと考えてたトコにいきなり質問がきて、不意をつかれての
「は、はい」
「―ロシアでね、昔、どこかの劇団がある作品の稽古をしてたんだ。その作品が
とても中身が難しいからって稽古期間を一年間取って。役者も演出も一年間
その作品だけに集中してああでもないこうでもないって稽古を重ねて、それで、
一年後ね――」
さぞや完成度の高い感動的な芝居になったんだろうか。
「――その劇団の団員が話し合いをして、一年間やってみたけど公演をうてる
だけのレベルまで完成していないって結論になって、公演を中止したんだよ」
一年間も稽古してか。それじゃ僕が今苦しんでる場所って、どんだけ情けないんだ?
今までの二回の公演で、僕はゴールを目指してやってきた。千秋楽の公演が終わった時に、胸でゴールテープを切って、よくがんばって走ったネお疲れ様ってのが打ち上げだと。だけど、今までは、走りながら自分でチョークで地面に線を引いて、ハイここがゴールねっていうごっこ遊びをやってただけなのかもしれない。
今日は月曜日なので、週に一度の休みだ。と言っても昼まで店はやっていたから、帰ってから寝るともう夕方なのだが。
夕飯の後でTⅤを観たりして過ごして、夜中になると、おもむろに着替えて外に出た。
マンションを出て通りに来てから、ちょっと準備運動みたいな動きをしながら周囲をキョロキョロと見まわしてみる。誰もいないな。よし、と自分を納得させて、ゆっくりと走り始めた。
お、なんだか調子いいな。こんな感じだと10キロくらい余裕で走れちゃうんじゃないの?っていつも思う。でも1キロちょいの所にある小さな公園に入った頃には、なんで俺はこんな苦しい思いして走ってるんだろうと息を切らせながら考えてしまう。
ベンチに座って、ハぁっハぁっと息を整えながら、果たしてこれをやったからと
言って演技がうまくなるのだろうか、と疑問が沸く。夜中のベンチに座ってはあはあ言ってる若い男がいるんですけどって通報されたら面倒だなとか夢想してしまう。
なんでこんなに明るいんだ?と頭を上げてみたら、公園に立っている外灯からオレンジの光がベンチに落ちていた。
ああ、ベンチ全体がほんわかと明かりに包まれていて、なんだか舞台のシーンみたいだな。夜中に照らされるベンチ。こんなシチュエーションでどんな話が合うのだろうか。小さな女の子と若い男性。夜中に出合う二人。女の子は嫌な事を忘れたくて毎晩この公園に来ていて、男は夢破れたダンサーで、二人で話しながらまるでそこがショーの舞台のようになっていって—―。でもその女の子は、実は男の初恋の女性の幼い頃の姿で、幻のような存在で、いつしか二人に別れの時が訪れる。――
妄想をやめた。何かを断ち切るように。
自分がどこに向かって進んでいるのか、ちゃんと前に進んでいるのかどうかすらも分からない。それは今回の「崩れた絵画」の演技の事だけではなくて、自分の人生そのものもだ。芝居やって焼き鳥屋やって、これで何か将来の役に立つのか。もう二十歳を超えて、フラフラしていないで、もうちょっと地に足を着いた事をやった方がいいんだろうか。
なぜか「人間、落ちる時は早いぞ」という加山さんの言葉が蘇る。
頭を振った。やめやめ。考えれば考えるほど暗くなる。
立ち上がって、トボトボと歩き始めながら、そう言えばマラソンマンの為に走りに来たんだったっけなと思い出した。
ふと後ろを振り向いてみると、オレンジ色の光の中のベンチが「また来なよ」と
言っているように感じた。
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