幸せという名の幸せ

K.K

第1章 僕たちの幸せ 1


「幸せって何だと思う?」


今日で60歳になった、まだまだ若々しいトシさんが言った言葉。何気なく日々を過ごしている人にとっては、飽き足りた質問かもしれない。幸せなんてものは人それぞれで、「普通に生きていたら。」「お金があれば。」「好きな人と過ごしていれば」。大勢の人が、何となくこんな考えを持っているだろう。でも、”僕たち”にとって、”幸せ”を考えたり、感じたりすることは、大きな意味を持ち、目に見えないものを追いかけることがどんなに楽しいことか、トシさんが教えてくれているような気がする。



僕はゆうと、20歳のフリーター。児童養護施設「渡り鳥」で生まれ育ち、今でも生活している。児童養護施設は、普通18歳になれば出ていかなければならない。でも、何故か僕はまだこの施設で生活している。まぁ細かいことは気にせずいこう。


「お兄ちゃんおかえりー!」

閑散とした景色には似合わない心底元気な挨拶で迎えてくれたのは、チズ。10歳の女の子。この施設で1番歳下、みんなの妹のような子。ショートカットの髪が微かに揺れている。渡り鳥には、僕、チズを含めた5人の男女が暮らしている。


「おかえり。」


施設長のトシさんが軽く手を挙げる。とても優しく、たまに違う顔を見せる、不思議な人。みんなトシさんの詳しい事情も、素性も知らない。知っているのは、元教師ということだけ。まぁ、細かいことは気にせずいこう。


「今日もバイト?」


チズが話しかけてくる。


「うん、暇だったからずっと優さんと話してた笑」

優さんは、僕のバイト先のカフェの店長さん。

「バイトって、働きにいってるんじゃないの?」

純粋で澄みきった目、言葉で少し癒される。

チズは物心ついた頃から、というか生まれてから渡り鳥で生活しているから、外の世界をほとんど知らない、学校にも行ってない。そんな不純な清純さを見ると、癒されると同時に少し寂しくなる。


「まぁ、話しながら働いていたよ」

「そうなんだー」


つづく

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