第十二話 青天の霹靂
中学校生活も、残すところあと半月ほどとなった。校庭に植えられている桜の木には、すでにたくさんの桜の蕾が準備を整えつつある。今年は暖冬らしく、開花時期が早まるだろうと言われている。
「
そのかけ声を合図に、俺はコートの中に戻った。ボールのコントロールは得意ではないので、ただひたすら逃げに徹する。
ドッジボールをしているのは、今日がレク大会だから。受験が終わる頃に行われる三年の恒例行事らしい。
今の試合を見事に勝ち抜けた俺たちは、次を待つ間、壁際に立ち他のクラスの試合を観戦していた。
「意外だな。トモがこういうのやるって。サボりそうなのに」
俺はわざとらしく意地の悪い笑みを作ってみせた。
「やだなあ、分かってるくせに」
トモはそれだけ言って、ケタケタと笑った。それから一つ息を吐き、優しい声音になった。
「もう卒業かあ。早かったなあ」
その言葉に嬉しくなった俺は、気恥ずかしさを隠すように顔を背けた。
「だな。あっという間だった」
歓声や応援の声が遠ざかり、まるで二人きりのような空気が俺たちを包もうとしていた。
「たいちゃん、あのさ――」
「横尾! 横尾はいるかー?」
担任の数田先生の声が強引に踏み込んできた。
「かずちんじゃん。どうしたんだろ」
トモに気づいた先生は、小走りで駆け寄ってきた。おおらかな彼がいつも浮かべている優しい笑顔は消えている。代わりにどこか焦ったような表情だ。
「どしたの先生、そんな慌てて」
「横尾、落ち着いて聞いて。たった今、病院から連絡が入った。おばあさんが救急車で運ばれたそうだ。君にも来てほしいとご両親から連絡があった」
「……ばーちゃんが?」
トモの口から出たのは、その一言だけだった。それだけ彼に与えたダメージは大きい。俺だって耳を疑った。受験勉強のためにトモの家にお邪魔するたびに温かく迎えてくれたおばあちゃん。あの人に何かあったら。俺でさえそう思うのだから、トモの心情は推し量れない。
「お母さんがこちらにタクシーを呼んでくれたみたいだから、それに乗って病院へ向かって」
「……分かりました」
さっきまで楽しい時間を過ごしていたのに、まるでその時間が切り取られてなくなったかのようだ。
「太智」
「え?」
視線をトモの顔から、自分の左腕移す。震える彼の手に掴まれていた。
「ついてくよ」
「……サンキュー」
ただの怪我とかであれば、わざわざトモが呼ばれることはないだろう。にもかかわらず連絡があったということは……。考えたくはないが、最悪の事態が頭をよぎる。
こうして俺たち二人はレク大会を早退し、おばあちゃんの運ばれた病院へ向かった。
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