第30話 “咲夜御殿”とは何か(6)
暗い室内。
「おや? ツヨ様ではないですかい?」
曲弦がうっすらと姿を現した。
「この音と振動に耐えられるなんて……って、あぁ、宙の法(そらのほう)ってやつですか?」
「……」
「便利な術ですよねぇ。まぁ、それで貴方様の世界は救われなかったわけですが」
曲弦はもうツヨに従うつもりはないようだった。
「……曲弦。君の力を取り戻させたものも僕の力なんだ。何をするかによって、君の力を弱めることは造作もないことなんだよ?」
ツヨは相手をいさめるような態度でいう。
「あ~あぁ、そのことですかい?」
だが、曲弦はその態度を改める様子はないようだった。
「……実はねぇ、この場所は咲夜姫の遺骸が埋葬されているんですわ……そのおかげで俺の力はいくらでも増幅可能なんですよ」
「?!」
曲弦はそう呟くと暗闇の中に姿を消す。
――ッシン
すると床を伝わっていた振動や音が何事もなかったように消えていた。
”――始祖:ツヨ・ソラノミタマノカミによる悠遠隔離(ゆうえんかくり)の解除を感知”
ツヨを見ると、紫の瞳の光が消えている。
多分、周りの気配を感じるために術を解除したのだろう。さっきまでの音や振動の代わりに耳にキーンとした耳鳴りを感じるようになった。
”始祖:ツヨ・ソラノミタマノカミの宙の法による解析……”
”速度:低。咲夜姫の”天の法(あまのほう)”による干渉あり。相殺するには零因子の絶対量が不足”
だが状況はあまり良くなさそうだった。
――ジジジジジ
ツキカゲさんは懐から二振りの小太刀を取り出すと紫の雷のようなものをまとわせ、
「私でも気が付かないなんて……どこまで本当のことなのかねぇ……」
と、私とツヨを守るように周囲に向かって身構えてくれる。
「……この懐かしいような違和感も一体」
ツキカゲさんは少し息を荒げて呼吸しているようだった。
――……パァー……
ふと、上空の暗闇から何か……楽器のような音が聞こえた気がする。
――パーパーパーパパパパァーン
いや、気のせいではない。これは……オルガン?
――ポワッ
突然、目の前でロウソクのような明かりが灯る。
――パーパパ―パパパァーパパ―
――ポワッ……ポワッ……ポワッ……ポポポポポポポポポポポポポポワッ
その灯りは、その音に合わせながら次々とらせん状に上部に続いていった。
「「「………………?!」」」
中央には……複雑に絡み合った何百本ものパイプにつながれたオルガンのようなものが暗闇から照らしだされている。
――ギギッ…………ギッ……
たまに聞こえる機械音……あの演奏席にいる人から…………聞こえるのだろうか?
「あれは――」
「――あれかっ!」
ふとツヨがつぶやくと、ツキカゲが雷を帯びた小太刀でそれに飛び掛かる。
――キィイイイイイイイイィイン!!!
剣撃によって電流のような光が周囲に流れる……が、それは鍵盤を見つめたまま、片手で静かにツキカゲさんの小太刀を受け止め、ツキカゲさんを軽々と地面に放り投げた。
「うぐっ!」
――ズシィイイイイン
ツキカゲさんは受け身をとるように地面に着地する……が、着地した体制のまま動く様子がない。
「あの動き……まさか……」
ツヨも黙って上を見つめている。
――ギッ
……その声に反応したのか、それは静かにこちらを振り向こうとしていた。
演奏している手の動きは優雅だが……それ以外の動作は、機械のようにゆっくりと、ぎこちない。
「あぁ……まさか……」
ツヨの口調が確信を得たように小さく震えているように聞こえる。
――ギギギッ
それは淡い桃色の長髪で、その髪の隙間から覗くのは褐色の肌……。
平安時代の美人のような眉や瞳は……まるでツキカゲさんを大人びた感じにさせたようだったが……それはまるで……。
「……生きた人形?」
「……母上?」
「……咲夜姫」
私達は互いの言葉を話すと、それぞれの言葉に驚いた。
「母上って……君は……」
「……母上が……咲夜……姫?」
「二人とも何を……」
――ギャーギャギャギャギャッ!!!
すると楽器達が、それの背後から姿を現し、かん高い音色のような高笑いをしながら、オルガンのまわりをくるくる回り始めた。
曲弦も得意げにゆらりゆらりと大きく回る。
「みたかっ! これが咲夜姫の遺骸を宿す、創世楽器”朧風琴(おぼろふうきん)”を奏でる舞人形っ!」
”朧風琴:咲夜姫が開発した創世楽器。第零世代。世界の零因子を全て取り込み新世界を再編成するもの。現在充填中……残り1時間”
私の宙の法も自然と反応する。
――ガァアアアアアン!!! ズガァアアアアアァン!!!
「うわわわわっ!」
さっきとは段違いの地鳴りも……床から何度も突き上げてきた。
このままでは三人とも立ち上がることが出来ない。
「ツヨ様、俺がシンが干渉したこの世界を創りかえてやる…お前の代わりになぁっ!!!」
これが……世界が変わる音なのだろうか……?
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