第18話 “流命の腕輪”と“羅津銘”(1)
※ツヨのセリフの符号を変更しました。テレパシーを使用している時のセリフは『 』、実際に話す言葉は「 」とします【R4.2.28更新】
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翌日。
私とツヨは、“花園館”(はなぞのかん)の奥にある離れで目を覚ました。ここはツキカゲさんが暮している、木造二階建ての外壁の漆喰の装飾が美しい屋敷だ。室内は和風と洋風が混在している。家具はテーブルや椅子もあるが、絵柄が動く障子など見たことのないものもあった。こうみると、ツキカゲさんはきっと格式高い家の出なのだろう。
なぜ、私が“死の契”(しのちぎり)の進行を気にせず、この世界でゆったり寝ていられたか? それは昨日、タロウザエモンさんから“流命の腕輪”(りゅうめいのうでわ)をもらったからだ。
この腕輪は、この世界で生まれて間もない存在が、その世界に存在する零因子をうまくコントロールできるように付ける、いわば、知育用の装飾品らしい。この腕輪はタロウザエモンさんの発明品で、この腕輪ができる前までは、どの種族も短命だったらしい。私が付けている腕輪は、タロウザエモンさんのもので、もう自分には必要ないとのことだったので貰ってしまったのだ。
「腕輪の具合はどうだい?」
紫髪の褐色の肌をした可愛らしい女性が部屋の入口から声をかけてくる……ツキカゲさんだ。昨日はフードに隠れて見えなったが、彼女は鬼族らしく、今日は髪の隙間から小さい角が見えていた。
「はい、おかげさまで」
「じゃあ、居間で待ってるから、朝ご飯にしようか?」
「はい」
ツヨは私の傍で白い狐のような姿で丸まって寝ている。昨日は相当疲れたのだろう。
私は寝ているツヨの白いフワフワのおでこをしばらくなでると、ツヨを起こして、居間に向かった。
*****
居間には、食事の用意をするツキカゲさんと、ニコニコしながら私たちを待っているタロウザエモンさんがいた。
「あぁ、おはよう、愛紗。ささっ、こちらへ」
「おはようございます。タロウザエモンさん」
「いやいや、ツキカゲと同じように“タロ”っ呼んでよ。もう知った仲なんだから」
そういうとタロは私の横に近づくと、私の肩と腰に手をあて、自分の横の席に座るようエスコートをした。
その様子にツキカゲさんもやや呆れた様子だ。
「……ごめんねぇ、どうしてもタロが愛紗と一緒にご飯食べたいって言ってきかないんだ。いい年して本当にこの人は……」
「まあまあ、久しぶりにツキカゲのご飯も食べたかったし」
「はいはい、早く食べな。午後には訓練を始めるんだろ?」
私はタロに誘われるがまま、タロの隣の席に座り食事を始める。
つい、タロを横目でみると、彼の丸眼鏡で隠れた素顔が見えた。切れ長の目がとてもかっこいい。昨日はあまり意識していなかったが、タロは丸眼鏡を外せば結構な男前なのだろう。
――ドスッ。
そんなことを考えながら食事をしていると、ツヨがタロと私の間に座って、タロを睨みつけた。
あぁ、私の頭の中の考えを読んだのね……すごく不機嫌そうだ。でも安心しなさい、私みたいな美少女は、そう簡単に恋愛感情は抱かない。……でも、ツヨはタロのことを知っているようだが、いつ知ったのだろうか。
そんなことを考えていると、タロはいつの間にか食事を終え、私につけた腕輪の様子を見ていた。
「……うん、上手く機能しているようだね」
「はい、ありがとうございます」
腕輪は様々な色の石が埋め込まれており、それぞれが不定期に点滅している。
「この調子なら、午後の訓練も支障なさそうだ」
タロは、懐から袋を取り出すと、その袋から工具を取り出し、私が食べているにも関わらず、器用に腕輪の調整を始めた。
――訓練。昨日、タロは、私が一週間滞在するのであれば、この世界の零因子に慣れるための訓練を行ったほうがよいと言っていた。まぁ、タロが、私にまたこの世界を訪れて欲しいと思っていることもあるだろうが、タロの過去(つまり私の未来)で必ずお互いが会うことは決まっていそうなので訓練は行ったほうがよいだろう。それに、零因子の使い方を覚えれば、ツヨが“羅津銘”(らしんめい)の使い方も教えてくれるという。使い方次第では、今後シンを見つける手がかりにもなるらしい。
一週間かぁ……、その間、あの商店街で美味しいものも食べられるといいなぁ……。
そんなことを考えていた。
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