第11話 葛葉小路商店街の怪(6)
ツヨが固まった。
手元のフライパンの上の肉は少し焦げ、黒い煙がわずかに立ち上っている。
「ちょっ?!どうしたのツヨちゃん!」
環奈(かんな)さんが慌てて、コンロの火を止める。
ツヨは暫くコショウの入ったビンを見るめると、蓋をあけ、中の匂いをかいだ
「ねぇ、環奈さん、これ特別なもの?」
私は環奈さんに聞いた。
「あぁ、それ? 最近できたミックススパイス専門店で仕入れたのよ。香りがいいでしょ?」
環奈さんは自慢そうに言う。
最近、そんなお店が出来たのだろうか? 全然知らない。
「環奈さん、それいつできたお店? 何処にあるの?」
「え? ん~と……」
環奈さんは言葉を詰まらせる……。
「……でもこの商店街で買ったんでしょ?」
「うん。商店街のはずなんだけど」
「じいちゃんは知っている?」
「私が注文するからそれはないな~」
「最近はいつ買った?」
「え~と、先週のはずはずなんだよねぇ……」
環奈さんは、お店の場所以外の質問にはすぐ答えてくれる……これはどういうことだろうか? この肉屋は環奈さんの父親(じいちゃん)の代からやっているはず……環奈さんにとって商店街は自分の庭のようなものなのに、お店の場所を覚えていないのは少しおかしいと思う。
その間、ツヨは、ビンの中のコショウを少し手に取り、舐めていた。
「――?!」
ツヨが僅かに少し目を見開いたように見える……どんな味なのだろうか?
私はコショウを舐めてみようと手を伸ばしてみた。
……ジジュワッ
コショウに少し触れると、何か背中に少し痛みを感じる……手は……離せない……。
「だめっ!」
――パシッ
ツヨは慌てて私の手を叩く。
手からコショウがなくなると、背中の痛みも消える……。
「あぁ……」
ツヨの口調が少し暗い……よく見ると次第に白い狐のような姿に戻っていた。
「ツヨッ! 姿が……」
私は慌ててツヨの姿を隠そうと周りを見回す……が……そこは私がいた肉屋の2階ではなくなりつつあった……
『――愛紗……景色が……』
ツヨも思わず息を飲む。
当初は肉屋の2階だったが、焼かれる写真のように、ところどころ、ジワジワと景色が変わっていく……その色彩は……まるで彼岸 斬玖(ひがん きりく)の画集そのものであった。
「ツヨ? これはどういうこと?!」
『……多分、あのコショウの零因子と、愛紗の“死の契(しのちぎり)”が反応したんだ……詳しくはよく分からないけど……』
私は肩の痣をみる……“死の契”は……赤い複数の蛇が動いているようだった。
『でもこの感覚は……“百業街(ひゃくぎょうがい)”に似てる……』
「百業街?」
『第237霊界の商業地域のことかな……あの世界は大きく百の仕事で成り立っていたから“百業街”……地域が集中していれば経済は発展するからね……あそこは様々な質の零因子で溢れていた……ここもそれを感じる』
暫くすると、室内の変化が止まった。家具は、フローリングから畳、台所には水槽のように水がゆらぐ半透明な箱がいくつも並び、呪文のような文字と記号が並んでいる。どう使うのか、全くよく分からない。
もちろん環奈さんはここにはいない。
私はまわりの景色を見るために2階のリビングであった場所に行き、窓を開ける。
「――なっ?!」
目の前には彼岸 斬玖が描いた葛葉小路商店街(くずはこみちしょうてんがい)が見えた。
その時――
――キシキシキシ。
上の階から音が聞こえた。
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