赤は朱の交わり

おくとりょう

1話 夏は夜!

 ぐぅ……眩しい。


 窓から、強い日射しと潮の香りの風が流れ込んだ。


 ……え?…潮の香り?


 見慣れないカーテン。見慣れない天井。見慣れない部屋。


 ここは……何処?!

 肌触りの良いシーツの敷かれたふかふかのベッドから、困惑しながらも飛び起きる。

 昨夜の記憶を必死に辿っていると、視界の端で何かが煌めいた。


 一輪の真っ赤なハイビスカス。


 そこは、がらんとしたホテルの一室。

 それは、その部屋の真ん中の小さな脚長机で、太陽のように輝いていた。南国らしいその鮮やかさが、じわじわと昨夜のことを思い起こさせる。

 知らなかった本音。気づかなかった想い。そして…。


 思い出すにつれ、だんだんと胸の中が、呆れるような、寂しいような気持ちに満たされていき…。バタンっと、ベッドに仰向けになった。


 あぁ…うん。これダブルベッドだ。


 何故だか、口元がきゅっと緩む。


 彼女はもうとっくに、日本から離れているだろう。

 真っ赤な花ごしに、青空へと想いを馳せ、悔しさと嬉しさを噛み締めるように目を瞑った。


 そして、ぐんっと立ち上がると、ピッと背筋を伸ばして、呟いた。


「せっかくだから、ここのビュッフェをお腹いっぱい食べてやる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤は朱の交わり おくとりょう @n8osoeuta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ