第26話 宇宙戦争

ユウキ率いるサファイヤ軍は、ネーロ軍の前線基地である惑星サタンに迫った。だが、そこにネーロ軍の姿は無かった。

「ユウキ、此処に大軍がいたんじゃないのか? 確かに基地らしき物はあるが、戦艦一隻見当たらないぞ!」

 副官のサルガスが、怪訝な顔を向けた。

「うん。ネーロ星の守りを固める為に戻ったのか? それとも……」

「どうする!? 進むか?」

「ここは堅実に行こう。サルガス、君は全軍を率いてサファイヤ星に戻ってくれ。僕は、ネーロ星の様子を見て来る」

「分かった。全軍、サファイヤ星に全速力で帰還せよ!」

 サルガスの指令で、サファイヤ軍の船団はサファイヤ星に向かって大きく舵を切った。


 ユウキは、戦艦から飛び出すと、一人ネーロ本星へ向かった。

 ネーロ星へ向かいながらも、ユウキはサファイヤ星の事が心配になっていた。

『ユウキ、君も戻った方がいいんじゃないの?』

 彼の気持ちを察して、コスモが呟いた。

「スペースがいれば大丈夫だろう……。ネーロ星の状況だけは見ておきたいんだ。ともかく急ごう」

 ユウキが超高速で飛ぶと、すぐにネーロ本星が見えて来た。だが、そのネーロ星には異変が起きていた。

 漆黒の宇宙に浮かぶネーロ星の表面に、地下のマグマが噴出して来たのか、不気味な赤い亀裂が無数に走っていたのだ。

 辺りには一隻の艦船も無く、彼らは、星を捨てて何処かへ行ってしまったようである。


「コスモ、ネーロ星はどうなるんだ?」

『まもなく、爆発するようです』

 見ている間にも、ネーロ星の赤い亀裂は増々大きくなって、惑星全体が不気味な赤い色に包まれた。

『ユウキ、退避しましょう、此処に居ては危険です!』

 ユウキが、その空域を離れた瞬間、ネーロ星は、凄まじい閃光と共に大爆発を起こし、この宇宙から消滅した。

『衝撃波が来ます! ワープしてください!』

 ユウキは、コスモに言われるままにワープし、衝撃波を回避してサファイヤ星へと急いだ。

 一つの星の死、それは、サファイヤ星や地球にも必ず訪れる事実だ。ユウキは、変転して止まる事のない大宇宙の無常というものに思いをはせた。



 一方、サファイヤ星では、ユウキ達が出陣して間もなく、ネーロ帝国の大艦隊が襲来して、ステラ率いるサファイヤ軍とセンタームーン付近で対峙していた。

 兵士が、慌てた風に報告に来た。

「ステラ様! 敵は、とてつもない大艦隊です! 本当に勝ち目はあるんでしょうか?」

「落ち着きなさい! 気持ちで負けてはだめよ。しっかりなさい!」

 ステラが艦隊の士気を上げるべく奮闘しているところへ、サルガスから連絡が入った。

「ステラ様、間もなくそちらに合流出来ます!」

「帰って来てくれたのね、よかった。ユウキは何処?」

「実は、敵の前線基地には誰もいなかったのです。それで、ネーロ星の様子を見に行くと言って一人で向かいました。すぐに戻ると思います」

「分かったわ。貴方は、左翼の方を固めて頂戴」

「了解!」


 ステラは、スペースを纏うと、単身、宇宙へ出て艦隊の前面に踊り出た。その直後、ユウキの声が響いた。

「ステラ、今戻ったよ」

「よかった、間に合ったのね」

「ネーロ星は消滅したよ。此処に居るネーロ軍が彼らの全勢力だ。殆どがアンドロイドの機械化部隊だから、最大パワーで暴れていいぞ」 

「任せて!」


 間もなく、ネーロ軍の戦艦から一斉攻撃が始まり、戦いの火蓋は切って落とされた。全ての艦船の主砲が火を噴き、無数のオレンジ色の光弾が宙を照らし、サファイヤ軍を襲った。

 だが、サファイヤ軍の戦艦はワンダー星の強力なシールドで護られている為、ダメージを与えることは出来なかった。一呼吸おいて、サファイヤ軍の五百隻の戦艦が全砲門を開き、一斉に攻撃に転じた。

 敵の戦力は、戦艦及び空母が数千。更に、イナゴの大群のように、戦闘機、戦闘服部隊が宙を埋めていた。

 先頭を進むステラが、味方の援護をしながら渾身のエネルギー波を放つと、凄まじい閃光が走り、ちょこまかと動く戦闘機やスーツ部隊を巻き込んで、敵の戦艦数十隻が一瞬で吹き飛んだ。想像以上の破壊力に、ステラ自身も驚きを隠せなかった。

「凄すぎるわね……」

『味方を巻き込まないように気を付けて下さい』

 スペースの言葉を聞きながらも、ステラは、次々と敵艦を破壊して、突破口を開いていった。本来、最強戦士の彼女を遮る者は誰もいなかった。

 敵が怯んだ隙に、ステラの部隊は猛然とネーロ軍の中心部に侵攻してゆき、左からサルガスの軍、右からはユウキが援護射撃を行いながらステラに続いた。



 ネーロ軍の後方には、巨大戦艦があって、その中には帝王ムミョウがいた。彼は、押され気味のネーロ軍にイラついて、怒り狂っていた。

「馬鹿者! たかが五百余りの敵を相手に何を手こずっているんだ。我が親衛隊を出撃させよ。主砲の準備を急げ!」

 大戦艦から、百人のムミョウ親衛隊が出撃し、ステラの前に立ちはだかった。彼らは、ステラとそっくりの、プラチナのスーツを着ており、どれがステラなのか見分けがつかなかった。目晦まし作戦である。サファイヤ軍が攻撃できずにいる隙に、ムミョウ親衛隊は、サファイヤ軍の戦艦を次々と撃破していった。

 ステラが咄嗟に叫んだ。

「惑わされないで! 彼らはアンドロイド。生体反応が無いのが適よ!」

 ステラの叫びに、サファイヤ軍は反転攻勢に出た。しかし、ムミョウ親衛隊の力は凄まじく、今までの相手とはレベルが違って、簡単に倒すことは出来なかった。彼らに束になって掛かられると、さすがのステラも身動きが取れなくなってしまった。



 その時、コスモが後方の異変に気づいた。

『ユウキ、後方の大戦艦から異常なエネルギーを感じます。ステラ達が危ない!』

「分かった。行こう」

 ユウキが、周りのネーロ軍を蹴散らして大戦艦の前方へ進むと、ステラ達がムミョウ親衛隊相手に苦戦していた。

「ステラ、サファイヤ軍を後退させろ! ムミョウの戦艦から、途轍もないエネルギーを感知した。間もなく来るぞ!」

「全軍、この空域より離脱せよ!!」

 ステラが離脱命令を出すと、いつの間にかムミョウ親衛隊の姿も消えていて、大戦艦の主砲の先端から火の粉の様な赤い光が噴出し、今にも発射されようとしていた。

 サファイヤ軍の戦艦が、次々とその空域から緊急離脱していたが、まだ半数の戦艦が残っていた。

「これでは間に合わない、ムミョウは味方もろとも破壊する気だ。僕が盾になる!」

 ユウキが、数十kmにも及ぶ巨大なシールドを張って、踏ん張った。その刹那、大戦艦の主砲が火を噴いて、太陽も霞むほどの巨大な閃光がユウキ達を襲い、逃げ遅れたネーロ軍の艦船は瞬時に蒸発し光に飲み込まれていった。

「シールド最大パワー! 」

 ユウキが、主砲のエネルギー波をまともに受けると、その力に押されてググっと後退した。

「させるか!!!!」

 ユウキが最大パワーで懸命に堪える。コスモを纏ったユウキでさえ、体が千切れそうになり、血液が沸騰するような感じになっていて、光が収まるまでの時間が長く感じた。

「ユウキ! 大丈夫なの!?」

 ステラの声を聞いてユウキが我に返ると、スーツからは煙が上がり、身体中が痺れて痛かった。

「……ああ、大丈夫だ。ステラ、あの主砲を封じてくれ!」

「了解。スーツ部隊、ドラゴン隊形でいくわよ!」

 ステラを先頭に、サファイヤ軍の戦闘服部隊が次々と合体し、宇宙を泳ぐ白い大竜となった。大竜は、ムミョウの巨大戦艦に向くと、その口を大きく開いた。口の中で光の玉が生成され、それが徐々に大きくなり、エネルギーが満ち溢れ、大竜の口が見えなくなるほどに輝き膨れ上がった。

「撃てっ!!」

 大竜の口から吐き出された光の玉が、二度目の発射体制に入っていた巨大戦艦の主砲を貫いた。


「ズドドドドドドーン!!!」


 主砲は、木っ端微塵に砕け散った。

 

 巨大戦艦にいたムミョウは、激震を感じながら、

「どうした、何が起きたんだ!」

 と、椅子にしがみ付いた。

「ムミョウ様、主砲が完全に破壊されました! ほかにも被害は甚大です!」

「サファイヤ軍め、やりおったな。こうなったら、最後の手段だ。艦もろとも、サファイヤ星に突っ込め! 逃げる奴は、儂が容赦しないぞ!!」

 ムミョウは、兵士達に支持すると、親衛隊と共に巨大戦艦から離れていった。



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