第18話 暗殺部隊襲来
北部基地に集められたのは、いずれ劣らぬ軍の精鋭達だった。
格納庫の一角に、千名ほどの兵士が待機する中、サファイヤブルーの戦闘スーツを身に纏ったステラが、笑みを湛え、手を振りながら姿を現わすと、怒涛の歓声が上がった。
ステラは、サファイヤ星に帰還してから直ぐに姿を隠した為、彼女と直接会うのは久しぶりの者も多かった。
「ステラ様! お久しぶりでございます」
「お元気で何よりです!」
「又、一緒に戦えて幸せです!」
皆が口々に挨拶すると、ステラはその中へ分け入り、労いの言葉を掛けていった。
「みんなも元気だった。今回もお世話になるわね」
「任せて下さい!」
決意に満ちた兵士達の声が、格納庫に響いた。ステラと彼らの間には強い絆があった。それは、この十年、ステラと生死を共にし、苦楽を分かち合ってきた精鋭達だからだ。
ユウキは、強き絆で結ばれた、ステラと彼らの心温まる光景を羨ましそうに見ていた。
挨拶が一段落すると、ステラを中心に全体会議が始まった。
「明日から爆弾低気圧が、この地方にやって来ますので、明日は攻めてこないのではないでしょうか?」
気象データを見ながら、リゲルが言った。
「いえ、私なら、嵐の時こそ攻撃のチャンスだと思うわ。その想定で準備はすべきです」 ステラの意見に、一同が最もだと頷いた。彼らは、部隊ごとに担当エリアを決め、武器などの配布を終えて、出撃の準備は整った。
「最後まで気を抜かないで。死んじゃ駄目よ! いいわね!」
ステラの甲高い声が格納庫に響くと、ひと際大きな雄叫びが轟いた。
明朝、外は風速五十メートルを超える猛烈な吹雪で、視界は殆ど無く、ホワイトアウト状態となっていた。兵士達は、それぞれ持ち場へと出撃し、ステラとユウキは、基地内で待機して、次々と入る情報に耳を澄ましていた。すると突然、
「敵ミサイル発射熱感知! 拡散迎撃ミサイル発射!」
警報と共にアナウンスが流れた。前面のスクリーンに敵ミサイルと迎撃ミサイルが表示
された。敵ミサイルは、拡散ミサイルに次々と打ち落とされ、「迎撃完了!」のアナウンスが流れた。ステラ達がホッとした、その直後、けたたましいアナウンスが流れた。
「敵ミサイル第二波感知、距離二百、迎撃ミサイル間に合いません!」
「何!」
オペレーターが顔色を失った。
敵のミサイルは、同時に打ち上げた後、半数は通常軌道を飛んでサファイヤ軍の目を引き付け、あとの半数は、レーダーに捉えにくい海面ぎりぎりに飛んで来ていて、サファイヤ軍が気付いた時には、既に、迎撃ミサイルが間に合わない位置まで到達していたのだ。 基地周辺のビーム砲が、フル回転で迎撃したが、三十発ほどのミサイルが、すり抜けて北部基地へ向かっていた。
「何とかならない?」
ステラが、慌てる風も無くユウキに言った。
「任せろ!」
ロイヤルブルーの戦闘服姿になったユウキが、瞬時に出撃していった。
「敵ミサイル着弾します!」
アナウンスと共に、基地に居るメンバーは、これまでかと目を閉じた。
「ドドドド! ドドーン!」 爆発音が何度も聞こえたが、衝撃は無かった。
「おおっ! ユウキ殿が、シールドで基地を守ってくれています!」
基地の前面に巨大なシールドが張られ、その中央で、両手をかざし踏ん張っているユウキの姿が大画面に映し出された。
その時、ユウキの巨大シールドで吹雪が遮られ、海岸付近の視界が開けると、黒い物体が、海から続々と上陸して来るのが見えた。
「海岸に、敵ロボット上陸!」
海岸に展開する兵士からも連絡が入った。
海岸では、何百という数の、黒いサソリ型ロボットが上陸して来ていた。
サソリ型のロボット、スコーピオンは、ハサミの部分がドリルになっていて、レーザービームとドリルを合体させた、ドリルビームという強力な武器を持っている。
ステラ達が、命懸けで地球で倒したロボットだが、今回は、更に大型化されたスコーピオンが数百体も上陸し、その体内から、黒い戦闘服の暗殺部隊が蟻のように湧き出て来たのである。
ユウキとステラも海岸へと駆け付けた。北部基地の高台にある砲座が一斉に攻撃を始め、兵士達もビームバズーカ等でスコーピオンを攻撃した。
彼らの兵器は、一撃で、あのスコーピオンを破壊出来たが、破壊しても破壊しても、その残骸を乗り越えて彼らは進撃して来て、海岸一帯は、スコーピオンのドリルビームの異様な赤に染まった。
ステラを殺そうと、迫りくる暗殺部隊に、ユウキは、新兵器の超振動波を浴びせかけた。その振動波に捕らえられた者は、戦闘服を破壊され逃げ散っていった。人を殺さないというユウキの為に、コスモが作った戦闘服だけを破壊する武器である。
一方、ステラの武器は、ピンク色の長い帯のようなものが、ステラの身体を取り巻いて、生き物のように動いている。彼女の身体を護りながら、触れるもの全てを撃破するその帯は、刀、槍、エネルギー弾等へと伸縮変化して相手を攻撃することが出来る、エネルギーシールドを使った、攻守一体の新兵器である。一見華麗に見えるステラに近付く者は、変幻自在のピンクの帯の餌食となって、次々と倒されていった。
ユウキは、ステラのブルーのスーツとピンクの帯が一体となった華麗な姿を見て、美しい天女の羽衣伝説を思い出していた。彼は、その武器を“羽衣”と名付けた。
戦いは、戦闘スーツ対戦闘スーツの戦いへと変わっていった。暗殺部隊は、分が悪いと判断すると、サファイヤ軍の兵士たちに取り付いて自爆する作戦に出た。
倒れた味方の兵士の前に立ったステラが、大声で叫んだ。
「相手は爆弾を身に着けているわ、組み付かれないで! 救急隊! 負傷者を後方に移動して!」
兵士たちは、無線でそれを聞くと、接近戦をやめ、戦法を変えた。
ステラが、負傷した兵士を介抱しようとして、羽衣を納めたその途端、ネーロ軍の暗殺部隊が何処からともなく湧きあがって、次々と彼女に取り付き始めた。必死に撃退していたステラだったが、やがて、数百の暗殺部隊に取り付かれると、彼らの巨大な塊の中に埋もれてしまった。その直後、彼らは、自分の身体に抱いた爆弾のスイッチを押して、一斉に自爆した。
「ズドドドド――ン!!!」凄まじい爆音、閃光、きのこ雲のような火炎が空を焦がした。
火炎はステラを包んだまま、しばらく収まらなかった。
「ステラ様ーッ!!」
兵士達が火炎の周りへ駆けつけ、口々にステラの名を呼んだ。
皆が、絶望して炎を見つめている内、炎の中から、羽衣に包まれたステラが姿を現した。
「おおっ!!」
絶望に沈んでいた兵士達が歓喜の声を上げた。
上空からは、兵士を守るために巨大シールドを張っていたユウキが、ステラの横に下り立った。
ステラが、マスクを格納し笑みを浮かべると、期せずして、兵士達から大歓声が上がった。
爆発が起きた辺りには、直径百メートルはあろうかというクレーターが出来ており、爆発の凄まじさを物語っていた。海岸には、スコーピオンの残骸が延々と続き、黒い煙があちこちから上がっていた。ネーロ軍は全滅し、何時しか低気圧は去って、青空が見えて来た。
「終わったわ、負傷者を基地へ運びましょう」
ステラは、傍らの兵士を担いで、基地へと飛んで行き、皆もそれに続いた。
基地に戻ったステラとユウキは、負傷者の軍病院への移送や、破壊された基地設備の修理の段取りを済ました後、兵士一人一人と握手を交わし、労いの言葉を掛けて見送った。
北部基地は平常任務へと戻り、敵のミサイル攻撃も鳴りを潜めた。
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