1話 スフィア編ー 鉄首輪から解き放たれたスフィア


 レナ国の深くの森に元聖騎士の老人がいる。


 その老人は不老長寿の『聖水』を飲み、現代で唯一生きている人間『アモン』である。


 アモンは聖水を飲み、代償がかかった。

 強烈な副作用により全身に残る痺れ、裂けた顔を含む全身。


 アモンは隣国アナ帝国との戦争で敵兵を数えきれないほど殺害した。


 母国への極めて高い貢献度と、聖騎士の中でも卓越した武力知力も考慮され、世界の聖騎士序列も3位に上がっていた。


 そのアモンの武勇伝は、酒に酔った勢いで無謀に聖水を飲んで終える。




 この… 酷い体で1000年生きるのか…


 妻と子は離れていった、


 こんなワシを気遣ってくれていた友人も死んだ、全ての人が気持ち悪い目で皆、俺を見る…が、もう慣れた。 また街並みは変わる。


 やがて…


 年々、減らされ…今はたかが月に3きんだったが、聖騎士引退後の手当てが無くなった。 もう死ねという事か?


 そんなある日だった…

 乳母車の中のかわいい赤子を見た…

 フフ…昔の自分の子に似ていて、つい…


 泣きじゃくる赤子を抱き街を出た、たぶん700年ぶりの遠出だ、ちゃんとワシの聖剣『ステラジアン』も持って来た。 獣に襲われた時の用心にな。 他にも色々と将来の事を考えてたくさん荷物を持って来た、ちゃんと大中小の首輪もな、ああ…荷物が重い。


 これから、この子と住む場所に、高地にあり雨が降ればよく雷が落ちる森、誰も近寄らない場所、金も無い永い余命を… この名もない森で、この赤子と生きる事を決めた。


 色々と問題もあったがなんとかなった。


 もちろん時間はたっぷりあったし、ワシは今は途絶えた武流『合気あいき』を持つ、上位聖騎士だったし。


 レナの聖騎士だったワシは、知も学も誰にも負けた事ない…

 それに700年以上も生きてる経験もあるしな。


 拾った子が赤子の時から、この天才の女に毎日毎時、鍛えた。



 子は12歳になった…


 反骨心を持ち出した。

 その闘争心は強い… 計り知れない… 最近は首輪を外せと反抗的だ…


 もう危険… 近づいたら確実に『合気』で殺される。


 しかし、ワシにはもう『スフィア』しかいない、殺してくれ…


 お前になら幸せだ、拾った意味が出来た。


 覚悟を決めて…


 ガチャリ


 首輪を外した…


 好きに生きてくれ… おそろく、俺が授け、お前が造り上げた、桁外れのチカラを活かしてくれるだろう。


 究極の聖剣『ステラジアン』と共に…




 アモンの首輪から解き放たれた


 長い黒い髪のスフィアは、


「ふう~はあ~… 苦しかった~」


 と、大きく呼吸をして、解放感を味わった後にアモンを睨み、


「アモンはまだ生きたいか? それとも死にたいか?」


「行くんだろ? それなら殺してくれ」


 スフィアはゆっくりと瓦礫小屋の中に入り、すぐ出て来て、


「コレ使っていい?」


 と『ステラジアン』をアモンに見せた。


「ワシを殺すのにか? 使ってくれ、それは最高の剣… 俺が永い間、考え編み出した聖剣『ステラジアン』っ…と言っても森から出た事ないお前には分からんだろうがな…」


 スフィアはふ~んっ『ステラジアン』を眺めた後、


「じゃ、またいずれ戻ってくるからな」


 アモンは驚いて、

「え?」


「まだ利用できそうな者は殺すなだろ? 昔、教えてもらったぞ?」


「ははは、言ったかな?」


「他所の事は知らないけど、アモンの指導力が凄いのは分かる」


「そうかありがとう」


「もし将来、子供とかいうモノが出来たら、アモンに指導を頼む」


 アモンはまた驚いて、

「この俺に? スフィアの子供を? 本気で言っておるのか?」


「まだ、サンダーバードと呼ばれた元聖騎士だろ? 町はどっち?」


 アモンは北を指さし、

「小さな村だが、北に25キロくらいじゃ、あっちょっと待て」


 アモンは瓦礫小屋の中に入り、汚い布袋を持って来て、スフィアに差し出した。


「これは少ないがここにある全てのきん。 まずは服を買え、安い服なら買えると思う。買い方は昔、教えたよな?」


 スフィアは自分の着ている、ボロボロの薄汚い毛皮を見て、


「これじゃダメなのか? まだまだ着れるぞ?」


「ダメダメ、お前がまだ知らない人間の社会ではダメなの」


 スフィアは、癖の『ヘ』の字口で、

「ふ~ん… 人間の社会ね…」

 っと言い、汚い布袋を手に取り、

「それじゃまたな、アモン」

 北へ、木を避ける疾風の様に去った。



 すぐにスフィアの長い黒髪も見えなくなり、


 一人になったアモンは、


「さあ…てと」


 ゆっくりと切株イスに座って、


「はあ~」


ため息をつき、


「さあ…てと…」



 シ――――ン




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