ロボットだった彼女
水縹❀理緒
ロボットだった彼女
『幸せとは何でしょうか』
『マスター、私には、何の色か分からないです』
『心とは、どういうものでしょうか』
『今日の体調は、良好です』
『本日、テレビでニュースが流れました。
被害者は千人を超えると聞きました』
『マスター、また出荷されましたね』
『現代のロボットには、妊娠機能がついてますから、子孫には困りませんね。』
『私はまだ出荷されないのでしょうか』
『珍しく、夢を見ました。マスターが解体される夢』
『激しく耳鳴りがしました。まるでソレを拒絶するかのように。』
『きっと、あれは。私の夢でした』
『鳴き声が聞こえるんです。
とても響く、鳴き声が聞こえるんです』
『マスター、空と同じ色が見えます。闇に染った、空の色が』
『そこには、2人の男女が、笑いながらこっちを向いて手招きしているんです』
『おかしいですよね。どこか、温かさを感じるんです』
『マスター。アナタは、私にとって"ナニ"ですか』
『マスター、アナタは、私の本当の"親"ですか』
『マスター。アナタは、"ダレ"ですか』
『マスター。アナタにとって、私は"道具"ですか』
『答えの出ない問だけを、ずっとずっと繰り返しています』
『いいえ。』
『きっと、正解は知っているのです』
『正答は知らないのです。』
この世は、血に塗れていました。
意味の無い争いを続けて、沢山の人が死にました。
人類滅亡と言われ始めた頃、とある科学者が
ひとつのロボットを生み出したのです。
妊娠の出来るロボット
子供を自動で産み出すロボット
そのロボットには、2つの遺伝子が組み込まれています。
男性の遺伝子と、女性の遺伝子。
彼らは監禁されていました。
子供を作るロボットを作る為に、人体実験され続けていたのです。
酷い話ですよね。
彼らには、愛する愛娘がいたというのに。
『覚えていますか?マスター。マスターは、私に対してだけ名前を呼ぶんです』
彼らの愛娘は、まだ1歳にもなっていない赤子でした。
『とても優しい目をして、呼ぶんです』
連行される時、彼らは1人の知人へ愛娘を託しました。
『どうしてですか?他のロボットには、番号で呼ぶのに』
母親は、泣きじゃくりました。
自分を待ち受けている現実よりも、
この子が、
この子を育てて、
共に生きていけないことが。
この子と離れ離れになる事が。
『何度も夢を見るんです。私を知るのは、マスターだけのはずなのに。私が知る人間は、マスターしかいないのに。語りかけてくるんです。懐かしい声で』
母親は、覚悟を決めて、愛娘と最後の言葉を交わしました。
『「マリー。私はアナタを愛してる。たとえ、アナタが私達を忘れても、私達はアナタを想っているわ」』
『おかしいですよね』
マリーが3歳になった頃。
知人は、両親と面会ができるようになったという知らせを受け、マリーを抱いて、彼らの元へ会いに行きました。
大きい扉の前に立ち、門番に手紙をみせ、案内されるがまま進みました。
『涙が出るんです』
右も左も牢獄。
暴力を振るわれたであろう人達。
マリーの目を塞ぎながら、知人は歩きました。
光の見えない道を歩きました。
長い廊下を抜けた先は
『マスター、この場所に居ると、私の寝る部屋にいると、涙が出るんです』
処刑場でした。
吊るされていたのは、マリーの両親。
『いや、です。暗い中、光が指すんです』
知人は、呆然と立ち尽くしてしまいました。
『いや……やめて…助けて…そっちは』
そんな彼に、案内した門番が、容赦なく声をあげました。
「はじめろ!」
『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!』
赤い血潮が
『やめてええええぇえぇえええ!!』
彼女と知人の見る景色を、染め上げました。。
『幸せ』とは何でしょうか
『その色』は何色なのでしょうか
運命の赤のことを、いうのでしょうか
それとも、そんなものは
初めから無かったのでしょうか
ー終ー
ロボットだった彼女 水縹❀理緒 @riorayuuuuuru071
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます