第24話 アース


 かつて、地球と呼ばれた星があった

 そこに住まう人々。文化や技術。それら全てを竜牙兵たちは記憶していた。

 竜牙兵たちが、自分たちを生み出したのは、遥か昔、アーシアンと呼ばれる種族の者たちだったということも。

 今の宇宙は、その銀河文明は――地球を起源としていると。

 正直、ぴんとこないのだが……

 竜牙兵たちを創造したのは、地球人。古代アーシアン。

 しかし、栄華を誇った地球文明は滅び去った。

 そしてアーシアンが作り上げた宇宙兵器のひとつである、この【アジ・ダカーハ】は、とある惑星の衛星へと擬態し、眠りについたのだという。



「――しかし、ついさっきなんかいきなり目覚めた。

 正確には少数の細胞竜牙兵が維持のため活動はしていたけど、急に活性化したんだ」

「……スノウ姫が動力炉に繋がれて、それで、だね」


 師匠が言う。


「竜牙兵。その動力炉の場所はわかるか?」


 俺が尋ねると、竜牙兵は首を振る。


「わからない。だが、どちらにあるかはわかるし、いく事は出来る」

「どういうことだ?」

「俺たちは赤血球。この【アジ・ダカーハ】の全体にエネルギーや物資を運ぶのが仕事だ。

 ライフラインは動いてる」


 そして。

 そう喋っている俺たちの頭上を、高速の何かが通過していった。


 あれは――


「列車……?」

「そうだ。この要塞には列車が張り巡らされている」


 さしずめ、血管ということか。

 そして血管なら――


「動力炉に、心臓に続いている路線もある。

 ついてきて下さい創造主。何が起きているか一切合切ちんぷんかんぷんだけど、我々は貴方に従う。

 ……俺みてーに話の通じる奴らは、ですけど」


「わかった」


 俺たちは、先頭を歩く竜牙兵の後に続いた。


 ***


「ここです創造主」


 そこは――螺旋階段だった。


 俺と師匠――を乗せた竜牙騎兵は、赤い竜牙兵に連れられて、その螺旋階段を昇っていた。


 その先にあったのは――巨大な扉である。


「開けますね」


 竜牙兵が扉を開ける。

 中は――広間になっていた。

 円形の空間だ。ぐるりと壁に沿って螺旋階段が伸びている。

 天井は高く、ドーム状になっているようだ。

 竜牙兵たちがいる。


「やっほー」

「おーとーした。何だそいつら、どこの細胞だ」

「ちげーよ、創造主アーシアン様だよ」

「まじか」

「ああまじだ、流暢な日本語喋るぜ」

「すげーな初めて見た」

「サインくだせー」


 とまあ、こんな感じでざわついている。

 そんな中を、俺たちは歩いていた。


「こっちです」


 そして俺たちは路線のホームにやってきた。


「もうすぐきますぜ、黄色い線の内側にお並びください」


 そして、巨大な列車がやってきた。

 俺たちはそれに乗り込む。


「旅客列車じゃねーんで乗り心地はよくないですが」


 赤血球竜牙兵が言う。


「いや、気にしないよ」


 師匠が言う。


「あんたにいってねーよ」


 竜牙兵は師匠には厳しい。


「差別じゃないかな」

「区別ですっつーの。創造主の仲間だから攻撃しないけどそんだけ。あんたに対する忠誠心は特にねーし。俺たちゃ創造主に従うのみなんで」

「ふーん」


 そんな会話をしているうちに、列車は動き出す。

 この軌道は――動脈だろうか。

 列車は進む。進むにつれ、速度が増す。・


「すごいね、これ」

「ああ。これなら目的地にもすぐつきそうだ」

 

 そして――


「この先です、創造主。 

ちょっとやべーけど」


 竜牙兵が言った。

 目の前の光景を見て、俺と師匠は思わず声を上げた。


「これは……」

「たしかに…………」


 俺たちの眼前に広がるのは、無数の白い竜牙兵たち。

 それだけじゃない。俺たちの乗る列車の前には、一回り小さな竜牙兵たちもいる。

 その先には――心臓部だろう。大きな扉がある。そこを守るように竜牙兵が密集しているのだ。


「あいつら話通じねーんだよな。破壊しかしねー」

「俺も攻撃されたわ」

「俺なんてほら腕なくなってるし」

「白いのやなやつらだよなー」


 赤血球竜牙兵たちが話している。

 

 そして――


「おい見ろ! 来たぞ!」


 誰かが叫ぶ。視線の先には――青い竜牙兵がいた。


「げっ――キラーT竜牙兵じゃねーか」


 赤血球竜牙兵が言う。


「それは?」

「とにかくやべー。ふつーの白いのに輪をかけて話が全く通じない完全迎撃型白血球です」


 白血球竜牙兵たちは、俺たちの乗る列車に向かって銃を構える。


「まずい、撃ってくるぞ!!」

「創造主様……やつらにとっての異物がいるってわかってやがる」

「避けろ!!」

「だめだ間に合わない!!」


 その時――


「えい」


 師匠の魔法弾が、竜牙兵の腕を撃ち抜いた。

 銃口がそれて、銃弾が空を切る。


「な、なんだ!?」


 竜牙兵は戸惑う。


「今のうちだよ」


 師匠は列車から飛び降りる。

 そして走り出す。俺も続く。


「どけえ!!」


 俺は光刃を振り回す。

 師匠は――


「創造主、あいついてこねーんですけど」


 赤血球竜牙兵が言う。

 師匠は――立ち止まり、巨大なキラーT竜牙兵と相対していた。


「師匠!!」


 俺は走り寄る。だが――


「大丈夫だよ」


 師匠は、俺に微笑みかける。


「ボクは師匠だからね。弟子を送り出すものだよ。

ここは任せて先に行け――一度行ってみたかったんだよね。ほらボクも若いから、今まで先輩の宇宙勇者たちにそう言われるばっかだったからさ。

 だから……」


 師匠は、光刃を構える。


「スノウ姫を――スノウちゃんを、絶対に助け出して。

 三人で、帰ろう」


 その師匠の言葉に、


「ああ――必ず!!」


 俺はそう答え、そして振り返らずに走った。

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