百合の花 ー3ー
A(依已)
第1話
――ある日、夢を見た。
わたしは夢の中で出会ったある親切な老人に、"死にたい"と打ち明けた。得体の知れない、親切そうな、長く白いヒゲをたくわえたその老人は、押し黙ったまま、こくりと頷いた。そして、無言のまま、わたしになにやら薬を差し出した。
わたしは一瞬の躊躇すらせずに、老人の親切心を受けとることにした。なんと、見ず知らずの赤の他人からの薬を、ためらうことなく、その場で飲み干したのだ。
わたしはすぐさま、意識が朦朧とした。そして、老人に手を引かれ、公開処刑台の上へと連れて行かれた。親族達は、物騒なことに喪服を着て、椅子に腰かけこちらを凝視し、葬儀を始めるスタンバイを、今か今かと準備万端整えている。
わたしの朦朧とした意識は、自分の今置かれている危うい状況をおぼろげに把握し、恐怖で目が覚めてしまった。完全に意識がないままなら、痛みも感じずに死して楽になれたかもしれぬのに、中途半端に目を覚ましたわたしは、怖くてブルブルと足がすくんだ。なんとも子供じみていると、嘲笑われても仕方がないのだが、痛みを伴うのが怖かった。
――後悔。しかし、もう後には引けない状況に陥っていた――――
ハッとなり、夢から飛び起きた。目が覚めてもしばらく、涙が止まらなかった。とどめるということなどないほどに、溢れに溢れ、布団に滴り落ちた。号泣というものを、生まれてこのかた、初めて経験をした。
生き地獄―――。わたしに安住の地など、何処にもありはしないのだ、と悟った。
百合の花 ー3ー A(依已) @yuka-aei
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