第27話 蒼い残像
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目が覚めると、無数の女性の中にいるルクスと目が合った。
獲物を狙うような彼女の目つきは苦手だ。光悟は逃げるようにパピのもとへ走った。
「パピッ、ちょっとパーティを抜け出して喫茶店に行かないか?」
「はぁ? だる。なんで付き合わなきゃいけないのよメンドくさい。まあ行くけど」
女性たちも追いかけようとするが、そこで屋根の上にいたティクスがホールにやってくる。
強い光を発生させて、みんなの目をくらませている間に光悟たちの姿は見えなくなった。
みんなガッカリしたように散っていったがルクスだけは違う。
光悟を追いかけるためにホールを抜け出して屋敷を駆けた。
だがちょうど門の前に来た時、ティクスから事情を聞いたルナが立ちはだかる。
「あらま! これはこれはルナ様!」
「学校で習わなかった? 駄目よ、人のものに手を出したら」
恋に生きる人間は嫌いではないが、それがパピを悲しませるとしたら話は別だ。
「光悟さんは私の親友の夫になる人なの。手出しはさせなくってよ!」
植物の根っこが地面を突き破ってルクスの足を縛り上げていく。
ルナはぐるぐる巻きにしたルクスを細い腕で抱え上げると、屋敷の一室に放り投げた。
「ちょっとーッッ! 光悟さんを食べさせてよ!」
「んまッ、なんて下品な表現! パーティが終わったら出してあげるから、しばらく大人しくなさい!」
とまあこうしてルクスはなんとかなかったが、喫茶店にいた光悟は疲れ果てていた。
アレだ。ちょっと焦り過ぎていたのかもしれない。
考えてみれば今まで二人で話す時間なんてそんなになかった。今は告白とかは忘れてパピと会話がしたい。
「好きな食べ物はあるのか?」
「あまあまなヤツならだいたい好きかな! すっぱすぎるのは好きじゃないの!」
「趣味は絵の他にもあるのか?」
「字を読むのは退屈だから好きじゃないけど、お芝居を見るのは好きよ」
「好きな花を教えてくれないか?」
「綺麗なやつならなんでも好きよ。でもやっぱりニーゲラー家の家花であるクロタネソウとか、ルナにもらったバラとかかな!」
「元気か?」
「なによ、そのつまんない質問。元気に決まってるでしょ。それより今日ね――」
ルナと舞台を見に行ったことや、ロリエの家でご飯を食べたことを嬉しそうに話す彼女は、以前の姿が嘘のようだ。光悟も嬉しくなってたくさん相槌を打っていた。
しばらくして屋敷に帰ると、まだパーティは続いていた。
「また囲まれるのか? 憂鬱だぞ……」
「ばかね。裏口から入ればいいじゃん。ほらコッチ!」
前からなんとなく『馬鹿』の言い方が柔らかくなった気がする。
手を引かれて裏口にやってくると、そこでパピが固まった。
光悟もすぐに気づいた。薄暗い屋敷の裏でヴァジルとロリエが唇を重ねていたのだ。
「んぼぅッ!」
パピから変な声が出た。ヴァジルたちはビクっと肩を震わせ、パピを見る。
「お、お姉ちゃん!」
「ごめっ! あの! 別に覗いてたわけじゃなくて! ひぇええええええええッ!」
パピは真っ赤になって走り去ってしまう。一方でヴァジルの前にある土下座。
「し、師匠! なにしてるの!?」
「いやッ、ヴァジル! お前のほうがずっと師匠だ! 大師匠だったんだ!」
光悟は事情を説明する。パピに告白したいのだが、なかなか上手くいかない。
だからヴァジルに何がどうなったらさっきのような展開になるのかを聞きたいと。
「い、いやッ、あの、恥ずかしいんだけど、前からロリエに告白したかったんだ。でもなかなか勇気が出なくて踏み出せなかったんだけど……」
ロリエが嫉妬してくれたおかげで背中を押された。
彼女に嫌われてしまうという焦りから、想いをありのまま言葉にしたら上手くいったとか。
「だがパピはそのまま言葉にしても照れてしまうみたいで。ロリエはどう思う?」
「二人にしかない思い出ってありませんか? それってすっごく大切だと思います。きっとそれがお姉ちゃんの中にある心の壁を崩すヒントになってくれますよ」
ロリエがそうだった。
ヴァジルがかけてくれた愛の言葉は、きっと他の人が聞いたらよくわからないと言うだろう。
読んだ本の内容、二人きりの図書館、他にも二人だけにしかわからないものがある。
小川、夕暮れ、森の話。でもそのキーワードの説明はいらないのだ。
それはヴァジルとロリエだけが知っていればいい、他人が知る必要はない。
「恋人という存在は本で知っていました。素敵な存在だとも。その正体はわからなかったけど、今ならなんとなくわかります。きっとその二人だけにしか生まれない絆を育むということです。たとえそれが他人から見たら曲がっているような絆でも」
光悟はそこで目を見開く。歪んだ絆と言えば確か――……。
するとそこでルナが血相を変えて走ってきた。光悟たちを探し回っていたらしい。
「ルクスが逃げ出したのよ! 手足を蔦で縛ってたというのに!」
「他の人が見つけて助けてあげたんじゃないの? ナイフとかで切ってさ」
「失礼ね! 私の強力な木魔法がそこらのナイフで破れるわけないでしょう?」
ということは? 光悟は血相を変えると、ティクスの名を叫んだ。
◆
「はぁー、びっくりしたっ!」
パピは屋敷の外まで飛び出して、人のいない道をトボトボと歩いていた。
ロリエたちがああなるのは不思議じゃないとはいえ、キスを見たのは衝撃的だった。
(どんな感じなんだろう? や、やっぱりいいのかな?)
幸せな気分になれるのなら、まあ、してみたい。
じゃあ誰と? すぐに首を振って妄想をかき消そうとするが、光悟がたくさん出てきて離れてくれない。
「やっと一人になってくれたわね」
パピが振り返るとルクスが立っていた。
赤黒い闇がその身を包むと、顔から胸までが人間で、あとは鳥の幻獣『ハーピィ』に酷似した姿へ変わる。
「ルクス改めセブン・ラストでーす! まんま鳥みたいな姿にもなれるけど、こっちの方がエロくて好きなのよね、私!」
人間に擬態できるヴァイラスがいるなんて知らなかった。パピはすぐに剣を構える。
「ウザッ! アタシを殺すつもり?」
「まあね。貴女が死んでくれると、神様がとっても喜ぶの」
ラストの背中に広がる孔雀の羽。大量の目がついており、それらがパピを見つめた。
羽ばたかせると銀色の粒子が散布され、それを吸い込んだパピは咳き込みながら地面に膝をつく。
神様? そのワードが引っかかったが、今はそれどころではない。
「怖い? 震えてくれると嬉しいわ。ヴァイラスにとっては恐怖はごちそうよ」
「……悪いけど、全然怖くないから! ざまあみろっての!」
「強がっちゃって。私もセブン、貴女くらいは余裕で殺せるわよ」
「信じてるもん! アタシは死なないって! だって――」
危なくなったら絶対に来てくれる人がいる。
その時、空から水の塊が降ってきた。パピとラストの間に落ちた水流は、すぐに人の形になって弾ける。
「ほらね!」
パピは青の光悟の背中に隠れて舌を出す。
「そそるわね。そういう女の前で男を殺すのが趣味なのよ!」
ラストが走りだす。光悟は腰を落として掌に水を集めると、大きな手裏剣に変えて投げた。
それはラストに直撃し、羽を巻き散らしながらダウンさせる。
ラストはすぐに立ち上がったが、光悟の分身に斬られた。
よろけたところに別の分身が小刀を刻み付ける。
こうして次々に分身たちが攻撃している間に、本体はプリズマーから宝石を抜き取り、握り潰した。
必殺技の発動。分身が水の竜に変わると、次々にルクスの体に噛みついていく。
「正義忍法! 奥義ッ!」
走り出す光悟。右手に青い光が集中していき、竜の頭部のオーラが纏わりつく。
「
「グゥゥウアァ! アァアァアアアアアア!!」
強力な掌底が叩きこまれるとラストは大きくよろけながら後ろへ下がっていき、直後爆発した。
光悟は変身を解除すると、パピに一つの『お菓子』を差し出す。
「和久井――、地球の友達に送ってもらったお菓子なんだけど、食べるか?」
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