異世界の悪役令嬢を救うため、特撮ヒーローに俺はなる!
ツカサショウゴ
プロローグ
ボクは火曜日に恋をした。
彼女はいつも一人で本を読んでいた。
「それ、ボクも読んだよ」
「本当ですか? じゃあ後で感想を聞かせてください」
父さんと母さんが死んだ時、彼女だけが傍にいてくれた。手を握ってくれた。
少し、照れ臭かったけど、孤独じゃなかった。
それはとても大きなことで、だから残りの人生は恩を返すために使ってもいい。
それがボクにできる唯一のことで――
そう。
だから彼女のために何だってしてあげたい。
そう思ったんだ。
「ヴァジルは賢いから。わたしには理解できなかったところを教えてほしいです」
「やめてよ。ボクなんかよりロリエの方がずっと優秀じゃないか」
ボクらが住んでいるイーリスタウンでは『魔術師』が全てだった。
魔法を使うことのできる素質、『魔力』を内包した人間の中でも、選ばれた存在だけがそう呼ばれている。
かつてこの星では、憎悪で構成された『ヴァイラス』という化け物が暴れまわっていたが、七人の魔術師たちの手によってイーリスタウンの地下深くに封印されたらしい。
人々は感謝の意を込め、七人の魔術師たちが得意としていた魔法属性、月・火・水・木・金・土・日を曜日の名前にして、それらが一巡する七日を一週間と名付けた。
封印魔法にもこの七つの属性が使われていて、その影響でイーリスタウンでは一日ごとに漂う魔力の質が変わるから、封印を守るためにはそれぞれに特化した魔術師が必要となる。
それが『曜日の魔術師』と呼ばれる存在だった。
たとえば火曜日なら火属性の魔法が強くなるエネルギーが溢れるから、火曜の魔術師であるロリエが存在すれば封印の魔法をより強固にできる。
だからボクは火曜日が好きだ。火曜になるとみんながロリエを敬い、讃えてくれる。
でも中にはそんな彼女を疎ましく思う最低なヤツらもいた。
あの日だってロリエの周りから人がいなくなったのを見計らって、彼女を小川に突き飛ばしたんだ。
「火曜の魔術師なんだからココの水、全部蒸発させることくらいできるでしょ?」
いじめっ子の二人がヘラヘラ笑ってる。
ロリエは優しいから、怒らないで困ったように笑うことしかできない。
「そ、そういうのは……、できないんです。ごめんなさい」
「はぁー? ダッサ! そんなんで火曜日の魔術師を名乗れるっての? このグズ!」
金曜の魔術師・『パピ』が小さな鉄の塊を魔法で生み出して、投げつける。
ロリエはおでこにぶつかった鉄塊が水に沈んでいくのを悲しそうに見つめていた。
曜日の魔術師は自分の力を子供や親族に受け継がせていくのが基本だけど、中には全くの他人に与えるケースもある。
これを
助けてあげたいけど、ボクの低い魔力じゃ太刀打ちできないし、そもそもボクはロリエの使用人。曜日の魔術師に手を出すなんて最悪だ。
それこそロリエの家の評判が下がる。
だから見ていることが正解なんだ。悔しくて悔しくてたまらないけど、それでも――
「ヴァジルくん、だったかね? 少しいいかい?」
男の声がして振り返ると、水曜の魔術師が立っていた。
すぐに頭を下げたけど必要ないと言われた。正確には必要なくなると。
「キミは随分と悔しそうだが、それはなぜか? いやぁ、わかっているとも。このジジイもそこまで老いちゃいない。キミの普段の表情や仕草を見ればロリエくんに対してどういう想いを抱えているかくらいはわかるとも」
全身が熱くなる。どうしていいかわからず、黙っていることしかできない。
すると水曜の魔術師はクワガタを模った家紋のワッペンを差し出してきた。
「知っての通り私には子供がいなくてね。今さら作る気もないが、水曜の魔術師は途絶えさせてはいけない。それがこの町のルールだろう?」
ボクはすぐに意味を理解した。ボクはそれを求め、欲し、懇願した。
水曜の魔術師は笑っていた。欲張りは嫌いじゃない。それが人間のあるべき姿なのだと言って宝石がついたペンダントをくれた。
「賢者の石という代物だ。我が家に伝わる珍品でね。所持者の魔力を跳ね上げてくれる。このジジイが最強なんて呼ばれてるのはソイツが原因で――」
なんでもいいから早く頂戴。
失礼な言い方だったけれど、彼は笑って許してくれた。
その日、ロリエは池の前で泣きそうになっていた。
相変わらずパピと、取り巻きの木曜の魔術師がヘラヘラ笑ってる。
「川は無理でも、この小さな池の水だったら蒸発させることができるわよね?」
「ご、ごめんなさい。わたしは、やっぱり……」
「そうだよロリエ。そんなことする必要ないよ」
みんな驚いていた。池の水が空に昇っていったからだろう。
「え? アンタッ、なんでその家紋を!? 使用人風情が身に着けていいものじゃ――」
「だって、ボクはもう使用人じゃないから」
「は? ど、どういう意味よ!」
ボクはパピを無視して、からっぽの池の前でロリエに微笑みかけた。
「ボク、水曜の魔術師になったんだ! これからはキミを守るから! 安心してね!」
いつか彼女が与えてくれた光をボクも与えることができれば、そう心から願う。
ボクは彼女の味方だ。彼女だけの味方でありたい。
◆
【ロリエ】『ヴァジル、どうですか? こういうの普段着ないから……』
【ヴァジル】『う、うん……! 大丈夫っ、すっごく似合ってるよ!』
お屋敷の中、ロリエは恥ずかしそうにスカートの裾を摘むと全体がよく見えるように大きく広げてみせた。いつもとは違う彼女の姿にヴァジルの体がカッと熱くなる。
それを悟られるのは恥ずかしいので、ヘラヘラと笑いながら誤魔化す方法を考えた。
【ヴァジル】『と、ところでロリエ! お腹すいてない? 向こうにいろいろあったよ? クッキーとかケーキとか、しょっぱいものだとサンドイッチとかも! ボクっ、なんでも取ってくるから!』
ロリエがお礼を言おうとした時、背中に衝撃を感じた。
驚いて振り返ると、意地の悪そうな笑顔が二つ並んでいる。
【パピ】『あー、ごめんなさーい。アタシってばつい』
母からもらった大切なドレスにコーヒーの染みが広がっていた。
ヴァジルはすぐにロリエを庇うように前に立つと、二人の少女を睨みつける。
【ヴァジル】『謝ってよ! わざとでしょ!』
【ルナ】『今、謝ったでしょう? それにわざとだなんて……。ねえパピさん?』
【パピ】『そうね。それにそのダッサイ服。いまさら汚くなろうが変わらないっての!』
それはそれは意地悪な表情でロリエを睨んでいた。
「ひどいヤツだなぁ」
プレイヤーはそこで一旦セーブをして、トイレに行こうとPC前を離れた。
机の上には随分古いPCゲームの箱がある。日焼けして色が薄くなっており、パッケージには桃色の髪の少女が微笑んでいた。
タイトルは『オンユアサイド』、所謂『泣きゲー』というジャンルのようで、文章を読んでいくノベルゲームのようだ。
曜日を司る7人の魔術師が世界の均衡を保っていたが、事故により人数が欠けてしまい、『ヴァイラス』という化け物が復活してしまう。
水曜日の魔術師で主人公の少年ヴァジルが、火曜日の魔術師・ロリエと共に戦いに巻き込まれていくというストーリーである。
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