operations-05



 * * * * * * * * *




 島に降り立った後、ヴィセ達はそっと浜の様子を窺っていた。


 何やら騒がしくしているが、飛行艇が飛んでいる様子はなく、ドラゴン達は潜水艇用の格納倉庫を出入りしている。ラハヴも倉庫の中を覗いている事から、中に何かがあると思われた。


「……とりあえず、大丈夫そうだな。バロンの声もした」


 ≪浜に出てみよう、敵の姿はない≫


 ヴィセとラヴァニが砂浜に現れると、島民たちが待っていたとばかりに駆け寄って来た。ジェニスやアマン、フューゼンの姿もある。


「あんた達、無事やったんね! ああよかった」


「やっぱり、ここにも飛行艇が来たんですね」


「そっちにも行ってたんだね。さあ、あたしらは捕まえた連中をどうするか、話し合ってたところだよ」


「捕まえた?」


 ジェニスに手招きされ、ヴィセ達は潜水艇の格納倉庫へと向かった。バロンが嬉しそうにヴィセへと突進してくる。


「あ、ヴィセ! あー良かった、ヴィセ無事だった!」


「ただいま。えっと……これはいったい」


 格納庫には10数名の男達が縄で後ろ手に拘束され、うつ伏せに寝かされていた。エゴールと島民数名が見張っている。


「凄かったよ! あのね、飛行艇をね、ドラゴン達が炎とか体当たりでね、こう……こうした!」


「墜落させたってことか」


「そう、ツイラク! それをね、シードラとラハヴが全部沈めた!」


 海の上も島でも、飛行艇乗りは急襲に失敗していた。ドラゴンは飛行艇を恐れず、さんざん追い回した後で海に落とした。全員が生きているのかは定かではないが、確認できた者は全員拘束している。


「ヴィセくん。君がいた方が話も早い。さあ、君達。目的をどうぞ」


「……も、目的など」


「偶然戦闘型の飛行艇十数機で飛んでいて、偶然ドラゴンを発見し、島や遠方の船を襲ったのかい」


「ただの飛行演習だ! ドラゴンがいれば攻撃するのは当たり前だ」


 エゴールの詰問対し、リーダーと思われる髭面の男が口を開くも、目的を言おうとはしない。それに納得がいかないのはヴィセ達だけではなかった。


「偶然通りかかり、目的もなく島に銃弾を撃ち込んだってのか」


「ドラゴンを狙って、たまたま流れ弾が当たったって角度じゃなかったな」


 島長や島民たちも倉庫に入って来て、襲撃者を非難する。


 幸いにも撃たれた者はいなかったが、畜舎の屋根が壊れたり、桟橋が破壊されたりと被害は大きい。これについては流石に言い逃れが出来なかったようだ。


 リーダーの男が睨み上げながら、掃射の狙いを打ち明ける。


「……ドラゴンがこの島を襲うのに乗じて、島を乗っ取れたらいいと思っていた」


「そうだ! 脅すだけで、島民を殺すつもりではない!」


「降伏させるための威嚇射撃だった、ということか」


「そうだ」


 島が狙われるのは今回が初めてではなかった。霧に囲まれて生きる者にとって、霧の心配がない島や沿岸は魅力的な移住候補地だ。


 船から砲撃された事も、今回のように戦闘飛行艇が島を撃った事もある。その度に島は銃で応戦したり、ラハヴの力を借りて島を守ってきた。


「……だからと言って、はいそうですかと帰らせる訳にも」


「壊したものは全て直す。大陸は土地の奪い合いだ、あんた達は理不尽に思っても、俺達も生きるために必死なんだ」


「恵まれた地に住むあんたらには分からないだろうな」


 襲撃者達は襲う権利や、安全な地を求める正当性を訴える。それを島民が受け入れる必要はない。襲う理由を聞いたからといって、許すつもりはないようだ。


 島長は男を見下ろし、島としての決定を告げる。


「何事もなく帰らせる事はできない。分かるな」


「……ああ」


「あちらの小屋に監禁する。食料は小窓から自分達で魚を釣って何とかしろ。水と釣り餌は3日に一回運んでやる」


「監禁期間は何年だ」


「1年。追加の襲撃があればあんたらを死刑にする」


「……分かった」


 島長は島民に命じ、島の北端にある小屋に全員を連行させようとする。ヴィセがそれに待ったをかけた。


「俺は納得いかない。あんたらの説明は、遥か遠くの海上にいた俺達を狙った事に説明が付かない」


「……」


 せっかくうまくいきそうだったのに、と言いたいのだろう。襲撃者がヴィセを睨み、あからさまな舌打ちを漏らす。


「どういうことだい? ヴィセくん」


「ここから何時間も掛かる沖にいたのに、どうして分かった」


「そういやあ、島を乗っ取るのに、何で船が狙われたんだ? どうして船の位置が分かった」


「本当は島を狙ったのではない。という事ですよね。戦闘機5,6機でドラゴンを追い回し、船にも掃射を行っておきながら、威嚇では済まない」


「船に撃ち込んだのか!?」


 島民達が驚いて襲撃者を睨む。襲撃者達も、まさか乗船していた者が戻っているとは思わなかったのだろう。


「隠し事をして、得をする事はないぞ」


 襲撃者達は再び地面に押し倒された。真実を隠している上に、船を撃ったと聞いて、島民は監禁1年で済ませる気がなくなっている。


「本当の事を言った方がいい。ドラゴン達は仲間が狙われたと知っている。俺達があんたらを見限ったなら、どうなるかは想像できるだろう」


「ヴィセ、船の人達は大丈夫? ドラゴンは撃たれてない?」


「大丈夫だ、そのうち戻ってくるよ。あんた達に一応言っておく。沖の船を襲った戦闘機は全部落とされた。生きて帰って来る奴はいない」


「なんだと?」


「ドラゴンが全部海に落として、あんたらと同じ目に遭ったのさ。掃射を受けたからな、俺達は誰も助けなかった」


 ヴィセの言葉が衝撃的だったのか、男達は絶句して互いを見つめ合う。戦闘機は全て落とされ、収穫はなし。2人乗りだった機体も含め、8人が死亡。


 このような結果を届けたなら、どのみち生きてはいられない。口を開いたのはリーダーとは別の男だった。


「ドラゴンが狙いだった。この島じゃない」


「それで、今日たまたま島の上を飛んだというのか」


「この付近を通った船からの情報だ。一昨日、ドラゴンがこの島に続々と集まっていると」


「ドラゴンを狙う理由は」


 リーダーの男や、他の襲撃者も全員が喋るなと言って遮る。けれど、男は正直に打ち明けた。


「ドラゴンは空に浮かぶ島に住んでいる。という事は、ドラゴンの行く先にその島がある。浮遊鉱石が大量に眠るその島が」


「浮遊鉱石が目的だったって事だな」


 浮遊鉱石の採掘作戦が漏れた訳ではなかった。ドラゴンを追えば、ドラゴニアに帰っていくと睨んで、後を追っていたのだ。


「ドラゴンに掃射したのは謝る。驚いて空の島に逃げると思っていたんだ。まさか、飛行艇を襲うとは思っていなかった」


「まだ飛行艇は来るのか」


「これで14機を失ったんだぞ? もう飛行艇は残ってない」


 男は仲間から罵倒され、それでも最後までヴィセ達に伝えきった。


 モスコ大陸の他では、まだドラゴンを狙う者や、ドラゴニアを狙う者が多くいる。


 ドラゴニアを復活させたなら、再び様々な土地の上を飛ぶだろう。その時、ドラゴニアは再び狙われる事になる。


 ≪ドラゴニアが復活しても、それで終わりではないのか≫


「そうならないようにするのは俺達の役目だ」


 その浮遊鉱石を採掘している事を知られてはならない。話が漏れてしまえば、今度こそこの島が狙われ、採掘基地にされてしまう。


 島長が全員を再び立たせ、監禁小屋に連れて行こうとする。今度それを制止したのはジェニスだった。


「さっき話をしてくれたあんた。あんただけ残りな。他の奴は連れて行っとくれ」


「僕、ですか」


「モスコ以外の事を知りたい。あんたが正直に話すなら、悪いようにはしない」



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