Avarice-09
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数日が経った、波の穏やかな日だった。
港の南の海沿いの道に、人が大勢集まっている。その中心にいたのはヴィセ達だった。ラヴァニは元の大きさになり、ヴィセとバロンを背に乗せている。ヒューゼンとエゴールもドラゴンの姿になって、アマン、ジェニスをそれぞれ背に乗せていた。
≪島ニ着イタラ 1晩時間 ヲクレナイカイ。次ニ朝日ガ昇ル頃、封印ヲ解イテクレルトイイ≫
「分かった!」
マニーカはバロンの鞄の中にいた。島まで運んでもらい、そこから浮遊鉱石の鉱脈を目指すのだ。
「気を付けて行っておいで! また美味しいお魚用意して待っとるからね!」
「うん! 行ってきまーす!」
観光客には浮遊鉱石の事を伝えていない。それでもドラゴンの大群に何事かと集まっていた。この地区の住民が当然のように接しているのを見て、ドラゴンを観るのが初めてなのか、驚愕している者もいる。
ブロヴニク地区では、ドラゴンやラハヴがいる景色も当たり前になっていた。それもしばし見納めだ。
「いやあ、こんなにドラゴンが空を飛ぶ姿は初めてだ。圧巻だな、これが全部オレ達の敵だったらと思うと恐怖だよ」
≪我らは誓いを違わぬぞ。そなたらが我らと共にある限りな≫
「ドラゴンは皆さんの味方だから、仲良くして欲しいと言っています」
空にも20体程のドラゴンが飛んでいる。明日島に着く頃には、更にその数は増えているだろう。集まってくれた者達に手を振ると、人を乗せたドラゴン達が一斉に飛び立つ。
町の者達は、誰1人として浮遊鉱石に関する詮索をしなかった。金持ちに連絡を入れたり、自分達で探そうともしていなかった。
ヴィセはそれは何故かと聞いたことがある。
『海賊と戦い、土地を守り、分かった事がある』
『分かった事?』
『味方だよ。金を持っても味方がいなけりゃ狙われるだけだ。金で買った味方は、金がなくなりゃ敵になる。金目当てで味方になった奴は、もっと金のある奴に寝返る』
ブロヴニクは恵まれた土地だが裕福ではない。生活に困ってはいなくても、富で何かを築くほどの余裕はない。本音を言えば、浮遊鉱石の分け前が貰えたなら助かる。
けれど、彼らはヴィセ達との縁を選んだ。
ドラゴンとの絆やラハブとの交流は、金で得たものではなかった。彼らに金は通用しない。富よりも縁を選ぶことで、ドラゴン達もまたブロヴニクの味方となる。皆、その方が何倍も得だと言って笑う。
『内陸の霧を消してくれるなら、人が住める土地も増える。豊かな土地も増える。オレ達も安心して暮らせる』
『魚の買い手が増えりゃ、長い目で見たらそれで十分潤うさ!』
『霧は数百年、数千年後に消えるかどうか分からない。150年間、霧が晴れた陸地を誰も知らない。その瞬間を見てみたい。そのチャンスを金で潰す気はないね』
『はっはっは! どのみちドラゴンや君達が相手じゃどうにもなんねえさ! さあやっとくれ!』
欲しくない訳ではない、それは分かっていた。だからこそ、ヴィセは送り出してくれた地区の皆に感謝した。世界のため、協力したいのは彼らも一緒だ。
「守るべきものが何か、教えてくれたんだよな」
≪何の話だ≫
「ブロヴニクの皆には浮遊鉱石の事を隠さなかった。それなのに、皆が浮遊鉱石を世界のために使ってくれと言ってくれた」
≪当然のことだ、この世界なくして人は生きられぬ≫
「ブロヴニクは霧の心配もない。浮遊鉱石を売れば大金持ちだ。でもドラゴンの好きにしろってさ。霧発生させたのは人だけど、消すのは人のためじゃない」
「みんなのために使おうよって、そういう事だよね!」
「ああ、そうだ」
ラヴァニの背に乗って、冬の冷たい空気の中を突き進む。小さな岩礁が見えるだけで、ドラゴン達が羽を休められる土地はない。
飛び始めて数時間、そろそろ島が見えてくるはずだ。ドラゴン達はそれまで休む気がないらしい。
「ラヴァニ、疲れてない? エゴールさん達も大丈夫かな」
≪心配ありがとう。でも大丈夫だよ、あんなに温かく送り出してもらえたんだからね≫
全員がドラゴンの血のおかげで声が届かなくても会話できる。飛行中は風を切る音などで声が届かないため、この能力がなければまともに会話が出来ない。
それと同時に、聞かれたくない事も聞かれてしまう。
「エゴールさんはジェニスさんを乗せてるからね。かっこいいところを見せたいんだよ」
「あーそうだった! へへへっ、ジェニスさんの事が好きなんだもんね!」
≪……ヴィセくん、バロンくん、聞こえてるよ≫
エゴールが恥ずかしそうに諫める。
皆が笑い、もっと速く飛んだ方がカッコいいぞなどと焚きつける。ヴィセは僅かに前に出たエゴールを見て、ジェニスの選択がエゴールの消極的だった思考を変え、前に向かせてくれたのだと感じていた。
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