remedy-04
ヴィセとバロンはディットときつくハグをし、ラヴァニはディットからおでこにキスを貰う。
「世界中が全部敵になっても、私だけは味方……なんてカッコイイ台詞があるけど、あたしはそんなまやかし言わない」
「どういうことですか」
「あたしが味方である事なんか大前提。あなた達の味方はあたしが増やす」
「……心強いですね、有難うございます」
「さあ、行って。絶対に振り向かないで。絶対よ。何があっても」
ディットが玄関の鍵を開け、ヴィセに扉を開けさせる。ヴィセは言われた通り勢いよく扉を開け、大股で外に出た。暗い中、家々の明かりだけが道を照らす。
≪人の気配がある。やはり見張られていたな≫
「空から偵察を頼む。広場で落ち合おう」
「おねーちゃん、ばいば……」
「もう! 何か1つくらい教えてくれてもいいじゃない!」
バロンが元気よく手を振ろうと振り向いたところで、ディットの大声が響き渡った。バロンがビクリと飛び跳ね、尻尾の毛が2倍に膨れ上がる。
「えっ? えっ?」
「ヴィセ君! ドラゴニアの事だって、せめてどこまで分かったかくらい話してくれても……ちょっと!」
ディットの大声で近隣の者が何事かと顔を出す。
≪……怪しい気配は去った。注目されては困る連中だったのだろう≫
「ねえヴィセ、どういうこと? 何でおねーちゃん怒ってるの?」
「お芝居だよ。俺達が博士に何も教えずに出て行ったと思わせるためさ」
「あっ、そっか」
ヴィセとバロンはそのまま広場へと向かい、ラヴァニに鞍を取り付ける。ラヴァニは怪しい人影の存在を確認していたが、別のテーブルマウンテンに移ってしまえば追っては来れない。
「味方、か」
≪明日モニカまで飛ぶのなら、途中でドーンに寄ってやろう。アマンとの約束の日までまだ時間はある≫
「そうだな。ドーンは町も大きいし、買い物も出来る。服も傷んできたし、靴下は穴が空いてしまった」
「姉ちゃんに会っていい? ねえ、姉ちゃんの所に泊まっていい?」
「ああ、勿論だ。色んな所に行ったし、写真もいっぱい撮ったし、お前が見て来たものを話してやれ」
「ドラゴニアの事は? 話してもいい?」
ドラゴニアの事は話してもいいものか。もし情報を持っていると知られたなら、命を狙われてもおかしくない。ディットだって大丈夫とは言い切れない。
「……ドラゴニアの事は、黙っておこう。ドラゴニアを探してると言っておけ」
「嘘つくの?」
「……ドラゴニアの話をしなければ嘘を付かなくて済む」
≪ヴィセ、あのテーブルマウンテンが良いだろう。近くに川も流れておる≫
「うん、助かるよ」
ラヴァニが平らな岩の上に降り立ち、ヴィセ達は寝床の準備を始める。風呂に入らせてもらったおかげで、野宿といっても汗や匂いによる不快感がない。
「あ、タオルも洗ってくれてる! やった、俺洗ったばかりのタオルの匂い好き!」
「ほんとだ、日当たりが良かったせいで良く乾いてる。今度お礼を言わなきゃな。ラヴァニの分もあるけど、小さくならないと使えないな」
≪我はこのままで良い。鞍も外すな、万が一の際、すぐにこの場を離れられる≫
雲が多く、今日は星空が見えない。もし見えたとしても、ゆでたまご座の星など覚えていないだろう。
「……あのさ、ディットさんは俺達の味方って言ってくれたよな」
「うん、俺ね、ディットさん好き」
「俺もだ。でも俺達の味方って事は、俺達から話を聞いているかもって、思われる訳だよな」
≪つまり、危険に晒す事となる、か≫
「ああ。バロンをお姉さんに合わせてやるのは構わない。でも悪人が関係を知ったら人質に取られる事もある」
浮遊鉱石が手に入るなら、何だってする覚悟で探している者もいる。オムスカでの会話をドーンやモニカの仲間に電話で伝えた者もいるかもしれない。
ドラゴニアへ到達した事を隠さず喋ってしまった以上、浮遊鉱石なんか知りませんでは通用しない。浮遊鉱石を持ってこい、人質の命と引き換えだ……などと言われるのは目に見えている。
無人のテーブルマウンテンは、夜になれば虫の音と風の音以外に何もない。ある意味、誰にも迷惑を掛ける事もなく、命を狙われる事もない、一番安心できる場所だ。
「ヴィセ、まだ寝ないの?」
「ああ、もう少ししたら寝るよ、うるさかったか」
「眠いから……大丈夫」
バロンがおやすみを言いかけ、そのまま寝落ちてしまう。ヴィセは声を抑えつつ、ラヴァニとの会話を続けた。
「モニカの霧が薄い理由が分かったら、それを他の場所にも広めていかないといけない。そうなれば必然的に目立つことになる」
≪味方も増えるが敵も増える。巻き込んでしまう者が増えていく≫
「味方になってくれるのは心強い。でも、俺達は味方を守り抜かなくちゃいけない」
まだ若いヴィセでは幾ら悩んでも何が正解か分からない。ラヴァニもドラゴンとしての意見しか言えない。バロンを姉と合わせてやっていいのか、悪いのか。今はそんな事まで気にしなくてはならない。
暫くどちらも口を開かない時間が過ぎていく。先に意見を出したのはラヴァニだった。
≪我との行動を控えてはどうか≫
「どういう事だ」
≪我といたなら目立つのは勿論だ。しかも我がヴィセ達をドラゴニアに連れて行った。浮遊鉱石を狙う者達は、それを承知している≫
「たしかにそうだけど……」
≪ならば、我との旅を終えた事にしてはどうか。ドラゴンへの理解もおおよその町で進んだのだから≫
仲間と再会し、ドラゴニアを見つけ、人々にはドラゴンの真意を理解してもらった。もうラヴァニが共に旅をする動機はなくなっている。となれば、それを逆手に取ればいい。ラヴァニはそう考えた。
「ドラゴンとの協力は終わった、ドラゴンがいなければ行く事も出来ず、場所も分からない……と思わせる訳だな」
≪いかにも≫
「浮遊鉱石はどうする。何も情報を持っていないと主張しても無理がある」
≪我や他のドラゴンが浮遊鉱石の持ち出しを許さなかった、と言えばよいのではないか≫
「でも……」
ヴィセにとって、ラヴァニとの旅は当たり前のものになっていた。バロンにとってもそうだろう。ラヴァニに頼らずに旅を続けるなど、考えた事もない。
「……これで、お別れなのか?」
≪そうではない。ドーンやモニカで調べ物をするのなら、我がいない方が良いというだけだ。我は指定された日まで身を隠す≫
「鞄の中に隠れてても駄目なのか」
≪我の姿が見えぬなら、鞄の中にいると思うだろう。本当に鞄の中にいてはならぬのだ。飯の際、部屋での会話、一切を隠すのは難しい≫
ドラゴン連れでなければ、ヴィセとバロンの顔を見るだけで「ドラゴン連れだった奴らだ」と分かる事もない。ラヴァニなりに、人であるヴィセとバロンに気を使っているのだ。
「……分かった。必ず有益な情報を持ち帰る。ラヴァニには電話できないってのが辛いな」
≪我はヴィセ達を送った後、仲間に近況を報告する。その後はモニカの近くに潜んでいるさ。ドラゴン化して我に語り掛けたなら、数十キロメルテ程は声が届く≫
話合いの結果、このままドーンに直接向かうのではなく、ドーンへの飛行艇が出ている町や村に立ち寄り、そこから飛行艇で移動する事になった。繋がりの気配を断ち切るなら、町に入る前から工作しなくては意味がないからだ。
2か月もあれば移動に時間が掛かってもジュミナス・ブロヴニクへ戻れる。
「明日起きたら、バロンに説明しないといけないな。泣かなけりゃいいんだけど」
≪もう随分と長く行動を共にした。バロンはしっかりと成長している≫
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