3-4.『気になることがあって』
「…………ぁ、やべっ」
唐突に響く間抜けな声。
何事か、と全員の視線が集中する先にあったのは――
口から大量の血を
その太い首に深々と刺さったナイフを握ったまま、
「どうしよバート、
周りの部下たちも理解が追い付かないようで、全員が目を白黒させて固まっていた。
「………………は、はは、」
たっぷり五秒の間を置いてようやく絞り出せたのは、自分でもびっくりするほど乾いた笑い声。
「なんだワイス、こっそり練習してた
皮肉を並べながら、視線で問い掛ける。
――おいまさか本当に殺してないよな?
しかしワイスは首を横に振る。
まるでサスペンスドラマの一幕――激情に駆られて人を殺した後、我に返った犯人のような
「や、気になることがあって……ほんの先っちょだけって思ったんだけど……そしたら、結構深く入っちゃって……」
おまけに、
さすがのワイスもやらかした自覚があるのか、その声は動揺に震えていた。
何故か興味本位でちょっと刺してみようとして――手を滑らせたらしい。
「あぁクソッ! 相手は普通の人間だぞ、死ぬに決まってんだろうがこの
額に手をやって空を
吐き捨てたその文句で、部下たちもようやく状況を飲み込めたようだ。
「あ、兄貴――ッ!!」「なにしてんだクソ
思いの
たちまち飛び交う怒号。爆発的に膨れ上がる殺気。
「でもでもでもっ、これでさぁ――」
待ちに待った
「
噴き出した濃血が宙に赤黒い虹を描く。
カーオーディオから流れ出した激しいシャウトが、断末魔の叫びを代弁する。
銀光が煌めき鮮血が舞い散り
ナイフが肉を裂く、
「あっはは!
押し寄せる空気の
ワイスを
通り雨に巻き込まれるのは
装甲バンの陰に転がり込む。愛車を盾にしたくはないが、命には代えられな――
開け放たれたリヤドアから、五人の男が
相棒による
「――本当にこの中にいるのか?」
「知るかよ、俺たちの仕事はこれを奪い返すことだ」
「もうとっくに死んでたりしてな?」
「中身を見られる前に金をもらえば良い」
「
潜めた声で交わされる会話。
アルバートにとって今回の依頼はいわば、来月まで生き延びるための
ただでさえ荷物がキナ臭い上、
マフィアにみすみす盗られたとあっては、賠償問題が持ち上がるのは目に見えている。
借金を背負うどころか、問答無用で海に沈められる可能性も……考えるだけで心臓が縮み上がる。
「クソ、どいつもこいつも……ッ」
小さく吐き捨てて〈ダンタリオン〉を発動。
急に現れたアルバートに、棺桶を担いだ男たちはぎょっとして立ち止まった。
その隙に
次いで耳を
最小限の回避動作。常人では目で追うことすら出来ず、弾が身体をすり抜けたように見えただろう。
「止まった的にも当てらんないとか、クソエイムすぎっしょー。お前らがあたしを
柔肌に掠りもしなかった銃弾の群れは、すぐ後ろで立ち止まっていた男たちを急襲。
肩や脚に被弾し、
「――おい嘘だろ」
驚いたようにあんぐりと
ひとりの少女だった。
薄手のネグリジェに包まれた
その場にいた全員の視線が釘付けになる。嫌な緊張感だけを残して、空気がしんと静まり返った。
年の頃は十代後半。
背まで流れる
小さな鼻に薄い唇、うっすらとそばかすの浮いた頬。細い首筋にはスカーフが巻かれている。
病的に白い肌は年相応に
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