生意気なメスガキにブチギレドッキリ仕掛けてみた(笑)

メスガキ退治


「みりあ、飯できたぞー」


「今行くねぇ♡」


上へ続く階段を正面にそう呼びかけると、バタバタと音を立てながら降りてきた。


「お兄ちゃん!今日のご飯はなぁに?♡」


「パエリアだよ」


「お兄ちゃんパエリア作れるなんてすっごぉい♡……他の人にも褒められるでしょぉ?♡……あっ、そっか♡お兄ちゃん友達も彼女さんもいないからぁ、褒められた事なんてあるわけないかぁ♡」


プークスクスの権化みたいな笑い方しやがって。


「うっせぇわ」


「なぁに?♡歌ってくれるのぉ?♡」


「歌の方じゃねぇわ」


相変わらず語尾にハートマークがつくような(というか確実に付いてる)甘ったるい声で俺をしっかり煽るみりあ。歳は4つも離れているが、彼女に俺を敬う態度は欠片も見られない。


こちとら大学1年とかいうめちゃくちゃ大事な時期に毎日飯作りに来てやってんだから少しぐらい感謝して欲しいものだ。


なんて考えながらも、食卓に二人分のパエリアを運んで席に着く。冷蔵庫に保存する残りの一つ分は夜勤で忙しいまりあさんみりあの母親の分だ。


「んじゃ、食べるか」


「あーい♡いただきまーす♡」


彼女と二人きりで囲む食卓。この光景も慣れたものだが、不意に違和感を覚える事がある。言うまでもなく、


恐らく6人用。以前、子供は元々沢山作る予定だったとまりあさんが教えてくれた。


「こうしてみりあと食卓を囲むようになってもう4年経つんだな」


「そうだね♡お兄ちゃんは4年経ってもボケぇ〜っとしてる♡ほんと、アホ面だよねぇ♡」


「悪かったな」


彼女のイジリは置いといて。


自分で言ったのにも拘らず、4年という月日に対して俺自身驚きを感じると共に、つい感慨に耽ってしまう。


……当時は本当に親子揃って荒れ果てていたな。


他に女を作って出て行った元夫の所為で、一時期まりあさんは精神的にも、肉体的にも、本当に危ない状態だったらしい。


それもそうだ。ただでさえ自分自身辛いはずなのに、父親を求めて泣きじゃくるみりあの面倒を見ながらも、家計を支える為に働く必要もあったんだ。


事が始まったのは、玄関前で倒れていたまりあさんを俺が発見し、母さんに助けを求めた事がきっかけだった。


隣人として浅からず深過ぎずの関係を保っていた母さんとまりあさんだったが、思い切って踏み込んだ母さんに、まりあさんが今まで貯めてきたものを大泣きしながら吐露する様子をリビングのドア越しに聞き、そこで俺は全てを知った。


そこで居ても立っても居られずに、「まりあさんがいない間は俺が娘さんの面倒を見ます!」なんて大きく出たのが若かりし頃の俺である。


最初こそ動揺していたまりあさんだったが、今度は俺に土下座をして頼み込んできたのが強く印象に残っている。


そこからみりあの面倒を見る事になった訳だが……。


「ん?♡どーしたの?♡」


こんなメスガキに育ちやがって……。


昔は「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」って震えた声で鳴きながら俺に懐いていたのに、今じゃあ語尾にハートマークは付くわ、人を小馬鹿にするわ、随分と頼もしい性格になってしまった。


そこで、ふと考えた。


もし、このまま彼女が精神的に成長せずに、見てくれだけ立派に成長して、体は大人、心は子供状態になってしまったら。


そしてそのまま社会に出て、取り返しのつかない事をしでかしてしまったら。


……彼女が自ら身を滅ぼす事が無いように、俺が介入する必要がある。











とかいう適当な理由を充てがって、今からドッキリを仕掛けようと思う。


その名も、ブチギレドッキリ!


ちょっと最近調子に乗ってる感のあるみりあに1発キツイ目に遭ってもらおうではないか!


内容は簡単、いつも通りに馬鹿にしてきたみりあに、1発ブチギレるだけだ。その後、一旦みりあの家から飛び出して、隣の俺の家からドッキリ大成功の看板を持ってくると。


……完璧だ。


これで俺が貯めに貯めたの鬱憤も晴れようぞ!


「お兄ちゃんニヤニヤしてて気持ち悪いね♡」


いや早速チャンスキタコレ!


いきなりだが、この好機は逃すまい!


「黙れ」


キツイ言葉を放ったので、一瞬胸がチクっとしたが、ここで止めたら全てが台無しになってしまう。


キレると怖い系男子に完璧になりきってみせる!


「ふぇ?」


「聞こえなかったか、黙れと言ったんだ」


いいぞいいぞ、めちゃくちゃ動揺してるなぁみりあさん。えぇ?


「ご、ごめん……今のは嘘で……」


「なあ、嘘なら何言っても良いのか?どうなんだよ、答えろよ」


「……だ、だめだと、思い、ます……」


「なら、どうして今まで俺を馬鹿にしてきた?ダメだと分かっていながら俺を馬鹿にし続けた訳だ。最低だな」


急にブチギレるお前の方が最低じゃい!とツッコまれそうだが、まあドッキリだ。許せ。


「ち、ちがう、の……ごめん……な、さい……」


「………………」


「本当に……ごめんな、さい……」



「…………はぁ」


俺のデカいため息にピクリと反応するみりあ。正直、滅多にない殊勝な態度のみりあは新鮮で面白い。


が、これ以上いじめるのもアレなので、そろそろ切り上げよう。


「もう、いいわ。お前の顔なんて見たくねぇ。これからまりあさんにも言うけど、今日から世話しに来るの止めるわ」


「え!?ちょっと、待ってよ……それは、やめてよ……」


「なんだよ、お世話係が一人消えるのがそんなに悲しいのか?前に言ってたもんな?お兄ちゃんはお掃除ロボットみたいって」


「ち、違う!それは冗談で!……ごめんなさい……ほんとに、そんな事思ってない!」


「もういい、帰るわ」


「待って!待ってよ!違うから!お兄ちゃん!」


彼女の声を尻目に、俺は玄関を出る。


……やべぇ、めちゃくちゃ興奮した。


普段のメスガキしてるみりあからは想像出来ないような乱れっぷり。中々心に来るものがあったな。


……まあそれは置いといて。


ここで15分ぐらい時間を置いて、ラストのネタバラシと行こうじゃねぇか!


==================================


「っしゃあ、そろそろ行くか!」


ミニミニ版ドッキリ大成功の看板(自作)を持った俺は、ゆっくりとみりあの家のドアを開ける。


鍵が掛かってたら合鍵を使うつもりだったが、その必要も無さそうだ。


「んじゃあ、失礼しま………ん?」


入った途端、どこもかしくも電気がついていなかった。軽くホラーである。


なんだか俺は怖くなって、早足でみりあを探していく。


リビング、いない。


洗面所、いない。


トイレ、いない。


そうなると、後はみりあの部屋だけになる。


恐る恐る部屋のドアを開けると真っ暗の部屋に、た確かに彼女はいたのだが───


「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん──


ゾッとして、ネタバラシの事なんてすっかり頭から抜けてしまった。


「お、おい……みりあ」


彼女の様子が異常過ぎて、恐る恐る声をかけてみると、彼女はゆっくりと俺に目線を合わせて──


「お兄ちゃんごめんなさい許してください調子に乗った私が馬鹿でした全部みりあが悪いですごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい──


俺の足に纏わりつきながら土下座してきた。


「ちょ、ちょっと……落ち着け!」


彼女の両肩を持って無理矢理彼女の体を起こす。


その時に看板が手から離れてしまったが、今はもうどうでも良い。


いじめ過ぎた。完全に俺が悪い。


みりあと目線を合わせる。すると、みるみる彼女は目に涙を溜めて、遂には溢れさせた。


「お兄ちゃん……捨て、ないで……もう、………」



……あぁ。







……本当に。







……本当に、俺は大馬鹿者だ。


父親がいなくなって以来、彼女が人との繋がりが失われるのを酷く恐れている事なんて、考えればすぐわかんだろ。


「捨てねぇ……捨てねぇよ……ごめん……」


「……ほんとぉ?」


「あぁ、本当だ。みりあが望むなら、一生そばにいてやる」


「……お兄ちゃん……うぅ……ぐす……」


みりあは俺の胸に顔を埋めてきた。勿論、受け入れる。次第に胸元が濡れてきたが、気にならない。


5分、それとも10分ぐらいだろうか、みりあが泣き止んだ事を察知した俺は、ゆっくりと彼女の顔を胸から剥がす。


「……ごめん、みりあ。全部冗談だったんだ」


俺自作のミニミニ版ドッキリ大成功の看板を拾い、みりあに見せる。


暗くてよく見えなさそうなので、電気を付けた。


「ドッキリ……大成功?」


「そうだ。みりあに怒ってみたらどうなるのかなって……ただの出来心だったんだ。ごめん」


「みりあも、謝らないといけないこと、ある」


彼女はぎゅっと服の袖を掴んで、俺に目線を合わせてきた。まるで、何か大きな事を言うようで。


、つい意地悪しちゃって、ごめんなさい!」


……えぇ?


「俺の事が……好き?」


突然の急展開に、俺自身よく頭が働かない。

みりあが?あのメスガキの?


しかも意地悪しちゃう理由完全に男子小学生じゃん。


「うん……いつも私のお世話をしてくれて、頼り甲斐があって……口は悪いけど、本当は優しくて……そんなお兄ちゃんが、大好き……」


みりあは顔を真っ赤にしながらも、俺から目を離さない。答えをくれと、言外に伝えているのだろう。


「……ごめん、みりあをそういう目で見た事は無い」


はっきりと、伝えた。


「そっか、そうだよね……」


今にも泣き出しそうな震えた声。こっちも申し訳なくなって、いたたまれなくなる。


「「……」」


沈黙が、場を支配する。














「諦めなくても、いいかな」


みりあはぽつりと、そう零した。


「あぁ」


「お兄ちゃんに好きになってもらえるように努力して、いいかな」


「あぁ」


「そっか……なら───頑張っちゃうね」


そう言い終わると、みりあは俺に近づいて──


「だーいすきだよぉ♡」


耳元で、そう囁きやがった。


いつものメスガキ状態に戻ってしまった彼女だが、妙にドキッとしたのは内緒だ。


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補足


・主人公に怒られてる時にはハートマークが消えている(素が出てる)ので、普段の甘ったるい声は、彼女が作っている物だとわかる。


・主人公の名前は内緒。


・主人公と、お母さんの献身的な支えもあって、今ではまりあさんもめちゃ元気。


・ドッキリ大成功の看板はガチで小さい。


・主人公は18で、みりあは14。主人公が14歳の頃に10歳のみりあの面倒を見始めた。


・みりあが主人公を好きになったのは11歳の頃。初恋だったのでどう接して良いか分からなかったが、最終的に意地悪して接するのがスタンダードとなってしまった。

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生意気なメスガキにブチギレドッキリ仕掛けてみた(笑) @qpwoei

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